松脂(読み)マツヤニ(その他表記)turpentine

翻訳|turpentine

デジタル大辞泉 「松脂」の意味・読み・例文・類語

まつ‐やに【松脂】

などの幹の傷口から分泌される樹脂。特有の匂いがあり、無色ないし淡黄色の液体であるが、揮発成分を失うと固化する。テレビン油を含み、水蒸気蒸留によって除去するとロジンが得られる。松膏しょうこう
[類語]樹脂やに樹液

しょう‐し【松脂】

まつやに」に同じ。

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精選版 日本国語大辞典 「松脂」の意味・読み・例文・類語

まつ‐やに【松脂】

  1. [ 1 ] 〘 名詞 〙
    1. 松の樹幹から分泌する樹脂。無色透明だが、時間がたつと粘り気を増し、白濁して黄色みを帯びた固体ができる。芳香があり、水には溶けないがアルコールなどには溶ける、水蒸気蒸留によりテレビン油とロジンが得られ、塗料溶剤、ニス、医薬品、紙のサイジング剤などに広く用いられる。松膏(しょうこう)。まつやね。〔十巻本和名抄(934頃)〕
    2. ロジン
  2. [ 2 ] 狂言。大蔵・和泉流。正月恒例の松囃子の日に、みなが集まって「松脂やにや小松脂やにや」とはやしていると、松脂の精が現われて、自分のめでたいいわれを語り、さらに人々の求めに応じて薬煉(くすね)をねるしぐさをいれながら、めでたく舞い納める。「狂言記」で「松の精」。

しょう‐し【松脂】

  1. 〘 名詞 〙まつやに(松脂)」のこと。
    1. [初出の実例]「白朮、黄精、松脂、穀実之類、以除内痾」(出典:三教指帰(797頃)中)
    2. [その他の文献]〔抱朴子〕

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「松脂」の意味・わかりやすい解説

松脂
まつやに
turpentine

天然樹脂の一種。生(なま)松脂とロジンの二通りの意味がある。マツ科の植物の幹に傷をつけるとバルサム(生松脂)が分泌される。特有の強い芳香がある。生松脂を水蒸気蒸留して含有されているテレビン油を除去したのち、加熱して水分を除いて冷却固化した黄褐色のもろい樹脂がロジンである。主成分は樹脂酸(C20H30O2アビエチン酸とビマル酸)と、一般式CnH2n-10O4のコロフェン酸からなる。ワニス、接着剤、ベルトの滑り止め、紙のサイジング剤などに利用する。特殊な用途としては、松脂とひまし油を混合し加温して得られた粘着物をハエ取り紙に使用したことがあった。

[垣内 弘]

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改訂新版 世界大百科事典 「松脂」の意味・わかりやすい解説

松脂 (まつやに)

マツ属樹木が幹から分泌するやに。幹の方向に発達した細胞間道に,周囲の細胞から送りこまれた分泌物がたまり,外部にあふれでて松やにとなる。採取のためには樹皮をはぎ,木部に傷をつけ,にじみでてきたものを集める。分泌したばかりの松やには,無色透明の,粘りけの強い液体(生松やにと呼ぶ)であるが,時とともに揮発性成分が蒸発して固形物となる。これに水蒸気をあてたときに水蒸気とともにでてくるもの,および前記の揮発性成分がテレビン油ガムターペンティン)で,残ったものがロジンガムロジン)である。ロジンだけを松やにと呼ぶこともある。松やにはやにのうち最大の工業原料であり,採取の効率化が広く行われている。とりわけ傷の上方数mへの薬剤(例,パラコート)塗布は松やにの分泌量を7~8倍にも増やす。松やにの生産はかつてはアメリカが中心であったが,今は中国となった。日本は生産を行わず,主として両国から輸入している。
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百科事典マイペディア 「松脂」の意味・わかりやすい解説

松脂【まつやに】

マツ属の樹木から分泌される天然樹脂。樹幹に傷をつけて採取する。採取直後は無色透明でやや粘稠(ねんちゅう)な液体だが,時間がたつにつれて揮発成分を失って粘性を増し,白色固状物質を析出する。特有の強いにおいがあり,主成分はロジン(70〜75%),テレビン油(18〜22%)。エーテル,アルコール,クロロホルム,酢酸などに可溶。水蒸気蒸留によりテレビン油を留出,残渣(ざんさ)として固体のロジンが得られる。中国,米国が主生産国で,日本は大部分を両国から輸入。ロジンのみを松脂ということもある。
→関連項目樹脂封蝋

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「松脂」の意味・わかりやすい解説

松脂
まつやに
pine resin

生松脂とロジン (固松脂) の2つに区分される。 (1) 生松脂 天然樹脂の一種。マツ属の樹幹を傷つけると分泌されるバルサムで,成分は樹脂分 (ロジン) 70~75%,精油 (テレビン油) 18~22%,水その他の不純分5~7%。そのうち樹脂酸は全体の 60~65%となっている。粘稠な液体で,長く放置すると精油成分が揮発して白色固形状になり,淡褐色に着色することもある。エーテル,アルコール,クロロホルム,酢酸に可溶,水に不溶。水蒸気蒸留してテレビン油をとり,残部からロジン (固松脂) を得る。皮膚刺激薬として軟膏基剤とする。 (2) ロジン 樹脂酸 (80~97%) を主成分とする淡黄色のガラス様光沢のある塊状物質。表面は粉末でおおわれている。軟化点 80℃,融点 90~100℃。エチルアルコール,メチルアルコール,テレビン油に可溶,水に不溶。製紙用添加薬品,ワニス,印刷インキ,殺虫剤,ゴムの軟化剤および粘着剤などに用いられ,また,絆創膏,硬膏基剤などの医薬品としても使用される。

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普及版 字通 「松脂」の読み・字形・画数・意味

【松脂】しようし

やに。

字通「松」の項目を見る

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世界大百科事典(旧版)内の松脂の言及

【松囃子】より

…後年,江戸幕府の正月2日(1654年からは3日)の謡初(うたいぞめ)を松囃子と呼んでいるが,これは室町幕府での松囃子と謡初がともに正月の観世大夫所演の儀式であり,室町末期には両者とも退転していたために混同されたものである。松囃子の遺風としては狂言に《松脂(まつやに)》や《松囃子》(和泉流)があり,民俗芸能に熊本県菊池市隈府(わいふ)および福岡市博多の松囃子がある。【天野 文雄】。…

※「松脂」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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