日本大百科全書(ニッポニカ) 「中村桂子」の意味・わかりやすい解説
中村桂子
なかむらけいこ
(1936― )
生命科学者。東京生まれ。1959年(昭和34)東京大学理学部化学科を卒業し、分子生物学の研究・教育を目ざして新設された同大学院理学系研究科生物化学専攻に進学。1964年理学博士となり国立予防衛生研究所(現、国立感染症研究所)に入所。出産のため退職した後、1971年三菱(みつびし)化成(現、三菱ケミカル)生命科学研究所社会生命科学研究室長となり、1981年同人間自然研究部長に就任する。1989年(平成1)より早稲田(わせだ)大学人間科学部教授、同大学院人間科学研究科教授、三菱化成生命科学研究所名誉研究員などを歴任。1993年には発生生物学者の岡田節人(ときんど)(1927―2017)とともに、生命現象と生命体を総合的にとらえ、生きものを「歴史と関係」と「多様性と普遍性」の観点から理解する「生命誌」を研究するJT生命誌研究館を設立し、副館長に就任。1995年東京大学先端科学技術研究センター客員教授、1996年大阪大学連携大学院教授。2002年(平成14)よりJT生命誌研究館館長。
フランシス・クリックとともにDNAの二重らせんモデルを1953年に発見したジェームズ・ワトソンの著書『二重らせん』The Double Helix(1968)を1968年に江上不二夫(ふじお)とともに訳出し、日本における分子生物学の一般への啓蒙に大きな役割を果たした。同書はDNAの二重らせんモデルが発見されるまでを、この業績でノーベル賞を受賞した発見者本人が描いたドキュメントであり、遺伝などさまざまな生命現象の基礎となる分子レベルのメカニズムを一般の読者向けに解説した名著である。
著書も数多いが、そのほとんどは、生命の基本原理であるDNAの二重らせん構造による遺伝のメカニズムと、これに基づく生命の普遍性と多様性に関する分子生物学的理解のためのやさしい解説書であり、その啓蒙的業績は高く評価されている。
[大和雅之]
『中村桂子著『生命誌の扉をひらく』(1990・哲学書房)』▽『中村桂子著『生命科学から生命誌へ』(1991・小学館)』▽『中村桂子著『自己創出する生命――普遍と個の物語』(1993・哲学書房/増補版・ちくま学芸文庫)』▽『中村桂子著『科学技術時代の子どもたち』(1997・岩波書店)』▽『中村桂子著『生命誌の窓から』(1998・小学館)』▽『中村桂子著『「生きもの」感覚で生きる』(2002・講談社)』▽『中村桂子著『生命科学者ノート』(岩波現代文庫)』▽『松原謙一・中村桂子著『生命のストラテジー』(1990・岩波書店/ハヤカワ文庫)』▽『松原謙一・中村桂子著『ゲノムを読む』(1996・紀伊國屋書店)』▽『ブルース・アルバーツ他著、中村桂子他監訳『細胞の分子生物学』(1985・教育社)』▽『ロバート・ポラック著、中村桂子・中村友子訳『脳の時計・ゲノムの時計――最先端の脳研究が拓く科学の新地平』(2000・早川書房)』▽『ジェームス・D・ワトソン他著、中村桂子監訳、滋賀陽子他訳『ワトソン遺伝子の分子生物学』第7版(2017・東京電機大学出版局)』▽『ジェームス・ワトソン著、江上不二夫・中村桂子訳『二重らせん』(講談社・ブルーバックス)』