精選版 日本国語大辞典 「紅茶」の意味・読み・例文・類語
こう‐ちゃ【紅茶】
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ツバキ科常緑樹のチャの葉を発酵、乾燥させたもの。芽や若葉に含まれている酸化酵素の働きで、含有成分のタンニン、ペクチン、クロロフィル(葉緑素)などが酸化発酵してできる。同じチャの葉から、製茶法によって大別して発酵茶、半発酵茶、不発酵茶がつくられるが、発酵茶のなかでも強発酵(完全発酵)の茶が紅茶であり、いわゆる緑茶は、摘んだ生葉にすぐ熱をかけ、酸化酵素の働きを止めて緑色を保つもので、不発酵茶である。
日本および中国では煎(せん)じた汁の色によって紅茶というが、イギリスやヨーロッパの国々では仕上げた茶葉の色が黒いのでグリーンティー(緑茶)に対し、ブラックティーまたは単にティーとよぶ。
[天野秀二]
茶の製法は中国に始まり、その歴史は古い。唐代に陸羽(りくう)が著した『茶経(ちゃきょう)』に記されている茶は、煮て搗(つ)き固めた茶餅(ちゃへい)というものであり、今日でいう磚茶(たんちゃ)である。中国で長く愛飲されていたのはあくまでも中国茶といわれる釜炒(かまい)り茶と半発酵の烏竜茶(ウーロン茶)や包種茶(パオチョン茶)であって、紅茶は中国茶がヨーロッパへ伝わってのち、西欧人の嗜好(しこう)にあわせて完成されていったといえよう。
17世紀の初め、オランダ東インド会社によってヨーロッパに紹介された中国茶は、東洋の神秘的な飲み物として上流社会に珍重されもてはやされた。とくにイギリスに渡って起きた茶ブームは東洋交易競争にまで発展し、海軍力に勝るイギリスが勝利を得てオランダを締め出し、18世紀初めからおよそ100年以上の間、イギリス東インド会社が中国茶貿易の独占権を握ることになる。イギリス人の嗜好は、オランダ商人によって紹介されていた半発酵のウーロン茶よりも、強発酵の茶へとしだいに移り、完全発酵の紅茶がつくられて需要も広がっていった。この紅茶の普及に拍車をかけたのは、コーヒーハウスとともに盛んにできたティーハウス、ティーガーデンである。また同時に進行していた産業革命による大衆化社会の傾向も素地になっていたといえよう。この産業革命によって、酪農を営んでいた農民階級が工業労働者やサラリーマン化したために、ミルク不足が深刻になり、ミルクの代用にティーを奨励したので、一般庶民階級にはミルクを先にティーを後で加える飲み方をしたが、上流階級はいままでどおりティーを先にミルクを後で加える飲み方を続けていたため、のちのちまでミルクが先か後か、どちらがおいしいかの論争のもとになったと思われる。
こうしてイギリス東インド会社の中国紅茶輸入の独占体制は莫大(ばくだい)な利潤を生み、大きな税収入源となってイギリス経済は不動のものになったが、強引な商法でアメリカ輸出の独占をもねらったために、ボストン茶会事件(1773)で反発を受け、また、中国とも片貿易になって、アヘン決済が引き金となったアヘン戦争(1841~42)を起こすなどの行き詰まりも生じた。さらに19世紀に入ってティークリッパー(快速帆船)による自由競争時代を迎えたことなどから、イギリスも自国植民地生産に目を向けざるをえなくなった。
1823年、イギリスのブルース少佐がインドの奥地アッサムで野生の茶樹を発見、これはイギリスにとって紅茶生産の世界制覇達成の画期的なできごとであった。39年にアッサム株式会社をつくってアッサム種の栽培に本格的に取り組み、やがて大規模なプランテーション(大規模農場)方式の茶園に拡大し、ベンガル州ダージリン地区、南インドのニルギリ地区など栽培地は開発されて、19世紀末までにインドは世界一の紅茶生産国となった。
1860年代にイギリスの植民地セイロン(現スリランカ)のコーヒー園が葉銹(はさび)病によって全滅したとき、その代替作物としてチャの栽培に切り替え、プランテーション方式の茶園としたのが成功して、セイロンはインドに次ぐ世界第二の紅茶生産国となっていった。イギリス領東アフリカ諸国でも20世紀初めより本格栽培に入り、世界第三の生産地域となって、イギリスは第二次世界大戦まで紅茶王国として世界に君臨してきた。
