政治社会学(読み)せいじしゃかいがく(その他表記)political sociology

日本大百科全書(ニッポニカ) 「政治社会学」の意味・わかりやすい解説

政治社会学
せいじしゃかいがく
political sociology

社会の政治的領域およびそれと他の領域との関係を社会学的に研究する学問。より具体的にいえば、民衆の社会的意識・階級階層人種・職業・性別を中心とする集団形成とその展開、文化・社会構造・社会体系などの社会の諸領域を、支配と服従という政治的な権力関係の視点から実証的な解明を試みる学問とみられる。したがって、政治学と社会学ではそれぞれその一分科と考えられている。近代国家の発達とともに、政治的領域が経済や文化などの他の社会的領域から相対的に独立して、それ自体の独自の自律性をもった部分社会として成立し、それを研究対象とする近代政治学が成立した。それは、主として、当時政治的領域をほぼカバーしていた近代国家の政治制度とその作用の研究に尽きていた。しかし20世紀に入って、近代国家の構造的変質とともに、政治制度とその実際との乖離(かいり)現象が顕著となり、1920、30年代に入って、それに触発されてアメリカ政治学では制度論から過程論への方法論的転換が進行し、政治学の補助科学として従来の法律学にかわって社会学や心理学が用いられるようになった。とりわけ官僚制、政党、圧力団体マスメディア、世論、選挙と投票行動などが公式の政治制度を実際に動かしている現実が明らかになっていくにしたがって、こうした政治現象を社会学的分析方法や概念を用いて研究しようとする政治学が優勢となり、それは、広義の政治学の一分科としての政治社会学そのものと化してしまった。

 他方、20世紀に入って、社会学では社会のあらゆる現象をその研究対象とする社会の一般理論を目ざす傾向が強まり、当然、社会の諸領域の政治現象の研究を目的とするその特殊部門としての政治社会学が生まれた。その典型はウェーバーの支配社会学、パレートのエリート社会学、ミヘルスの政党社会学などである。こうして政治社会学は政治学と社会学のそれぞれの特殊部門として成立し今日に至っているが、この学問の定義もその研究対象や構成についても両者の間で意見の一致がみられていない。

 いうまでもなく、政治的領域は他の領域から相対的に独立してはいても、それら他の領域の影響を絶えず受けており、それはそれで反作用を行っているが、政治的な権力関係に焦点を当ててこの両者の相互規定関係を研究の主題とする学問こそが政治社会学といえよう。こうした観点にたってみるなら、政治の経済的・階級的基礎を明らかにしたマルクス史的唯物論や、それに対抗して政治を規定する文化的要因を強調したウェーバーの支配社会学はその古典的業績とみられる。1970年代までは政治社会学には、これらの二つの伝統を引く大きな流れがあった。しかし、その後第三の新しい流れが台頭した。

 1970年代までに社会福祉国家体制の確立をみた西欧先進諸国では、肉体労働や、労働条件の厳しい職業を忌避する傾向が強まり、その穴を埋める労働力として移民の流入が増大した。それとともに、社会の伝統的文化の揺らぎが始まった。次いで1980年代からの「経済と情報のグローバリゼーション」の進展により社会福祉国家体制が空洞化し、その帰結として格差社会が出現した。さらに、EUに象徴される超国家組織の出現とそれに対をなす地域社会の自立化の傾向によって、国民国家のあり方、そして民主政治のあり方そのものが問われるようになった。こうした新しい社会現象を研究対象とする政治社会学の第三の流れが生まれることになった。

 それは、従来の二つの系譜を異にする政治社会学がその研究対象を国民国家に限定していたのに対し、揺らぎだした国民国家の態様、すなわち
(1)国家構成員の多様化とその帰結として多民族、多人種社会の出現、(2)(1)に伴う市民権citizenshipのあり方の変容、(3)民主政治のあり方、(4)新しい秩序形成方法としてのガバナンス、(5)政党などの集団のあり方の変容や国際的な広がりをもつ社会運動の出現と南北問題、(6)社会のあり方の根本的な変容を迫る新しい思想、たとえば環境保護主義、フェミニズム、多文化主義、ポストモダニズムなどの台頭など、を支配と服従という政治的な権力関係の視点から研究しようとする傾向を示している。この流れはその対象が多様であるのみならず、当然そのアプローチも多様である。

この第三の流れの政治社会学の代表者は、フーコー、ハバーマス、ルーマン、ギデンズ、リプセット、ロッカンStein Rokkan、スコッチポルTheda Skocpol、ウォーラーステインなどである。そしてイギリスで盛んなカルチュラル・スタディーズもこれに分類されるであろう。

[安 世舟]

『綿貫譲治編『政治社会学』(『社会学講座 第7巻』1973・東京大学出版会)』『秋元律郎・森博・曽良中清司編『政治社会学入門』(1980・有斐閣)』『T・ボットモア著、小山博也訳『政治社会学入門』(1982・新評論)』『K. Nash, A. Scott:The Blackwell Companion to Political Sociology (2001, Blackwell Publishers)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「政治社会学」の意味・わかりやすい解説

政治社会学
せいじしゃかいがく
political sociology

政治的行為,政治意識,政治現象,政治集団,政策などを社会学的分析や理論によって明らかにすることを目標とする社会学の一分野。社会学の分科的部門として,現代社会の社会過程を政治過程の側面からとらえるものとして重要な地位をもつ。特に政治制度や機構を支える社会的背景,国民の政治参加の行動様式,圧力団体,政党運動,大衆運動などの政治過程の社会的側面をとらえようとするところに特徴がある。デュルケム派の G.ダビや,古くはアリストテレスの政治学を始点として,近代の J.ロックや J.-J.ルソーらの政治学が,一面において社会学的な要素を含んでいた。政治社会学はこれを明確な社会学的な意識をもって裏づけるところに成立する。こうした研究は A.コントの実証研究論,H.スペンサーの政治制度論,W.バジョット,G.ウォラス,W.リップマンらの世論研究,R.ミヘルスの政党論にみられる。

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