ワイゲル(英語表記)Helene Weigel

改訂新版 世界大百科事典 「ワイゲル」の意味・わかりやすい解説

ワイゲル
Helene Weigel
生没年:1900-71

東ドイツ女優,劇場監督。ウィーンに生まれ,俳優教育を受けたのち,フランクフルトベルリンの舞台を踏み,1924年にブレヒトと知り合い,29年に彼と結婚する。ナチスの時代にはブレヒトと共にアメリカへ亡命。帰国後は東ベルリンに〈ベルリーナー・アンサンブル〉を設立(1949)し,その劇場監督となる。ブレヒト作品の多くに主演し,とくに《母》(1932初演)のウラーソワ役,《肝っ玉おっ母とその子供たち》(1949初演)の肝っ玉おっ母役の演技は有名である。抑制的で,役の矛盾提示に秀でた〈身ぶり的〉な演技術は,ブレヒトの演劇論の実地教示として知られ,また劇場監督としての彼女は,ブレヒトと共に〈ベルリーナー・アンサンブル〉を世界的な劇場に高め,ブレヒトの死後もその弟子たちを統括し劇団の世界的水準を維持した功績から,〈現代のノイバー夫人〉とたたえられている。
執筆者:

ワイゲル
Valentin Weigel
生没年:1533-88

ルター派思想家,スピリチュアリスト。中世ドイツ神秘思想,とくにタウラーの教えを教会ドグマから解き放ち,ルターの悔い改めと義の教えを内面化し,〈石の教会〉に対して〈目に見えぬ教会〉の重要さを説き,争いと反目の時代にあって徹底した平和主義者であった。さらにその内面性は,新しい自然観宇宙観誕生,とくにパラケルススの影響によって自然神秘思想の次元へと広がり,多くのワイゲル主義者を生み出し,ベーメ,ライプニッツに影響を与えた。
執筆者:

出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「ワイゲル」の意味・わかりやすい解説

ワイゲル
わいげる
Helene Weigel
(1900―1971)

オーストリア出身のドイツの女優、劇団主宰者。ウィーンに生まれる。ウィーンでの短い修業のあとドイツにきてフランクフルトとベルリンの主要劇場に契約出演。1925年にブレヒトと知り合い、28年に結婚。ブレヒトの『母』(ゴーリキー原作)や『肝っ玉おっ母(かあ)とその子供たち』の主人公役などを得意とし、叙事的演劇の重要な俳優の1人として評価が高い。49年東ベルリンでベルリーナー・アンサンブルを設立してその主宰者となった。

[宮下啓三]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「ワイゲル」の意味・わかりやすい解説

ワイゲル
Weigel, Helene

[生]1900.5.11. ウィーン
[没]1971.5.7. ベルリン
ドイツの女優。劇作家 B.ブレヒトの妻。 1919年フランクフルトで初舞台。ナチスの時代にはブレヒトとともにアメリカに亡命したが,48年に東ベルリンに戻り,ベルリーナー・アンサンブルの指導的俳優として,『母』『肝っ玉おっ母とその子供たち』その他多くのブレヒト作品に主演。 56年ブレヒトが死去したのちもアンサンブルを一人で指導し,異化効果の普及に努めた。

ワイゲル
Weigel, Hans

[生]1908.5.29. ウィーン
[没]1991.8.12. ウィーン
オーストリアの小説家,劇作家,評論家。小説『緑の星』 Der grüne Stern (1946) ,戯曲『地獄もしくは煉獄』 Hölle oder Fegefeuer (48) などのほかに,『カール・クラウス論』 Karl Kraus oder die Macht der Ohnmacht (68) など文芸評論の分野で著名。

ワイゲル
Weigel, Valentin

[生]1533. グローセンハイン近郊ナウンドルフ
[没]1588.6.10. チョーパウ
ドイツのプロテスタント神学者,宗教哲学者。改革派神秘主義の代表者。神を人間の動的な意志の働きとの関係において考案し,悪への意志について独自の解釈がみられる。 J.ベーメ,ライプニッツに影響を与え,ドイツ観念論の先駆者とみなされている。

出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報

世界大百科事典(旧版)内のワイゲルの言及

【ベルリーナー・アンサンブル】より

…ベルリンにあるドイツ民主共和国の国立劇場(劇団)。1949年1月,亡命から帰国したB.ブレヒトは,ドイツ座で妻H.ワイゲル主演の《肝っ玉おっ母とその子供たち》を上演し,その成功をふまえてこの新劇団を結成,同じ年の11月にドイツ座を借りて,《プンティラ旦那と下男のマッティ》から活動は始められた。演出家エンゲル,装置家ネーアー,俳優にブッシュ,ビルト,ゲショネック,ワイゲル,ギーゼなどを擁し,ブレヒトの作品とブレヒト流に解釈された古典,近代古典を中心にした演目によって,やがて国際的な注目を浴びるようになった。…

【汎知学】より

…ラテン語,ドイツ語を直接写してパンソフィア,パンゾフィーともいう。H.クーンラート,ノリウスNollius,ドルンG.Dorn,V.ワイゲル,ジデロクラテスS.Siderocratesのような,主としてドイツのカッセルとフランクフルトを中心に活動した学者たちによって1600年前後に培われ,やがてチュービンゲンの知識人グループに波及してより福音主義的な色彩を帯びながら,J.V.アンドレーエの薔薇(ばら)十字文書に集中的表現を見いだした。なお本来,〈汎知学〉とは〈神智(知)学theosophia,Theosophie〉の対概念で,ギリシア語の〈すべてpan〉と〈知sophia〉とからなり,一般的用法では〈百科全書的知識〉を意味する。…

※「ワイゲル」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

今日のキーワード

脂質異常症治療薬

血液中の脂質(トリグリセリド、コレステロールなど)濃度が基準値の範囲内にない状態(脂質異常症)に対し用いられる薬剤。スタチン(HMG-CoA還元酵素阻害薬)、PCSK9阻害薬、MTP阻害薬、レジン(陰...

脂質異常症治療薬の用語解説を読む

コトバンク for iPhone

コトバンク for Android