チャは中国広東(カントン)語の発音chaから、ティーは厦門(アモイ)系の発音tayまたはteから出ていて、この2系譜に従って世界各国の呼び名は二つのグループに分かれている。それぞれ茶の伝播(でんぱ)経路、ティー・ロードの存在がうかがえるようである。
[天野秀二]
大黒屋光太夫(だいこくやこうだゆう)の漂流記『北瑳聞略(ほくさぶんりゃく)』(桂川甫周(かつらがわほしゅう)編纂(へんさん)、1794)には、「又常に茶を用う。茶はトレツコイ(トルコの意)とキタイスコイ(中国の意)より来る。銀の壺(つぼ)にのみぐちをつけたる器に入れ熱湯をさし泡茶(だしちゃ)にしてのむ。是(これ)にも多く砂糖牛乳を加ゆるなり。賤人(かるきもの)は蓬(くさいちご)の葉を乾して茶にかへ用ゆ。茶の価(か)は百匁にて銀一枚より五枚に至る」と、ロシア人の紅茶の飲み方が紹介されている。また『日本喫茶史料』(黒川真道著・1909)に、「孝明(こうめい)天皇安政(あんせい)三年(1856)米国の使者物を幕府へ進す。其(そ)の内に茶五十斤あり。按(あん)ずるに米国製の茶の本邦に舶来せしは此(こ)の年を以(もっ)て始とす」とあり、この米国製の茶は紅茶であったかと思われる。日本には中国から伝来した日本式緑茶があったので、明治の文明開化に至るまではほとんど紅茶は飲まれなかった。維新後1874年(明治7)、紅茶輸出によって茶業振興を図るべく、内務卿(きょう)大久保利通(としみち)の命によって勧業寮農務課に製茶係が設けられ、翌75年には中国より技術者を招いて伝習と製造を行っている。さらに同年には技術員をインドに派遣し、インド風紅茶製法も取り入れて生産に力を注いだが、気候と茶樹品種に問題があって品質が悪く、輸出産業としては成功しなかった。
イギリスのリプトン紅茶が初めて日本に輸入されたのは1906年(明治39)であり、ハイカラな飲み物として好まれ、戦前まではリプトンは紅茶の代名詞といわれるほどであった。国産としては、三井合名会社(現在の三井農林株式会社)が台湾に茶園を開発して、27年(昭和2)に三井紅茶、31年に日東紅茶のブランドで発売したのが最初である。この日東紅茶は国内紅茶販売の80~90%を占めるまでに普及し日本のトップ銘柄になったが、第二次世界大戦後は台湾における茶園、工場、施設をすべて失うことになった。戦後、外国紅茶の輸入が自由化されたのは1971年(昭和46)である。
[天野秀二]
紅茶の生産高は、緑茶などを含む茶全体の生産量の約80%を占めている。生産地域は北・南回帰線にまたがる熱帯・亜熱帯地域の高温多湿の高地、モンスーン地域にほとんど集中している。
消費国はイギリスおよびイギリス連邦諸国が圧倒的に多い。日本は緑茶国であるので、1人当り消費量も年間約60グラムと少ない。
[天野秀二]
紅茶が商品として市場に出るまでに、生葉(なまは)→萎凋(いちょう)→揉捻(じゅうねん)→発酵→乾燥→仕上げ茶→鑑定→原料茶→競売→配合→包装という順序をたどる。
(1)生葉 良質の茶をつくるためには、新芽と2枚の若葉を手摘みする。これを一心二葉(いっしんによう)摘み、または上葉(うわば)摘みという。
(2)萎凋 生葉を萎凋棚に広げ、陰干し、または萎凋槽で温風を吹き付けて、しおれさす。
(3)揉捻 しおれた葉を揉捻機にかけてもみながら汁液を絞り出す。もまれて塊になった葉の玉を解きほぐしてふるい分けする。
(4)発酵 揉捻葉を発酵室に移し、温度や湿度を調節しながら完全発酵させる。
(5)乾燥 発酵して赤銅色に変じた茶葉に高温空気を送って発酵を止め、熱風乾燥機にかけて乾燥させる。これが荒茶である。
(6)仕上げ茶 荒茶をふるいにかけ、形状、大きさなどによって等級分類する。
(7)鑑定 仕上げ茶は鑑定者によって外観、手ざわり、香り、味、水色(すいしょく)(汁の色)、茶殻まで、すべて五感による官能検査で評価を受ける。
