リベラルアーツ・カレッジ

大学事典 の解説

リベラルアーツ・カレッジ

学生総数が数百から二千数百程度で,基礎的な学術分野や芸術の学士課程教育に専念する,私学中心の全寮制の大学。全米各地に数百校が所在するが,自他ともにリベラルアーツカレッジと認めるのは百数十校で,それ以外ではビジネスや教員養成などの課程の卒業生が増加しつつある。教育条件や卒業生中の博士号取得者の割合等の基準で上位校と目されるアムハースト・カレッジウィリアムズ・カレッジやスワスモア・カレッジ等は,アイビー・リーグ校と入学生の獲得を争う。卒業生の多くは研究大学大学院へ進学し,さまざまな分野において指導的な役割を果たしている。

[科学者の輩出]

20世紀中葉,リベラルアーツ・カレッジは科学者の養成に関して脚光を浴びた。1950年の科学者の出身大学(学士課程)の大規模調査の結果,卒業生中の科学者の輩出率で,大方の予想に反し,上位50校中39校をリベラルアーツ・カレッジが占めたのである(Bernard Barber and Walter Hirsch, eds., The Sociology of Science)。しかも第1位のリード・カレッジ(アメリカ)(Reed College)は,科学の分野で世界に冠たるカリフォルニア工科大学の2倍の割合で科学者を養成したが,学生数わずか443名の小規模カレッジであった。他方,大規模な研究大学で50校に入ったのはシカゴ大学(学生数9304)ジョンズ・ホプキンズ大学(同4489)ウィスコンシン大学(同9355)の3校に過ぎなかった。

 その後の半世紀,大学での科学研究も著しく専門化・巨大化したが,リベラルアーツ・カレッジは一流の科学者を養成し続けた。20世紀末の5年間の理工の博士号の取得者について,同様な出身大学(学士課程)100名中の平人数に関する調査が2000年に公表された(Steven Koblik and Stephen Graubard, eds., Distinctively American)。確かにこの間,理工に特化した大学の躍進は目覚ましく,かつて2位に甘んじたカリフォルニア工科大学は,今回は100名中42名で群を抜き,22名のMIT(マサチューセッツ工科大学)が続いた。しかし,そのあとの3~6位は19名から14名までのハーヴェイ・マッド・カレッジ,スワスモア・カレッジ,カールトン・カレッジ,リード・カレッジであり,上位16校の半数はリベラルアーツ・カレッジであった。同様に,社会科学分野での博士号取得者の割合でも研究大学を圧倒している。1998年度の上位10校はスワスモア,トーマス・アクィナス,リード,ブリンモア,シカゴ大学,ベロイト,シマー,オバリン,ハーヴァード大学,ハヴァフォードの順で,大学を付した2校を除き,すべてリベラルアーツ・カレッジであった。

[教育上の特質]

リベラルアーツ・カレッジが教育上の優れた成果を挙げている理由の一つは,教員の境遇にある。UCLAのアレキサンダー・W. アスティンが行った調査研究によれば,客観的な指標に基づき点数化すると,上位のリベラルアーツ・カレッジの教員はさまざまな種類の大学の教員中,研究と教育の最上のバランスを保っている。研究大学は学士課程の教育を相対的に軽視し,学士課程中心の大学の多くでは真摯な研究活動は活発とはいえない。上位のリベラルアーツ・カレッジの教員だけが研究論文を発表しつつ,教育にも真剣に取り組み,結果として優秀な学生との共同研究(フンボルト理念)を実現しやすいという(Distinctively American)

 リベラルアーツ・カレッジは一般教養の教育に特化しているわけでなく,とくに第3,4年次においては専攻分野を集中的に学ぶ。上位のカレッジでは,教育に専念する教員と学生との人数比も1対8ないし9で,セミナーや実験に多くの時間を費やす。学生は教員から一方的な教えを受ける学生としてよりも,むしろ研究協力者として専門を身につけ卒業するといって過言ではない。にもかかわらず,自分の専門分野だけでなく,他分野もかなり学ぶよう義務づけられてもいる。また全寮制の中で,専攻や関心の異なる友人たちと4年間の共同生活を送る。

 リベラルアーツ・カレッジはもともと基礎学術の訓練を主とするが,とくに上位校での専攻者数は政治学,経済学,英語学,生物学歴史学,心理学,数学等のオーソドックスな専門分野が圧倒的に多く,近代外国語や環境問題,神経科学等の学際的分野の学生は一桁少ない。下位のカレッジでは商業・マーケティング,健康科学,教育,心理学等が中心で,職業の準備に即応しており,パターンとしては修士号までを授与する大学,大規模な研究大学でも中堅の機関の場合に近い。他方,上位と中堅の研究大学では工学専攻生の割合が高く,ドイツ科学の相対的な衰退と英米大学の興隆との説明にあたって,20世紀の科学研究には工学が不可欠としたベン・デヴィッド(J. Ben-David)の論を裏書きしている(Universities and Academic Systems in Modern Societies. Norman Kaplan, ed., Science and Society)。ただし,スワスモア等の例外を除いて,リベラルアーツ・カレッジは工学専攻課程を持たず,研究の諸条件も研究大学に劣る場合がほとんどである。社会科学専攻の卒業生の割合が高いことが研究大学との目立った共通点である。

 合衆国の大学では平5%の学生が在学中に海外留学を経験するが,上位のリベラルアーツ・カレッジでは40%に達する。大きな研究大学に比して多様な研究機会・施設等が限られているにもかかわらず,学生の旺盛な好奇心が養われている証拠の一つである。19世紀末には死滅を宣告されたリベラルアーツ・カレッジではあるが,合衆国の伝統的なカレッジに近い形態を保持したその歴史を現代まで辿ると,ほかのどの種類の大学よりも,アメリカ自体と浮沈をともにする機関であると言える。
著者: 立川明

参考文献: Steven Koblik & Stephen R. Graubard, eds., Distinctively American: The Residential Liberal Arts Colleges, Transaction Publishers, 2000.

参考文献: Victor E. Ferrall, Jr., Liberal Arts at the Brink, Harvard University Press, 2011.

出典 平凡社「大学事典」大学事典について 情報

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