新宗教運動(読み)しんしゅうきょううんどう

日本大百科全書(ニッポニカ) 「新宗教運動」の意味・わかりやすい解説

新宗教運動
しんしゅうきょううんどう

広くは、既成の宗教と異なる新しい教義や実践を打ち出した宗教運動一般をさす。宗教運動のなかには、既成の教団の主体となる人々の指導の下に行われる信仰復興運動や布教運動、あるいは既成の教団秩序の枠内にとどまろうとする改革運動もあるが、それ以外のほとんどの宗教運動は、その発生当初、この名でよびうるものであったことになる。

 これに対してより狭い意味では、大衆によって担われた組織的な宗教運動をさす。ここで「大衆」という場合、社会的に支配階層・上流階層でないという意味と、既成宗教の聖職者(出家)層に対する一般信徒(在家)層という意味との二つを含んでいる。「組織的」というのは、同じ大衆による宗教運動でも流行(はやり)神のように信者たちが組織をつくらないか、つくってもかなり緩やかな組織であるような民俗宗教的な宗教運動と区別するためである。このような大衆の組織的宗教運動が存続しえたのは主として近世後期以降であるから、時代的に新しいという意味も「新」という字に込められるのである。以下、この意味での新宗教運動について解説する。

[島薗 進]

特徴

新宗教運動が発生・成長するのは、大衆が既存の宗教では満たされない新しい宗教的欲求をもつようになる社会変動の時代である。それはまた、共同体的社会結合から組織的社会結合への転換の時代でもあり、官僚機構、企業、政党、組合など、急速に成長するさまざまな近代的組織と競い合うようにして、新宗教運動の組織も成長していく。したがって新宗教運動に吸収されるのは、他の組織の恩恵を被りにくい人々であるといわれる。こうした大衆自生的な宗教組織は、伝統的宗教教団が独占権をもっており、宗教的寛容の度合いの低い社会、すなわち国教制度の影響力が強い社会では許容されにくいので、そうした社会では新宗教運動が発生・成長しにくい。

 教義や実践の様態はさまざまであり、明快な共通点を引き出すのは困難であるが、大まかにいって次の二つの傾向を指摘することができる。

(1)宗教的価値の与え手と受け手の区別が薄い――伝統的な宗教では聖職者と俗人の宗教活動における地位の相違は歴然としており、生活形態にも根本的な相違があるが、新宗教運動では熱心な信徒が教えを説いたり儀礼を執行したりする機会が多く、そうした信徒が聖なる地位や役割を与えられやすい。

(2)現世への関心が強い――伝統的な宗教では死後の運命への関心が強く、また現世的な諸価値を否定する傾向が強いが、新宗教運動では(ミレニアムや終末観を旗印とするものもかなりあるものの)全体として現世の諸問題への関心が強く、現世の生活や富や幸福を肯定する傾向がある。伝統的宗教の聖職者は、独身制などその生活形態そのものが現世的価値の否定を含んでいるから、(1)と(2)は相互に関連する特徴である。

[島薗 進]

分類

新宗教運動をその文化的源泉、ないし文化接触との関連という観点からみると、次の三つの型に分類できる。

(1)土着(主義)的宗教運動――歴史宗教のあまり浸透していなかった地域にキリスト教イスラム教に支えられた文化が浸透していくとき、そうした外来宗教の強い影響を受けつつも、土着の宗教観念を前面に掲げて登場する宗教運動。メラネシアカーゴ・カルト、北米先住民(アメリカ・インディアン)のゴースト・ダンスやペヨート・カルト、中央アフリカキンバンギズムなどがその例である。

(2)習合的宗教運動――歴史宗教が深く浸透しつつも民間信仰があまり排除されていない習合的宗教文化の伝統のもとでおこり、運動自体複雑な習合を示すもので、中国の太平天国や朝鮮の天道教のように新しい外来宗教の影響をかなり受けている場合と、日本の新宗教のようにあまり受けていない場合がある。

(3)分派(セクト)的宗教運動――排他的な宗教伝統のもとで既成の正統派教団を批判し、そこから分かれていく形で生じるもので、近代の西欧、とくに19世紀以降のアメリカで盛んに発生・成長した。日本の本門仏立(ほんもんぶつりゅう)講や創価学会は(2)の要素も含むが、この型に属せしめるべきであろう。なお、1960年代後半以降、アメリカ合衆国西海岸を中心に、西洋の文化的伝統に多少なりとも背を向けた宗教運動が主として若者の信徒を獲得しているが、これは情報産業と結び付いた大衆文化という現代的な習合的文化の影響を強く受けたもので、(2)の新たな形態とみなしうる。

[島薗 進]

日本の新宗教(新興宗教)

日本の新宗教運動のうち教団化の度合いの高いもの、または新宗教教団を自称しているものを新宗教(新興宗教)とよんでいる。富士講や御嶽(おんたけ)講のような教団化の度合いの低い初期の新宗教運動や、実践倫理宏正(こうせい)会や修養団のように宗教教団を自称しないものは、新宗教に含めないことが多い。日本の新宗教においては、先に新宗教運動の一般的な特徴としてあげた2点が顕著にみられるほか、(1)生命の根源(仏・親神など)と個別的生命である人間との一体化を説く生命主義の教え、(2)教祖や教団指導者たちといったカリスマへの信仰、(3)病気平癒とそのための救済儀礼への強い関心、(4)個別的人間関係に即した倫理的指導、などが共通の特徴となっている。

