エックハルト,ゾイゼとならぶ中世ドイツの神秘家。ドミニコ会士。ストラスブールに生まれ,ケルンで学び,このとき〈尊敬すべき師〉エックハルトの講義をきいたと推定される。学者であり汎神論者のそしりを受けたエックハルトに対し,タウラーは学問,神学とは無縁な日々の生活の実践という次元での魂の救済に力点をおき,バーゼル,ケルン,ストラスブールなどで説教者として活躍し,〈神の友〉の運動をみちびいた。俗世,とくに自我からの離脱,〈自己の無のこよなく深い底に沈む〉内面への道を説き,その手本をイエスの生涯に仰いだ。無と化した魂の底に神の光が生まれるというミスティクの核心の教えは,豊かなイメージによって大胆に表現され,中世教会の教条主義から自由になった15,16世紀のヨーロッパにおいて,その本来秘める力をあらわし,ルター,ミュンツァー,ワイゲル,その他多くの敬虔主義者たちにはかり知れない大きな影響を与えた。
執筆者:南原 実
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…このような説教のうちに危険な影響力を見た教会当局は,遂にエックハルトの没後29年3月,その基本的諸命題の異端性を宣告した。しかしエックハルトの精神は直弟子J.タウラーおよびH.ズーゾーを通して受けつがれ,ドイツ神秘主義の系譜をなして生きつづけた。人格神への伝統的信仰が困難に出会い,また東西両世界が深く触れ合いつつある現代,彼の思想があらためて注目されている。…
…中世後期から近世にかけて,一連の系譜をなすドイツ人神秘家たちによって担われたキリスト教神秘主義の歴史的形態。狭義には,14世紀前半のエックハルト,ゾイゼ,タウラーを中心にした活動とその思想をさし,広義には,その3者以前のビンゲンのヒルデガルトやマクデブルクのメヒティルトMechthild von Magdeburg(1210ころ‐82か94)などの女性神秘家たち,および3者以後その精神をさまざまな変容において継承・展開したニコラウス・クサヌス,ベーメ,さらにはドイツ・ロマン主義のノバーリス,ドイツ観念論のフィヒテ,シェリングなどに及ぶ精神的系譜を総称する。ドイツ神秘主義は,キリスト教史の枠を越えてヨーロッパ精神史を貫流する一大潮流をなしている。…
※「タウラー」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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