人間の知的活動によって生じた無形の知的財産に対する財産権の総称。無体財産権とも称される。国際条約の訳語としては「知的所有権」が用いられているが(世界知的所有権機関(WIPO(ワイポ))設立条約、TRIPS(トリップス)協定)、所有権は有体物に対する排他的支配権であるから、知的財産権の訳が妥当である。
知的財産権の定義については、2002年(平成14)に制定された知的財産基本法に、「特許権、実用新案権、育成者権、意匠権、著作権、商標権その他の知的財産に関して法令により定められた権利又は法律上保護される利益に係る権利をいう」と定められている(同法2条2項)。また同法は、その権利の対象である知的財産について、「発明、考案、植物の新品種、意匠、著作物その他の人間の創造的活動により生み出されるもの(発見又は解明がされた自然の法則又は現象であって、産業上の利用可能性があるものを含む。)、商標、商号その他事業活動に用いられる商品又は役務を表示するもの及び営業秘密その他の事業活動に有用な技術上又は営業上の情報をいう」と定義している(同法2条1項)。
知的財産権を分類すると、知的創作と経済活動におけるマークに対する排他的権利に分けることがあり、また、発明、考案、意匠、商標に対する産業財産権(工業所有権)と、著作物や歌手・演奏家・俳優など実演家の実演、レコード、無線・有線放送などアートに対する著作権・著作隣接権とに大別されている。このうち、産業財産権は、狭義では特許庁の登録により発生する特許権、実用新案権、意匠権、商標権の四つの権利を意味するが、広義では未登録の商品等表示、商品形態、トレード・シークレット(営業秘密)、ビッグデータなど不正競争防止法により保護されるものも含まれる(工業所有権保護同盟条約〈パリ条約〉1条2項・3項)。
このほか、有名人の氏名や肖像などに対する排他的権利としてパブリシティーの権利が判例上認められており、パソコン、スマートフォン、タブレットのディスプレーのデザイン書体でタイプフェイスと称されるものも、外国においては特別法や著作権法で保護されている。さらには、1993年に締結された生物多様性条約における遺伝子資源や、2007年に国連が採択した「先住民族の権利に関する宣言」における伝統的知識やフォークロア(民間伝承)なども、知的財産権と位置づけられている。
知的財産権の性質としては、知的財産に対する私権であり(TRIPS協定前文)、支配権であり、排他的独占権ということができる。このうち狭義の産業財産権は、絶対的な排他的独占権とよばれることがあり、創作と同時に認められる権利ではなく、同一内容の独自創作に対しても排他的な効力が及ぶ。これに対して著作物に対する著作権は、相対的な排他的権利とよばれることがあり、創作と同時に著作権が発生し、その権利行使にも出願や登録等なんらの形式も要せず(無方式主義)、同内容の独自創作に対しては効力が及ばない。
日本には、知的財産権を保護するための知的財産権法という単一の法律はなく、知的財産の種類に応じて、特許法、実用新案法、意匠法、商標法、不正競争防止法、著作権法、種苗法、半導体集積回路の回路配置に関する法律などによって保護している。
知的財産権保護の歴史は、諸侯や王が発明などの創作者に対して与える特権(プリバレッジprivilege)から発展し、17世紀におけるヨーロッパの精神的所有権論を経て、国際的条約に従って各国国内で制度化されてきたという点に特徴がある(条約優先の原則)。
その国際的な保護の必要性については、1948年の「世界人権宣言」に、「すべて人は、その創作した科学的、文学的又は美術的作品から生ずる精神的及び物質的利益を保護される権利を有する」と明記されている。
知的財産権に関するおもな国際条約には、工業所有権保護同盟条約(パリ条約)、著作権に関する「ベルヌ条約」等がある。その他、WIPOやWTO(世界貿易機関)による包括的な国際ルールづくりのほか、2018年12月発効の「環太平洋パートナーシップに関する包括的及び先進的な協定」(TPP11協定)のような地域における知的財産権の高い水準の保護を求める国際ルールづくりが進められている。
[角田政芳 2021年4月16日]
『小泉直樹著『知的財産法』(2018・弘文堂)』▽『角田政芳・辰巳直彦著『知的財産法』第9版(2020・有斐閣)』▽『茶園成樹編『知的財産法入門』第3版(2020・有斐閣)』
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(桜井勉 日本産業研究所代表 / 2007年)
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…そして大量生産時代に入り,第3の財産として無体財産も重要な地位を占めるに至った。無体財産権は知的財産権(知的所有権)とも呼ばれるように,その対象は人間の知的創作物あるいは営業上の信用といったきわめて観念的なものであるため,権利の範囲等につき必ずしも明確ではなく,その点をめぐる争いも多い。無体財産権は,一応上のように分類できるが,この分類は必ずしも絶対的なものではない。…
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出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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