 新宗教の歴史を四つの時期に分けるとすると以下のようになる。

 第一の時期は幕末維新期(19世紀前半から1900年ごろまで)で、如来(にょらい)教、黒住(くろずみ)教、天理教、金光(こんこう)教、丸山教、蓮門(れんもん)教のように、先進地域の農村を基盤として発生した習合的宗教運動と、本門仏立講のように都市を基盤とした分派的宗教運動の二つの流れがあった。どちらの流れも、既存の政治的・宗教的勢力から圧迫を受けがちだったが、前者の諸教団の多くは、教派神道(しんとう)という制度的枠組みの下で、教会連合体という組織形態をとって成長し、明治中期(19世紀末)には西日本を中心に都市、農村を問わず広く浸透した。

 第二の時期は明治末期から第二次世界大戦終了(20世紀前半期)までで、その前半には大本(おおもと)教、徳光(とくみつ)教(ひとのみち教団前身)、一燈園(いっとうえん)などが近畿の都市地域で活動を始め、後半にはこれら諸教とその後に発生した天理本道(ほんみち)(ほんみちの前身)、霊友会、生長の家、世界救世教などが近畿・関東を中心に急速に成長した。これらは、この時期に都市布教に成功した天理教、金光教と並んで、都市の流動人口を初めて組織的にとらえた運動であった。しかし、大本教、ひとのみち教団、天理本道などは政治的志向性をもっていたこともあって国家権力による厳しい弾圧を受けるなど、戦時体制下では新宗教の活動は一般に著しく低下した。

 第三の時期は第二次世界大戦の敗戦から高度経済成長の収束期(1970年ごろ)までで、信教の自由の体制の下、まず霊友会、生長の家、世界救世教のように敗戦前に基礎を築いた教団が、ついでPL(ひとのみち教団の後身。パーフェクト リバティー教団)、立正佼成(こうせい)会、創価学会が、増大する都市住民を吸収して短期間に巨大教団に成長し、多くの場合、全国を覆う地域割り組織をつくりあげた。そのほか、天照皇大神宮(てんしょうこうたいじんぐう)教、真如苑(しんにょえん)、解脱(げだつ)会、善隣会をはじめとする、特定地域に強い勢力をもつ中小諸教団もそれなりの教団組織化に成功している。

 第四の時期は1970年ごろ以降で、それまでに発生・成長してきた諸教団がその成長を止め制度化の傾向を強めつつあること、大教団を中心に海外布教に力を入れつつあること、ものみの塔(エホバの証人)、世界基督(キリスト)教統一神霊協会(略称、統一協会、統一教会。現、世界平和統一家庭連合)などの外国起源の新宗教や習合的な現代大衆文化(情報産業文化ともいえよう)を積極的に取り込み、若者にも受け入れられつつある新しい新宗教(GLA、阿含(あごん)宗、世界真光(まひかり)文明教団)が目だった活動をしていること、などが指摘できる。1980年代のなかば以降に顕著な発展をみせた教団として、オウム真理教(一連のオウム真理教事件により、1995年(平成7)12月、宗教法人としての解散命令決定。2000年に宗教団体アレフを発足させ、2003年アーレフ、2008年Aleph(アレフ)と改称)、コスモメイト、幸福の科学などがある。これらの教団を1970年代に発展した教団とあわせて「新新宗教」とする呼び方が広まっている。新宗教のなかでもっとも新しい時期のものという意味であり、第4期新宗教のもう一つの呼び方ともいえる。第4期新宗教にもいろいろなものがあるが、かなり広く当てはまる特徴がいくつかある。まず、従来と同様、中高年の女性が積極的に参加していることに加えて、青年層の参加度が高いという特徴がある。それも比較的学歴の高い青年が多い。入信動機はかつてのような「貧病争」と要約される実生活の現実的な苦悩というより、「空しさ」や生きがいの欠如のような、やや抽象的な動機が多くなっている。また、身の回りの共同生活を改善して幸せを実現するというような関心が薄れ、むしろ死後の世界や霊界のような現世の外部で究極の救いを実現しようという傾向が強まっている。さらに、家族や職場の緊密な共同生活上の体験というより、神秘現象や内面の変容のような私秘的感性的な体験が重視されることが多い。

[島薗 進]

新霊性運動

この時期には、新宗教と並んで、教団をつくらない個人的な霊性探求の運動が盛んになってきた。これは先進国で同時的に進行している現象で、欧米ではニュー・エイジ運動、日本では精神世界の運動などとよばれている。かつての宗教のように、権威に従属したり、信仰仲間の緊密な結合をつくったりすることなく、個人がそれぞれに自己の霊性を探求し、新しい意識レベルに達すること、それによって人類の意識進化に貢献することを目ざす運動である。豊かな大都市の住民を担い手とする「新宗教以後の宗教運動」とよべるような運動である。

[島薗 進]

『B・ウィルソン著、池田昭訳『セクト――その宗教社会学』(1972・平凡社)』『村上重良著『新宗教――その行動と思想』(1980・評論社)』『井上順孝・孝本貢・塩谷政憲・島薗進・対馬路人・西山茂・吉原和男・渡辺雅子著『新宗教研究調査ハンドブック』(1981・雄山閣出版)』

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