中国で生産される茶。茶の飲用、栽培、製造は、すべて中国で始まった。『神農本草経(しんのうほんぞうきょう)』(西暦紀元前後)によれば、茶は初めは薬用に用いられていた。また古く春秋戦国時代に飲茶が始まったことは『爾雅(じが)』(前漢)からうかがえる。前漢時代には、四川(しせん/スーチョワン)で茶が売られており、茶を煮て飲んだ記録(『僮約(どうやく)』)がある。三国時代には、飲茶の習慣は江南一帯に広がった。唐代に至ると、飲茶は東北を含め全国でみられるようになり、茶樹の栽培も南方各地で行われた。それを背景に、世界で最初の本格的な茶書である陸羽(りくう)の『茶経(ちゃきょう)』(760ころ)が書かれた。宋(そう)、元(げん)代までは少なくとも上流階級で愛飲されたものは、餅茶(ピンチャー)などの固形茶が中心であったとみられるが、明(みん)代になると茶葉に湯を注いで飲む煎茶(せんちゃ)が主流となった。中国茶は17世紀初めオランダを介してヨーロッパに輸出されてから、以後1870年代にアッサム種の紅茶が多量に生産されるまで、世界の茶の市場で独占的位置を占めた。だが中国茶のイギリスへの多量輸出に遠因をもつアヘン戦争を境として、中国茶の位置は、このインド、スリランカ(セイロン)産の紅茶に変わっていった。20世紀中葉まで、中国茶の生産は低下の一途をたどり、1949年には、その生産量は4万トンに下がり、かつて13.4万トンを記録したこともある中国茶の輸出量もわずか8000トン足らずまで激減した。しかし、新中国建国後は「南茶北引」をスローガンに、茶の北限を拡大するなど茶生産の振興が図られてきた。1976年は90年ぶりに年間生産量を更新した。その後も順調に生産量は伸び続け、85年45.6万トン、90年56.2万トン、95年60.9万トン、2000年70.4万トン、2001年72.1万トンとなっている。中国茶の生産量は、世界の茶の総生産の約5分の1であり、インドに次いで第2位を占める。なお2001年の栽培面積は89万9000ヘクタールで、世界の総栽培面積の約40%を占めている。
[浜口義曠]
茶樹は、『茶経』冒頭の「南方之嘉木(かぼく)也」という記述のとおり、中国南部に生育したものであるが、その原生地については明確ではない。植物学的特徴の変異の大きさからみて、中国の四川、貴州、雲南各省の境界の山地、すなわち横断(ホントワン)山脈から大婁(ターロウ)山脈に至ると推定されている。現在、栽培されている地域は、東北部、内蒙古(うちもうこ)、西北部を除く17省などであり、北限は山東省蓬莱(ポンライ)、南限は海南(ハイナン)島であり、東は台湾、西はチベット察隅(チヤーユイ)にわたる。茶樹の種類は、原産地にふさわしくきわめて多様で偏差に富む。1、2メートルの低木から30メートルの高木まである。葉の大きさから「大葉種」と「小葉種」があり、その形状も「瓜(うり)種」「びわ種」「仏手種」「竹葉種」「柳葉種」がある。さらに芽の色、発芽時期に大きな差があり、おもな品種でも100余種になる。中国茶のおもな生産地は、浙江(せっこう/チョーチヤン)、湖南、安徽(あんき/アンホイ)、四川である。この4省で全国の65%を占める。ついで福建、湖北、雲南の3省で20%を占める。中国茶の場合、生産地の自然条件や地域の文化の伝統に基づいて、特性、性格をもっており、地方の名茶として今日も画一的でない味と香りを維持している。
製茶については、その製造工程から次のような六大茶類に分けるのを通例とする。
〔1〕紅茶 完全に発酵させて製茶する。主として輸出品で、中国茶全体の2割程度を占める。さらに3分類する。
(1)工夫(コンフー)紅茶 中国の伝統的な製法によりつくられたもので、外観が均整がとれ、色黒く、いれた水色は鮮やかな紅色で特有の芳香がある。安徽祁門(チーメン)の祁紅(チーホン)、雲南の滇紅(ティエンホン)が著名。
(2)小種紅茶 葉が厚く、形状は太い。福建崇安(すうあん/チョンアン)の正山(チョンシャン)小種が有名。
(3)分級紅茶 葉状のものから粉末茶まであり、雲南、広東、広西の大葉種の紅砕茶が最高級品。
〔2〕緑茶 不発酵茶である。殺青(さっせい)→加熱処理を経て、生葉の酸化を抑え製茶する。中国茶のなかでもっとも古い歴史をもち、今日でも中国茶全体の40%余を占める。さらに4分類する。
(1)炒青(チャオチン) 釜(かま)等で煎(い)る。細い眉茶(まゆちゃ)では安徽屯渓(トウンシー)緑茶、珠状の浙江紹興(シャオシン)の平水珠茶(ピンシュイチューチャー)があり、西湖竜井(ロンチン)はとくに有名である。このほか洞庭碧螺春(ピールオチュン)、盧山雲霧(ルーシャンユンウー)、都勻毛尖(トウーユンマオチエン)も名茶である。
(2)烘青(ホンチン) 生葉を炭火であぶり乾燥させる。六安瓜片(リューアンクアピエン)が有名。
