日本大百科全書(ニッポニカ) 「リプセット」の意味・わかりやすい解説
リプセット
りぷせっと
Seymour Martin Lipset
(1922―2006)
アメリカの政治社会学者。戦後の行動科学的な政治社会学の創設者の一人。1960年代よりハーバード大学、スタンフォード大学などで教鞭(きょうべん)をとり、1990年から2006年までジョージメースン大学で教えた。リプセットが実践した分野は、古典的な社会理論や政治理論で取り上げられていたテーマを分析的な仮説として再提出し、それを経験的なデータによって実証する作業である。たとえば、国家や社会の発展を、一方では工業化・都市化・国民総生産・読み書き能力のインデックスによって数量化し、他方では正当性と有効性という概念軸を設定し、両者を関連させることで政治的安定を論じている。それは、合意と分裂を社会のなかで位置づけようとする現代民主政治の基本問題への彼の分析的な回答である。リプセットはつねに比較の視座にたち、価値体系、学生運動、知識人論、社会移動などの領域での比較研究はすでに現代の古典ともよばれるべき内容をもっている。晩年には、政党政治の分析から政党政治論に向けて積極的な研究を発表した。
[内山秀夫]
『S・M・リプセット著、内山秀夫訳『政治のなかの人間』(1963・東京創元社)』▽『S・M・リプセット、R・ベンディクス著、鈴木広訳『産業社会の構造――社会的移動の比較分析』(1969・サイマル出版会)』▽『S・M・リプセット著、内山秀夫・宮沢健訳『国民形成の歴史社会学――最初の新興国家』(1971・未来社)』▽『S・M・リプセット著、鈴木広他訳『革命と反革命――歴史の断絶と連続性を考察した「国際比較研究」』(1972・サイマル出版会)』▽『S・M・リプセット編、矢沢修次郎・澄子訳『現代政治学の基礎』(1973・東京大学出版会)』▽『白鳥令編『現代政治学の理論 上巻』(1981・新装版・1993・早稲田大学出版部)』