「せろんちょうさ」ともいう。さまざまな社会問題、大きな関心がもたれている争点、政策などをめぐって、その社会の成員がどのような見解、態度、意見などをもっているかを明らかにするために行われる統計的社会調査の一種である。広く意識調査という名でよばれることもある。
[鈴木春男]
世論調査の技術は主としてアメリカで発達したが、その端緒は1824年の大統領選挙の結果を予測するために新聞が行った模擬投票だったとされている。それが、19世紀末から20世紀初頭にかけて選挙予測への関心がにわかに高まり、『ニューヨーク・ヘラルド・トリビューン』紙はじめ多くの新聞・雑誌がそれを競って行った。なかでも『リテラリー・ダイジェスト』誌は1916年以降大々的にそれを実施し、大規模なサンプルによる予測の正確さを誇っていた。サンプルは、電話・自動車の登録者名簿をもとに大量の模擬投票用紙を送付し、任意に記入返送してもらうという方法で集められたが、とくにF・D・ルーズベルトとランドンAlfred M. Landonの間で争われた1936年の選挙の際には、約1000万票を送付し約4分の1を回収したという。ところが、そうして集めた大量のサンプルから得た同誌の予測はランドンの勝利であったのに、実際はルーズベルトが勝利したため、同誌の信用は地に落ちてしまった。
ところで、その選挙では、ギャラップのおこしたアメリカ世論調査所、ローパーElmo Roperのフォーチュン・サーベイ、クロッスリーArchibald M. Crossleyのクロッスリー・サーベイなどの新興調査機関が、各種社会層の人口比に応じてサンプルを割り当てる比例割当法によって、少数のサンプルでルーズベルトの勝利を正確に予測したのであった。このことは、それまでの大量サンプルへの盲信を覆し、正確なサンプリングが行われさえすれば少数サンプルでも態度や意見を正確につかめることを理解させた。
このように調査方法やサンプリングの方法についての研究が進み始めると、世論調査は単に興味本位のものから実際的、学術的な目的のために使われるようになった。1939年にはアメリカ農務省に企画調査部が設置され、政策の企画や実行の資料に調査結果が利用されるようになった。さらに世論調査は第二次世界大戦中、戦争遂行上重要な役割を果たしたためにいっそう発達し、戦後、科学的な世論調査が生まれるきっかけになった。今日、経験的な社会科学は実証的なデータなしには展開できず、コンピュータによる集計・分析技術の発達も加わって、世論調査はますます重要な機能を果たしてきている。
日本でも第二次世界大戦後の戦後民主化の風潮とともにこれに対する関心が高まり、国の機関の中心として総理府(現内閣府)に内閣総理大臣官房広報室(現政府広報室)ができ、さらに総務庁(現総務省)統計局をはじめ各省庁の統計調査機関、国立大学共同利用機関としての文部省(現文部科学省)統計数理研究所など、中央官庁には多くの機関が存在している。現在では地方自治体や大学、新聞社、通信社、放送局、各種団体、専門調査機関などあらゆる機関で世論調査が実施されている。
[鈴木春男]
調査は、まず第一に調査すべき問題領域を確定することから始まり、調査仮説の設定、調査対象範囲(母集団)の確定、調査方法の決定、質問文(調査票)の作成、サンプリング、調査員へのガイダンス、実査、エディティング(点検)、コーディング(符号化)、集計、分析という過程で進められる。なかでも調査方法は、調査員が記入する方法と、対象者に記入してもらう方法とに大別される。前者の中心は、調査員が個別に対象者を訪問して面接する個別面接法であるが、電話で聞く電話法などもある。後者の中心は、調査票を郵送して回答を求める郵送法であるが、ほかに、諸機関を通したり個別に訪問したりして調査票を対象者に配布し、あとで回収に行く留置(とめおき)法や、会場に集まって記入してもらうギャング・サーベイgang survey、さらに今後一般化が予想されるファクシミリを使っての方法などさまざまなものがある。費用や回収率、聞き出せる回答の質などをめぐってそれぞれに一長一短はあるが、費用がかさむという欠点はもつが個別面接調査法がもっとも精度の高い方法であるとされている。
[鈴木春男]
世論調査の結果が示しているのは、ある特定時点において社会成員が表明した意見の分布状態であり、こうした個人意見の総和を世論としていいかどうかには問題もある。社会では、すべての人が対等の力をもっているのではなく、少数の意見が他を動かし世論になることも多いのである。さらに、世論調査で得られた意見と実際の行動とのギャップの問題もある。現在こうした問題点を解決するためのくふうはいろいろとなされてはいるが、まだ十分とはいえない面をもっている。他の同類調査のデータと比較したり、時系列的に調査分析を行うことなどは、精度を高めるために最低限必要なこととされている。
[鈴木春男]
『佐藤彰他著『世論調査』(1976・技興社)』▽『輿論科学協会編『世論調査の現状と課題』(1977・至誠堂)』▽『西平重喜著『世論反映の方法』(1978・誠信書房)』▽『内閣総理大臣官房広報室編『世論調査年鑑』各年版(大蔵省印刷局、2001年3月発行の平成12年度版より内閣府大臣官房政府広報室編、財務省印刷局発行)』
社会的に重要な時事的問題について,広範な人々の意見をある時点で量的に測定すること。世論という概念が政治過程と深く結びついているので,世論調査でとりあげられる問題は政治や行政にかかわるトピックスが多い。しかし,最近では一般的な社会問題や生活様式などもしばしば調査のテーマとしてとりあげられている。世論調査の結果は,ある問題をめぐって動態的に形成されていく一時点における人々の意見分布状況を示している。したがって,世論の動向を理解したり,変化を予測したりするためには,調査を何度か重ねて行い,結果の推移を分析することが必要である。
