日本大百科全書(ニッポニカ) 「TRIPS協定」の意味・わかりやすい解説
TRIPS協定
とりっぷすきょうてい
Agreement on Trade-Related Aspects of Intellectual Property Rights
貿易に関連する知的財産権(知的所有権)の保護を定めた国際協定。1995年に、世界貿易機関(WTO)成立協定の一部(付属書1C)として発効した。対象となる知的財産権は特許権、著作権、意匠権、商標、集積回路の配置のほか、「シャンパン」「マイセン磁器」「ペルシア絨毯(じゅうたん)」などその商品の品質や評判を想起させる地理的表示、営業秘密や政府提出データなどの非公開情報である。こうした知的財産権を十分に保護し、権利侵害発生時の民事、刑事、行政、水際での対応(権利行使手続き)を定めた国内法を整備するようWTO加盟国に義務づけた。知的財産権保護では、自国民と外国人の差別を禁止(内国民待遇)し、特定国に与えた権利はすべての加盟国に付与すること(最恵国待遇)を基本原則とする。初めて知的財産権に多国間紛争解決ルールを導入し、違反した場合、WTO紛争解決機関に提訴し、是正を求めることが可能になった。是正勧告に応じないと制裁措置がとられる。1980年代以降、国際的に知的財産権のある商品やサービスの貿易が増加したが、工業所有権保護同盟条約(パリ条約、1883)や、著作物保護に関するベルヌ条約(1886)などは保護について定めているものの、権利侵害時の有効な国際ルールが存在せず、偽ブランド品や海賊版CDなどが大量に流通していた。同協定発効後、映画や音楽の海賊版商品が横行しているとして、日米欧が中国をWTO提訴するなどの動きが広がった。
TRIPS協定については、開発途上国と先進国との主張がたびたび対立。当初の協定では、特許権者の許可なくコピー薬を製造することを禁じていたが、途上国のエイズや鳥インフルエンザなどの感染症対策を後押しするため、WTOは2005年、特許権者の許可がなくても途上国政府がコピー薬の製造許可を出せる権利を認めた。またインド、ブラジルなどの新興国は生物多様性条約に定められた遺伝資源などの産地保護規定をTRIPS協定に盛り込むよう求めているが、日米などの先進国は反対している。
[矢野 武 2015年11月17日]