社会人が仕事に役立つ専門的な知識や技術を大学などで改めて習得するための教育。リカレントは英語で「再発する」「循環する」を意味する。超長寿社会を迎える中、年齢を問わず新たな挑戦ができる社会を目指す安倍晋三首相の看板政策「人づくり革命」の一つに位置付けられる。政府は、働く人のキャリアアップや転職、職場復帰につなげたい考え。国が指定する大学などの講座は、雇用保険を財源とする教育訓練給付制度によって受講料の補助を受けられる。政府は、社会人の費用負担を軽減して多様な学び直しを促すため、対象講座を拡大する。
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リカレント教育とは,人生のあらゆる段階で,個人の興味・関心や職業上の必要性などに応じて自由に学習できるよう,正規の学校・大学教育と労働とが教育-仕事-教育-仕事…というように相互流動化される教育戦略,教育政策を意味する。リカレント教育の定義によれば,正規の学校教育,現職教育,成人教育に関わるあらゆる教育段階に関連する多様なプログラムを包括する。しかし,現実には中等教育終了後の教育に限定して考えられ,学校教育修了後,社会人が職業から離れて行うフルタイムの再教育や職業に就きながら行うパートタイムの教育を指すことが多い。
リカレント教育の構想は,スウェーデンの教育大臣であったパルメ,O.(Olof Palme)が,1968年にフランスのヴェルサイユで開かれた第6回ヨーロッパ文部大臣会議で,スウェーデンの新しい教育政策の方向性として提示したことに端を発する。パルメはその後首相になるが,教育大臣として後を継いだカールソン,I.(Ingvar Carlsson)は,パルメによるリカレント教育の考えを継承し,スウェーデンにおける制度整備に尽力した。
当初,リカレント教育が注目された背景としては,第1に若年層と中高年層といった世代間などさまざまな社会的集団に対する教育の平等を求める議論に合致していたこと,第2に学校教育の長期化や青少年の社会的成熟の遅れに対する認識から,教育拡大に疑問が呈されていたこと,第3に,量的にも質的にも教育と労働市場との間にミスマッチがあり,若年失業につながる早い段階でのドロップアウトの存在から,学校教育に対する幻滅や教育制度に対する不満が生じていたことなどが挙げられる。そのため,学校・大学の年限延長や,現職教育による非定型教育(ノンフォーマル教育)の拡充整備を無制限に行うのではなく,教育の機会等の拡大をめざし,総合戦略的に教育政策を行う新たな発想に期待が寄せられたのである。
その後,リカレント教育はOECD(経済協力開発機構)の教育政策論の中に取り入れられ,1970年以後世界的に普及,展開されるようになる。OECDのアプローチの特徴は,義務教育以降の教育や義務教育をリカレント教育の政策に適合させるために総合的政策が必要であること,そして有給教育休暇制度・キャリア体系・報酬制度や意思決定への参画など,職業の世界も変革する必要があることを強調する点である。このように,OECDがリカレント教育を積極的に取り上げたのは,リカレント教育が労働市場を想定した教育政策であり,労働政策や若年失業者問題に対し,具体的な政策提言が可能であったことによる。
[リカレント教育実施の利点と課題]
リカレント教育の提案の斬新さは,①生涯学習を具現させるために,特定の戦略すなわち教育とその他の諸活動を交互に行うという戦略を明確にする必要があるという認識,②リカレント教育の戦略と,経済的,社会的,労働市場的諸政策との関連,③個人の生涯にわたる教育とその他の形態の学習とを交互に行うという原則に沿って再編成ができるように,現行の正規の教育制度を変革することなどである。
一方,リカレント教育を実施する際の課題として,進学を一定期間延期する場合の方途,成人の学習能力の評価,早期から能力開発が必要で技術的に十分熟達するまでの継続学習を必要とする専門分野への対応,リカレント教育の導入が逆に教育格差を拡大する場合の対策,職場を離れて学習する労働者の賃金損失分への公的補償,労働者の学習権の保障,社会的な教育経費の増大などが挙げられる。
さらに,職業人がリカレント教育といった生涯学習の機会を享受するためには,いくつかの前提がある。第1に職業人に教育機会を提供しうるよう大学が開放されなければならないこと,そして第2に,職業人が職場を離れ学習する学習権が保障されることである。これは有給教育休暇制度の整備ということにつながる。さらに第3には,多様な教育方法により,断続的に習得した単位を換算し,評価され認証されることも重要である。リカレント教育の発想にたてば,従来の人生初期に集中的に教育を受ける学校教育や高等教育の構造,あるいはその内容や方法の構造的変革が求められ,弾力的な制度運用が必要となるのである。