世論調査はふつう,調査員が指定された相手に面接し,調査票に基づいて質問をし,回答を記入する〈個別面接法〉によって行われる。ときには,調査票を相手に手渡して回答を記入しておいてもらい,後でそれを回収する〈留置法〉や,郵便で調査票を送り回答を送り返してもらう〈郵送法〉などが用いられることもあるが,回答の信頼性は低くなりやすい。
世論調査の技術は,アメリカにおいて,とくに大統領選挙の予想と結びつきながら発達してきた。他のトピックと違って,選挙の場合には投票結果が数字で示されるため,調査データの正誤がはっきりと判明してしまう。そこで,少しでも正確な予測ができるよう,調査技術を改善するための努力が払われるわけである。この点でギャラップGeorge H.Gallupの功績は大きい。1935年に〈アメリカ世論調査所American Institute of Public Opinion〉を創設したギャラップは,翌36年の大統領選挙の際にわずか2000人を調査しただけでローズベルトFranklin D.Rooseveltの当選を予想し,それまで選挙予想の世界に君臨し,このときも200万余の有権者からアンケートをとってランドンAlfred M.Landonの当選を予想していたリテラリー・ダイジェスト社Literary Digestの予想を破った。ギャラップはこのとき,全体の縮図となるような構成をもった標本(サンプル)を調べれば,たとえ数は少なくても正確な予測ができるという考えに立って,性,年齢,職業,地域などの指標に関して有権者全体の分布と等しい割合になるように,2000人のサンプルを選んだのである。これは〈割当法quota system〉とよばれる方法であるが,数をたくさん調べればそれだけ全体を予測するのに有利だという従来の考え方を,事実によって否定するものであった。しかし,トルーマンが当選した48年の大統領選挙では,ギャラップはデューイの当選を予想して失敗した。その原因を検討した結果,サンプリングの方法として割当法は十全のものではなく,むしろなんらの作為も加えずに,ただ確率法則だけに依存してサンプルを選ぶ〈ランダム・サンプリング(無作為抽出法)〉が適切であることがわかった。ランダム・サンプリングの具体的手続は多様であるが,原理的にはくじ引きと同じく,すべての個人が選ばれるチャンスを平等にもつという条件のもとでサンプリングが行われる。この方法は,抽出されたサンプルが,結果的に全体のよい縮図になることが,理論的にも実際的にも証明されているので,現在どこの国でも信頼できる世論調査機関では,ランダム・サンプリングが採用されている。
アメリカでギャラップと並んで活発に世論調査を行っている機関としては,エルモ・ローパーElmo Roperやルイス・ハリスLewis Harrisの主宰するものがある。また,イギリスではORC(Opinion Research Center),NOP(National Opinion Polls),フランスではIFOP(Institut français d'Opinion publiques),SOFRES(Société français d'Etude par Sondage),ドイツではアレンスバハInstitut für Demoskopie Allensbach,EMNID-Institutなどが著名である。
日本で本格的な世論調査が行われるようになったのは第2次大戦後のことで,1945年10月に毎日新聞社が実施した全国調査が最初である。その後49年には〈国立世論調査所〉(1954廃止),民間調査機関などが設立されて,数多くの世論調査が行われてきた。現在,比較的頻繁に政治・社会問題に関して世論調査を行っている機関としては,内閣府広報室,《朝日》《毎日》《読売》などの各新聞社,NHK放送世論調査所,輿論科学協会などがある。
選挙予想が当たらなかったり,同種の調査の結果が調査機関の間でくい違っていたりすることがあり,そのたびに世論調査の信頼性に対して疑念が表明される。これは,原則的には所定の手続にしたがって調査が行われる限り,その結果は計算可能な一定の誤差の範囲内で,高い的中率を確保することができるはずであるが,現実には,サンプルの抽出が完全にランダムでなかったり,質問文があいまいな部分を含んでいたり,かたよった内容のものであったり,調査員の訓練が不十分であったりするために,調査結果にゆがみの生じるためと考えられる。また,調査結果が公表されることによって,世論形成過程自体が影響をうける場合がある。たとえば,多数の人々がある意見に賛成であるという調査結果が発表されることで,明確な意見をもっていなかった人々がその意見に同調を示すとか,選挙予想で当落線上と書かれた候補者に同情票が集まるといった現象がそれである。このため,投票日前の一定期間内は選挙予想の発表を控えようという動きもときおりみられる。
執筆者:竹内 郁郎
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…しかし,これを契機に,その後最も広く用いられるランダム・サンプリング(無作為抽出)という標本抽出調査法を開発した。彼は〈世論調査〉を企業化し,それを〈民意〉の模造品として各レベルの政策立案・決定過程に,現実に考慮される比重はともかく,不可欠のものとして組み込ませることに成功した。反面,調査〈数量〉の物神化をも加速したといってもよい。…
※「世論調査」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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