小刀の粗い刀痕を残し,その単純明快な面を生かして完成させる木彫技法,およびその作品をいう。普通はこの技法の特徴をよく示す奈良人形を一刀彫と呼び,飛驒の一位彫(いちいぼり)も〈飛驒の一刀彫〉と呼ぶ。奈良人形は江戸時代初期,岡野平右衛門(松寿)が春日大社の祭礼に用いる人形の彫物をもとに始めたといわれる。題材を多く能,狂言にとり,彩色を施して仕上げた小人形で,荒削りの力強い表現に特色がある。江戸末期に森川杜園(1820-94)が出て,好んで動物を彫り,名人といわれ,奈良特産の木彫工芸としてさらに広く知られるようになった。飛驒の一刀彫は,江戸末期に松田亮長(1799-1871)によって大成されたとされ,イチイ材を用いた素木像で,亀,達磨,十二支などを根付,置物などに作った。
執筆者:副島 弘道
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