(3)晒青(チャイチン) 日光にさらしたのちあぶる。陝西紫陽(ツーヤン)の陝青(シヤンチン)などがある。
(4)蒸青(チョンチン) 水蒸気で蒸す。湖北恩施(エンシー)の玉露などがある。
〔3〕烏竜茶(ウーロンチャー) 半発酵茶で、緑茶と紅茶のよさをあわせもつといわれる。生産量はかならずしも多くない。福建の武夷岩茶(ウーイーイエンチャー)、安渓鉄観音(アンシーテイェクワンイン)、水仙(シュイシエン)が著名。
〔4〕白茶(パイチャー) 不発酵、不揉捻(ふじゅうねん)の茶で、タンニンの多い若芽を原料とする。福建の白毫銀針(パイハオインチェン)が代表。ほかに白牡丹(パイムータン)や寿眉(ショウメイ)がある。茶の珍品である。
〔5〕花茶(ホワチャー) おもに烘青緑茶を原料に花の香りをつけたもの。中国茶全体の6%程度を占める。花の名でよばれるものに、茉莉花茶(モーリホワチャー)(ジャスミン茶)、玉蘭花茶(ユイランホワチャー)(白モクレン茶)などがあり、原料茶の名でよばれるものに花烘青(ホアホンチン)、花毛峰(ホワマオフォン)などがある。
〔6〕緊圧茶(チンヤーチャー)(磚茶(たんちゃ)) 各種の茶葉を蒸したのち、圧縮して固めたもの。磚茶のようにれんが状のものなどさまざまな形のものがある。チベット、モンゴルなど辺境の地へ売り、茶の総生産量の4分の1に達する。
ほかに、紅茶、緑茶、青茶、黒茶、白茶、黄茶の6種類に分けることもある。青茶は〔3〕の烏竜茶にあたり、黒茶は普洱茶(プーアルチャー)のほか後発酵茶で〔6〕の緊圧茶の一部を含む。黄茶は緑茶に近く、四川蒙頂(モンティン)黄芽や湖南君山銀針(チュンシャンインチェン)などがある。
[浜口義曠]
中国では、北方では花茶が、南方では緑茶が好まれるといわれ、少数民族は磚茶を愛飲している。花茶や緑茶は、蓋(ふた)付きで持ち手のついた丈の高い茶碗(ちゃわん)に直接茶葉を入れ、熱湯を注いで飲むのが普通の飲み方である。烏竜茶については福建などでは、小さな急須(きゅうす)に葉を入れ、小さな杯(さかずき)状の湯飲みで飲むこともある。チベットやモンゴルでは緊圧茶を煮たうえに、ヒツジの乳や塩を加えて飲む。中国では、広い国土の各地の生活習慣により、さまざまな方法で多様な茶が飲まれている。
[浜口義曠]
中国で生産される茶。中国は世界最古の茶産国で,チャの原産地も雲南,四川,貴州の3省が境を接する雲貴高原とする説が有力である。こうした歴史と広大な国土,そして多くの民族をもつため,中国の茶は種類が多く,その製法,飲み方も他に類を見ないほど多様である。
中国茶はその成分から緑茶,青茶,紅茶,黒茶,黄茶,白茶の6種に分類される。緑茶はほとんどが釜(かま)いり製で,360℃の高温でいり蒸ししてつくる。中国茶の中で最も多く生産され種類も多い。青茶は緑茶と紅茶の中間にある半発酵茶で,ウーロン茶がこれである。以上の2者と紅茶についてはそれぞれ〈緑茶〉〈ウーロン茶〉〈紅茶〉の項目にゆずり,ここでは中国特有の茶である黒茶,黄茶,白茶について述べる。
黒茶は,緑茶の要素をもつ発酵茶というべきもので,黒褐色または茶褐色をしている。緑茶にコウジカビAspergillusを繁殖させたもので,雲南特産の普洱茶や広西チワン(壮)族自治区の六堡茶が代表的なものである。そのコウジカビが体内の脂肪分を分解し老廃物を一掃するとして,最近人気が高まっている。黒茶の多くは緑茶を磚茶(たんちや)に作りあげてから,貯蔵中にコウジカビを繁殖させるため,古い茶ほど価値が高い。チベット,四川,青海,モンゴル,さらにウイグル地方などの遊牧民に愛飲されている。
黄茶は緑茶の一種であるが,黄色の毛茸でおおわれた芽葉でつくるため,黄色に見える。釜いり製であるが,黄毛を損なわぬように揉捻(じゆうねん)を軽くし,低温でゆっくり乾燥させるためわずかながら発酵し,それによって緑茶にはない香りをもつ。安徽省の霍山(かくざん),四川省の蒙山,湖南省の洞庭湖周辺,浙江省の陽貴湯,湖北省の英山など,ごく限られたところで産出する。白茶は,芽に白毛の多い特殊な品種からつくられる。黄茶と同様にその白毛を生かして製品化するため,揉捻は軽く行うのがふつうで,まったく揉捻しないものもある。代表的なのは福建省特産の銀針白毛茶で,湯を注ぐと芽の1本1本が茶柱になって林立して見る目を楽しませる。
中国で最も広範に行われている茶の飲み方は漢民族のそれで,緑茶に熱湯を注いで飲む。チベットでは磚茶を煮出してバターと塩を入れ,モンゴルでは磚茶に乳を入れて飲む。同じ漢民族でも,福建省ではウーロン茶が好まれ,広東省では普洱茶が愛用される。また,広東省や湖南省に住むヤオ(瑶)族,トン(侗)族,チワン族などは,油茶といって,茶を料理にまぜ合わせて食べ,南部の各種少数民族はそれぞれ固有の飲茶法を伝承している。
執筆者:松下 智
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