日本大百科全書(ニッポニカ) 「レチノイン酸」の意味・わかりやすい解説
レチノイン酸
れちのいんさん
ビタミンA(レチノール)が代謝されレチナールに転換されたのち、さらに酸化酵素による酸化を受けて産生される物質。ヒトの成長や発達に必須とされるビタミンAの働きの多くを担当する物質で、ビタミンA酸ともよばれる。
ビタミンAは、細胞の増殖を調節したり分化させたりする働きがある。また、ビタミンAは脂溶性ビタミンの一つであるため、その活性型であるレチノイン酸は細胞膜を通り抜けて細胞の核内受容体に働き、ヒトの成長や発達にかかわる遺伝子の転写を調節している。さらにこれまでの研究で、レチノイン酸が睡眠、学習、記憶などに役割を果たしていることはわかっているが、どのように機能するかについてはまだ解明されていない。
なお、レチナールは、光を感受する視物質であり、そのためレチナールの前駆体であるビタミンAの欠乏は、夜盲症などの視覚障害をもたらす。視物質とは、目の網膜にあって光を受容する視細胞(桿体(かんたい)と錐体(すいたい))に含まれる光受容タンパク質で、このうち、桿体に存在する視物質はロドプシンとよばれる。ロドプシンが光を受容すると、レチナールが全トランス型に変化する。全トランス-レチノイン酸は制癌(がん)剤としても用いられ、急性前骨髄性白血病に著しい効果を発揮する。
[編集部 2016年12月12日]