鑑定された茶は原料茶として競売にかけられたのち、味や品質の安定した商品化のために原料茶どうしが配合(ブレンド)される。市販されている紅茶は、ばら茶、包装茶、ティーバッグの3種類である。ばら茶は、裸のまま販売する配合茶のことで、包装の手間を省いて木箱入りなどにされ、大口取引用、業務用、計り売り用にされる。包装茶は、防湿、長期保存のためにほとんど缶詰にされるが、最近では防湿素材を使って真空パックした簡易包装のものも出回っている。ティーバッグは、CTCティー約2グラムを1人分として紙袋に入れたもので、カップに入れ熱湯を注げば飲める簡便さが好まれ、近年急速に消費が伸びている。日本では全消費量の70%を占めるようになっているが、これは世界的な傾向でもある。
[天野秀二]
仕上げ茶の形状およびサイズによって伝統的なリーフグレード(葉茶スタイル)、近代的なブロークングレード(砕茶スタイル)、その他に区分した名称と等級がつけられている。
[天野秀二]
茶葉の形状、外観を重視して中国語からきた名称がつけられている。
(1)オレンジ・ペコー(O・P) オレンジは中国語の橙黄(とうこう)、ペコーは中国語の白毫(はくごう)(白い毛)からきた名称。橙黄色の芯芽(チップ)を多く含んだ細い針金状の長い葉の意で上級品。
(2)ペコー(P) オレンジ・ペコーよりも短く太めでよくよれた葉で中級品。
(3)ペコー・スーチョン(P・S) スーチョンとは中国語の小種(しょうしゅ)(小さな植物の意)からきた名称。ペコーの葉柄部分の切り頭で太く丸く仕上げられた葉で下級品。
[天野秀二]
リーフグレードよりも早く濃厚な味がでるタイプで、世界の主流商品となっている。
(1)ブロークン・オレンジ・ペコー(B・O・P) オレンジ・ペコーを切断したもので、紅茶のなかではもっとも需要の多い葉で上級品。
(2)ブロークン・ペコー(B・P) ペコーを切断したもので中級品。
(3)ブロークン・ペコー・スーチョン(B・P・S) ペコー・スーチョンを切断したもので下級品。
[天野秀二]
粉茶タイプが含まれる。
(1)ファニング(F) 風選で出た浮葉でもっとも小形の葉。オレンジ・ファニングはチップを含んだ上級品。
(2)ダスト(D) ふるい分けで出る粉茶。
(3)CTCティー(粉茶) 製造工程の揉捻の段階でCTC(crushつぶし、tearひきさき、curlまるめる)機でつくる粉茶。浸出時間が短くて濃厚な色と味が出るため、ティーバッグの原料に向いている。紅茶は湿気を嫌い、また香りも移りやすいので、缶詰のものでも蓋(ふた)をあけたならば二重缶で保管する。ティーバッグはとくに袋の紙が吸湿しやすいので、缶や密閉容器に入れて保存する。
[天野秀二]
茶はもともと薬用効果が認められて飲まれるようになったもので、総じて茶の効用とはカフェイン(苦味)、テアニン(うま味)、タンニン(渋味)の三大成分による心身への鎮静作用といえる。その効用を生かしたおいしいいれ方は、紅茶の場合もいくつか基本的なルールがあげられる。イギリス式のゴールデンルールによると次のようになる。
(1)水は硬水を避け、くみたての新鮮な軟水を用いる。
(2)沸騰している湯を用いる。
(3)茶葉の適量は1人分約3グラム(ティースプーン山盛り1杯相当分)であるが、人数分プラス1杯がイギリス流においしくいれるこつである。
(4)あらかじめ温めておいたポットに茶葉を入れ熱湯を注ぐが、浸出時間はリーフタイプでおよそ4分前後、ブロークンタイプで3分前後が目安とされる。
(5)浸出時間が終わるまでポット内の熱が冷めないように、茶帽子をかぶせたり、タオルを巻いたりして保温する。
こうしていれた紅茶は茶漉(ちゃこ)しで漉してカップに注ぎ、好みにあわせてミルク、レモン、オレンジ、スパイス、ナッツ、ジャム、洋酒などを加えて飲む。ティーバッグのいれ方もほぼ同じであるが、浸出時間は1分程度がよい。
アイスティーは、湯の量を半分にするか、または茶葉の量を2倍にして濃くいれ、あらかじめ氷を入れて用意したグラスに熱い紅茶を注いで瞬間的に冷やしてつくる。
