デジタル大辞泉
「符号化」の意味・読み・例文・類語
出典 小学館デジタル大辞泉について 情報 | 凡例
ふごうか
符号化
encoding
符号化とは,記銘memorizationと同義であり,保持されるべき情報を記憶する過程を指す。どのような符号化が記憶成績を向上させるのかという関心から,とくに長期記憶への符号化を実験的に操作し検討する研究が行なわれてきた。符号化が意図的に行なわれる意図学習intentional learningによる事態と学習意図のない偶発学習incidental learningとがある。意図学習,偶発学習による記憶過程あるいは記憶成績を,それぞれ意図記憶intentional memory,偶発記憶incidental memoryとよぶこともある。
符号化が意図的に行なわれる場合,実験参加者が用いる方略strategyの影響が大きい。これに対して偶発学習では,実験参加者は,一見したところ記憶課題であるとは思われない方向づけ課題とよばれる符号化のための処理課題を与えられ,その後,事前には知らされていなかったテスト課題に従事することを求められる。この場合,実験参加者が独自の記憶方略を用いることは少ないと考えられるため,さまざまな符号化の実験操作が可能である。こうした実験操作の代表的なものとして,処理水準level of processingが知られている。たとえば,記銘材料の文字形態についての処理を促すためには,提示された単語に対して,「この単語は小文字で提示されていますか」という質問に回答することを求める。同じ単語に対して音韻的な処理を促す場合には,たとえば,「この単語はWEIGHTと韻を踏んでいますか」という質問に回答することを求め,意味的な処理を促すときには,「この単語はHe met a _____ in the street?のアンダーラインに適合しますか」という質問に回答することを求める。単語の形態処理よりも音韻処理を行なった方が,音韻処理よりも意味処理を行なった方が,再生(記銘したことを外的手がかりなしで想起すること)や再認(記銘した材料についてあったかなかったかで判断すること)によって測定される記憶成績が良いということが知られている(Craik,F.I.M.,& Lockhart,R.S.,1972)。形態処理よりも音韻処理,音韻処理よりも意味処理の方が深い水準で行なわれると考えられることから,この現象は,処理水準効果とよばれているが,実際には,処理の深さをあらかじめ定義することは困難であり,この点が後の研究によって批判されている。ただし,処理水準の概念の根幹にあるのは,エピソード記憶は処理の記録であるという考え方であり,この考えそのものは,記銘活動の間に行なわれる処理過程に注目を促したという点で,後の研究に大きな影響力をもっている。
符号化時の意味処理が,形態処理や音韻処理よりも再生や再認の成績を向上させるという結果は,これらのテスト課題が,意味処理にとって有利であるためだと考えることができる。事実,形態処理や音韻処理が重要であるような課題をテスト段階で用いると,符号化時に形態処理や音韻処理を行なった方が,意味処理を行なうよりも再認成績が高い。つまり,符号化時の処理と検索時の処理がオーバーラップしている程度が大きいほど,記憶成績は高くなる。このことは,転移適切性処理transfer-appropriate processingとよばれる考えと一致し,検索時に利用される情報が符号化時に適切な処理を受けていることが,効率的な検索を可能にすることを示唆する。類似した概念である符号化特定性原理encoding specificity principleとは,検索手がかりの情報が,符号化時にターゲットの痕跡に取り込まれている程度に依存するという考えである。たとえば,ROUND(丸)という単語は,square(四角)と強力な連想関係があるため,ROUNDが学習リストの中で提示されたことを,squareを手がかりに想起することは,通常は容易である。しかし,学習段階において,cabbage(キャベツ)-ROUNDというように,弱い結びつきしかない単語とペアにしてROUNDを記銘すると,ROUNDを想起するために有効な手がかりは,squareではなく,cabbageとなる(Tulving,E.,& Thomson,D.M.,1973)。このように,検索時の手がかりの有効性は,どのような符号化を行なったのかによって決定される。言い換えると,符号化操作の有効性は,どのような検索手がかりが用いられるかに依存するのである。すなわち,記憶成績は符号化と検索の相互作用によって決定されるといえる。符号化を操作した研究から,検索を考えないで符号化の有効性を論じることはできないということが明らかになった。 →記憶 →知識 →日常記憶
〔齊藤 智〕
出典 最新 心理学事典最新 心理学事典について 情報
ふごうか【符号化 coding method】
一般には,情報の処理,伝達,記録を有効かつ効率的に行うために,その本来の形態から別の形態へ規則的に変換することをいう。たとえば,(1)文字,記号,数字等のコンピューター内部表現(コンピューターコード)への変換(〈数の表現〉〈文字コード〉の項を参照のこと),(2)画像,音声,文章等,現実のさまざまな情報の表現(データ)に含まれる冗長度を除去し,これらの処理・伝達における無駄を省くための〈データ圧縮〉(〈情報理論〉〈データ圧縮〉の項を参照のこと),(3)情報を扱うさまざまの過程,特に,各種の通信系,計算機の記憶装置,映像・音響記録系等で生ずる誤りを訂正し,より正確な通信を可能とするための〈誤り訂正符号化〉,(4)他者による盗聴や改竄,ハッカーの攻撃やコンピューターウイルスの侵入等を防ぎ,情報を安全に保護するための〈暗号化〉(〈情報セキュリティ〉〈暗号〉の項を参照のこと)等である。
出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
出典 講談社IT用語がわかる辞典について 情報
符号化
信号やデータを一定の規則に従ってデータ化すること。アナログ信号をデジタルデータに変換したり、データを暗号化することなどがこれにあたる。
出典 ASCII.jpデジタル用語辞典ASCII.jpデジタル用語辞典について 情報
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
世界大百科事典内の符号化の言及
【計算可能性】より
…このように拡張された関数を計算可能部分関数という。 プログラムをコンピューター内部のデータとして表現するというプログラム内蔵方式のコンピューターの原理も,計算可能性に関係する重要な概念である符号化(ゲーデル数化ともいう)と密接な関係にある。プログラムが0,1のビット列で表現できるのと同様に,計算可能部分関数もすべて自然数で表現することができる。…
【情報量】より
…これは,もちろん,多くの文字を対応した符号語の連なりとして仕立てた長いビット列が与えられたとき,符号語と符号語の切れ目を識別できるような(分節可能な)対応関係が保証されているという条件のもとでの話である。符号語の集合を〈符号〉と呼び,文字から符号語への対応を〈符号化〉と呼んでいる。平均符号語長が上で述べた性能を満たす符号には,シャノン・ファノShannon-Fano符号,ハフマンHuffman符号などが知られている。…
【パルス符号変調】より
…パルス符号変調ではパルスの有無を受信側で正しく再現できればよく,波形ひずみや妨害雑音に強い高品質で高安定な通信システムが実現できる。 パルス符号変調の原理は〈標本化〉〈量子化〉および〈符号化〉の三つの基本機能により理解される。標本化とは時間的に連続なアナログ信号をとびとびの時間点のみで表現することである。…
※「符号化」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報