リカレント教育は,青少年が社会から遊離することなく,労働や職業選択を念頭においた現実感覚を持った学習を可能にする。しかし,教育制度の柔軟化,整備がなされた上で,職業人がリカレント教育を受けるかどうかは,最終的には個人の意欲や意志に依存している。成人学習の基本が自己決定学習であるとするなら,学校教育においてもリカレント教育を意図した自己教育力の育成に主眼が置かれなければならないであろう。
著者: 岩崎久美子
参考文献: OECD/CERI, Recurrent Education: A Strategy for Lifelong Learning, 1973. (「リカレント教育―生涯学習のための戦略」『教育調査』第88集,文部省大臣官房,1974)
参考文献: Tom Schuler and Jacquetta Megarry(eds.), World Yearbook of Education 1979: Recurrent Education and Lifelong Learning, Kogan Page, 1979.
出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報
広義には社会人が人生の途上でさまざまな形で学ぶことを意味するが、狭義には高等教育機関など整った教育機関で教育を受けることを意味する。「回帰教育」とか「還流教育」と訳されることもある。リカレント教育の考えは、スウェーデンで1968年に高等教育制度審議のために設置された教育審議会(U68と略称)の第二次報告「高等教育―機能と構造」で示された。翌年の第6回ヨーロッパ文相会議で、スウェーデンの文相からこれについての報告があり、その後OECD(経済協力開発機構)がこの理念に基づく教育のあり方について提唱することになった。職業―教育―職業といったサイクルを確立することは、ユネスコ(国連教育科学文化機関)の提唱した生涯教育を具体化するものとしてとらえられる。
スウェーデンでは、1977年の高等教育改革で、25歳以上で、4年以上の職業経験(育児を含む)をもつ者を高等教育機関に受け入れる特別な選抜方法を採用し、一時は大学生の半数が成人学生であった。そこには、教育機会の均等化とともに、産業構造の変化・技術革新への対応ということがあった。しかしこの制度は、若者の高等教育への受入れ枠を狭めるとする批判もあって、成人入学枠を縮小することも行われた。多くの国でパートタイムの学生を増やしたり、単位の累積を認めて職場と学校を行き来できる仕組みを整えたりしている。イギリスでも、1971年に、資格を問うことなく成人を入学させ、放送などを通じて教育を行う公開大学Open Universityが発足し、アメリカでは、コミュニティ・カレッジが、開かれた教育機関として希望者に多様な種類の教育を提供している。
日本でも、第二次世界大戦後、大学や高等学校で通信教育が行われてきたが、新たに放送大学が設置されて、1985年(昭和60)以来、成人学生を受け入れるほか、多くの大学が社会人入学の制度をとるようになっている。単位の累積による学位取得も可能な科目等履修生の制度の採用も広がっている。自治体、高等教育機関、企業等でリカレント教育協議会を構成し、リカレント教育講座の充実に努めるところも増えている。職業技術教育を中心とした専修学校も、リカレント教育の機能を果たしている。
多くの国では、いわゆる終身雇用制でないため、教育機関での職業技術についてのリカレント教育が必要とされる度合いが高い。その点、日本では職業技術は企業内教育によるところが大きかったが、派遣社員の増加にみられるように、従来の雇用形態が揺らぎ始めており、リカレント教育機関の整備の必要性が増しつつある。
[上杉孝實]
『佐々木正治・諸岡和房編『世界の生涯教育』(1991・亜紀書房)』
(横田一輝 ICTディレクター/ 2018年)
出典 (株)朝日新聞出版発行「知恵蔵」知恵蔵について 情報
出典 図書館情報学用語辞典 第4版図書館情報学用語辞典 第5版について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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