このほか変わった紅茶のいれ方にトルコ式がある。トルコは紅茶産出国にもかかわらず、その飲み方については一般にあまり知られていない。このいれ方でもっとも特徴的なことは、茶と湯をいっしょにしないことである。チャイダンルックという二段重ねのポットを用い、上段に茶葉、下段に水を入れて火にかけ、上段の茶葉が蒸されたところに下段の湯を少量入れ、濃くいれた紅茶をティーカップに注ぎ、下段ポットの湯で適宜薄めて飲む。たとえば、小高い丘の上のチャイハネ(茶店)で何杯も飲み、最後に飲む茶はケイフチャイ(喜びの茶)という。また、ロシア式紅茶の代表的ないれ方はイギリス式、トルコ式とも違って、ポットの中に紅茶の葉を入れて煮出し、濃い液をサモワールの熱湯で好みに薄めて、ウォツカ、ジャムなどを入れて飲む。
[天野秀二]
『陳東達著『茶の口福』(1974・文化出版局)』▽『斉藤禎著『紅茶読本』(1975・柴田書店)』▽『荒木安正著『紅茶技術講座』(1978・柴田書店)』▽『天野秀二著『紅茶百科』(1980・昭文社)』▽『安田容子著『嗜好』(1981・明治屋)』▽『守屋毅著『お茶のきた道』(1981・日本放送出版協会)』▽『出口保夫著『英国紅茶の話』(1982・東京書籍)』
出典 平凡社「普及版 字通」普及版 字通について 情報
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出典 株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について 情報
…飲料はアルコール飲料と非アルコール飲料に大きく分類され,これらの製造業を飲料工業という。アルコール飲料すなわち酒類は清酒,ビール,ウィスキー,ブドウ酒などがおもなもので,非アルコール飲料には炭酸飲料,果実飲料,濃厚乳酸飲料などの清涼飲料のほか,コーヒー,紅茶,緑茶などが含まれ,その裾野は広い。
[アルコール飲料]
日本の酒税法では,アルコール分1度以上の飲料を酒類と定め,清酒,合成清酒,焼酎(しようちゆう),みりん,ビール,果実酒類,ウィスキー類,スピリッツ類,リキュール類,雑酒の10種類に分けている。…
…(3)グラニュ糖 結晶が上白糖よりやや大きく,さらさらした感じの高純度の砂糖で,癖のない淡白な甘みをもつ。コーヒー,紅茶に最適で,菓子,料理用にも多く用いられている。純度は99.8%以上で,ほぼ純粋な砂糖と考えられ,ざらめよりも結晶が小さいために水に溶けやすい。…
…温暖多雨の地方で栽培されるツバキ科の常緑樹(イラスト)。幼葉を摘んで加工し,緑茶,紅茶などの嗜好(しこう)飲料として古くから愛飲され,一部の地域では漬物の原料とする。 ツバキ属,チャ節に属する2変種からなる。…
…にもかかわらず,西インド諸島の砂糖プランターや商人の反対にあって,その後も繰り返して提案された同趣旨の法案はいずれも否決された。しかし,労働者の朝食にも紅茶が定着しはじめて砂糖の消費が増加すると,賃金の切下げを望む産業資本家層は,国際的にみて高価なイギリス領西インド諸島産砂糖による市場の独占を打破すべく,奴隷貿易の廃止を訴えはじめる。また,クエーカー教徒などによる宗教的理由による反対論も強まる。…
…ディナー・パーティほど豪華ではないが,19世紀後半にはティー・パーティもしばしば開かれた。1833年以降の中国茶輸入の自由化,それにつづくインド茶の輸入開始によって,紅茶はイギリス人一般の生活の一部となり,さらに夕食時間がしだいに遅くなるにつれて,午後4時ころのティータイムの慣習が生まれた。この時間に合わせて客を招き,紅茶とサンドイッチやケーキ,クッキーなどの軽食を供するのがティー・パーティである。…
※「紅茶」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社世界大百科事典 第2版について | 情報
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