ドイツの軍人。貴族出身が優位にあるドイツ第二帝政の陸軍将校団にあって、非貴族出身の近代的テクノクラート型の参謀将校の代表的一人として知られ、陸軍拡張を主張した。第一次世界大戦では初戦に西部戦線でリエージュ攻略を指導した。その後、東部第8軍参謀長に転じ、ヒンデンブルクの下で、タンネンベルクの戦いでロシア軍に大勝した。1916年8月、ヒンデンブルクとともに第三次最高軍司令部を構成、新設の第一幕僚長の職につき、実質的に参謀総長の役割を果たした。総力戦体制確立を推進し、政治にも積極的に介入して宰相ベートマン・ホルウェークを失脚させるなど、ルーデンドルフ独裁とよばれる強力な指導を発動した。1918年9月、ドイツの軍事的勝利の見込みがないことを認め、政府に講和交渉を急がせたが、10月末に解任された。ドイツ革命時には一時国外に逃れていたが、帰国後、国粋派の指導者格になって、カップ一揆(いっき)などの反共和国的政治運動に関与し、1923年11月のヒトラー一揆にも参加したが、裁判では無罪となった。1925年ナチスなどに推され、大統領選に出馬したが敗れ、国会議員を1928年まで務めたのち、政界から退いた。晩年は民族刷新を唱えるゲルマン的新宗教運動に入った。彼の総力戦論および第一次世界大戦時の戦争体制は、戦前の日本にも紹介され、軍部などに少なからぬ影響を与えている。
[木村靖二]
ドイツの軍人。第1次世界大戦前,軍備拡張を主張し,テクノクラート型の有能な参謀将校として昇進,大戦勃発とともに西部戦線でリエージュ攻略に成功,その後東部第8軍参謀長となってヒンデンブルクを助け,タンネンベルクの戦に勝利して名を挙げた。1916年ヒンデンブルクとともに最高軍司令部に移り,参謀次長として大戦後期の総力戦体制を実質的に指導,軍部独裁を確立した。18年9月,敗北を認め,政府に休戦・講和を要求,10月退任。ワイマール共和国前半期,敗戦は国内の裏切りが原因とする〈背後からの一撃〉説を早くから唱え,反共和国的国粋運動の有力者となり,カップ一揆,ヒトラーのミュンヘン一揆にも関与した。
執筆者:木村 靖二
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1865~1937
ドイツの軍人。第一次世界大戦でヒンデンブルクを助け,タンネンベルクの戦いの勝利をはじめ数々の戦勝をもたらし,1916年8月ヒンデンブルクが参謀総長になると,参謀次長として事実上ドイツの戦争指導にあたり,強力な軍事独裁を実施した。ドイツ革命の際はスウェーデンに逃れるが,やがて帰国しナチスと結びヒトラー一揆に参加したり(23年9月),大統領候補に推されたりした(25年)。
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…イギリスでは政治家が国家総動員を推進したのにたいして,ドイツでは軍人が担当した。封鎖されやすいドイツでは,開戦直後に実業家W.ラーテナウの指導下に戦時原料局が設立され,大工業家や銀行家の協力を得て工業原料の統制を軌道にのせていたが,1916年8月にはヒンデンブルクを参謀総長とする最高統帥部による軍事独裁が成立し,ルーデンドルフが参謀次長兼兵站総監として実権をにぎり,国家総動員を推進した。W.グレーナー中将を長官に戦時庁がつくられ,軍需産業界に巨額の融資をおこなうとともに,労働組合指導者の協力をとりつけて男子労働力の全面動員をはかる祖国補助勤務法を実行に移した。…
…開戦とともにドイツ軍はシュリーフェン計画にしたがって行動を開始し,そのためフランスとの国境の要塞を直接突破することを避け,ベルギーの中立を侵してフランスに殺到しようとしたが,ベルギー軍の抵抗は意外に頑強で,予定どおりの進撃はできなかった。 一方,サムソノフAleksandr V.Samsonov(1859‐1914)とレンネンカンプPavel K.Rennenkampf(1854‐1918)両将軍の率いるロシア軍の動員は迅速で,そのため参謀総長モルトケはP.vonヒンデンブルクとE.ルーデンドルフを急きょ起用,1914年8月23日から9日間にわたって東プロイセンのタンネンベルクで会戦し,ドイツ軍はロシア軍を包囲殲滅(せんめつ)することに成功した。けれども,タンネンベルクの戦闘のため,西部戦線の重要な右翼に配置されていた師団の一部を東部戦線に移すというように,シュリーフェン計画に変更を加えたことがその後の戦局の全体に深刻な影響を及ぼすことになり,早速9月5日から約1週間にわたって戦われた西部戦線でのマルヌ会戦では,ドイツ軍はジョッフルJoseph J.C.Joffre(1852‐1931)の率いるフランス軍の反撃を受け敗退した。…
※「ルーデンドルフ」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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