一旦（読み）イッタン

デジタル大辞泉

いっ‐たん【一旦】

《「旦」は朝の意》
［名］
１ 一度。「一旦は中止と決まっていた」
２ しばらくの間。一時。
「―の楽しみにほこって、後生を知らざらん事の悲しさに」〈平家・一〉
３ あの時一度。
「―の御心をそむき」〈曽我・七〉
［副］
１ ひとたび。一度。「一旦怒りだすと、手がつけられない」
２ ひとまず。一時的に。「一旦帰国する」
［アクセント］はイッタン、はイッタン。
[類語]一度・一回・一遍・ひとたび・一朝

出典　小学館

精選版 日本国語大辞典

いっ‐たん【一旦】

1. [ 1 ] 〘 名詞 〙 ( 「旦」は朝の意 )
   1. ① ある日の朝。また、朝の時間の一回分。ある朝。ひと朝。また、一日。
      1. [初出の実例]「一旦に二人の命を亡(ほろぼ)さむ」(出典：日本霊異記（810‐824）下)
      2. 「一旦に雷電して盤石ことごとく摧破しぬ」(出典：山王絵詞（1310頃）三)
      3. [その他の文献]〔白居易‐燕詩示劉叟詩〕
   2. ② 本格的でない短期間。また、永続的でない短時間。一時。しばらくの間。多く「いったんの」の形で用いられる。
      1. [初出の実例]「雖_レ無_二其実_一、一旦之風聞、奇怪無双者」(出典：玉葉和歌集‐承安三年（1173）一〇月二一日)
      2. 「一旦の楽にほこって後生を知らざらん事の心憂さに」(出典：平松家本平家（１３Ｃ前）一)
      3. [その他の文献]〔史記‐蕭相国世家〕
   3. ③ 一度。ひとたび。かつて一度心に決めたことなどについていうことが多い。
2. [ 2 ] 〘 副詞 〙
   1. ① 本格的でなく、かりそめであるさま。また、持続的でなく一時的であるさま。しばらくの間。一時的に。ちょっと。
      1. [初出の実例]「一旦蘇生せさせて、念仏をも申してきかせまほしく侍り」(出典：古事談（1212‐15頃）三)
      2. 「汝等は一旦したがひつく門客にあらず、累祖相伝の家人(けにん)也」(出典：平家物語（１３Ｃ前）七)
   2. ② ( 一時的である可能性はあるが、ともかく ) 今までとは異なる事態に移る区切りとなるさま。ひとたび。一朝(いっちょう)。仮にも。
      1. [初出の実例]「一旦恥ぢ恐るることあれば、必ず汗を流すは、心のしわざなりといふことを知るべし」(出典：徒然草（1331頃）一二九)
      2. 「一たんはむりをいひかけた程に」(出典：虎明本狂言・禰宜山伏（室町末‐近世初）)

一旦の語誌

→「いったん（一端）」の語誌

出典　精選版 日本国語大辞典

普及版 字通

【一旦】いつたん

ひとたび。〔後漢書、王符伝〕察の、仁義の志りと雖も、一旦富貴なれば、則ち親に背きを捐て、其の本心を喪(うしな)ふ。

字通「一」の項目を見る。

出典　平凡社「普及版 字通」