中皇命(読み)なかつすめらみこと

改訂新版 世界大百科事典 「中皇命」の意味・わかりやすい解説

中皇命 (なかつすめらみこと)

古代の皇后あるいは女帝を指す語。仲天皇とも書く。用例は少なく,用いられた時期も限られ,それぞれが誰を指すか,またその語義は何かにつきまだ定説はない。しかし7~8世紀に相次いだ女帝の意義を知るために重要な語である。用例と諸説は以下のとおりである。《万葉集》巻一(10~12番)詞書の中皇命斉明女帝もしくは間人(はしひと)皇后(孝徳天皇妻),《大安寺縁起》の仲天皇は倭姫皇后(天智天皇妻)あるいは間人皇后,また宣命(神護景雲3年(769)10月)の例は元明あるいは元正女帝とみなされている。語義に関しては,女帝の例が多いので先帝と後帝の間の中継ぎの天皇の意,あるいはそれらの多くは元皇后であったため,元皇后にして女帝となったものを指す,また中宮居所とする皇后すなわち中宮天皇と同義,さらには神と天皇の間をとりもつ者としての皇后の意など諸説ある。最後の説は皇后に巫女性を認める折口信夫説である。しかし,どの用例にもあてはまる説得的な説はまだない。限られた一時期の少数の用例しかないという事実,また同時期の女帝の呼称である大后天皇,中宮天皇なども参照しつつ再考する必要があろう。皇后を指す〈おおきさき〉は,語形としては〈おおきみ〉に対応する。したがって新称号〈すめらみこと〉が成立したとき,それに対応すべき〈おおきさき〉の別称が模索されたに違いない。そのへんの事情もこの語義を探る一つの手がかりになるのではないかと思われる。
女帝
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出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「中皇命」の意味・わかりやすい解説

中皇命
なかつすめらみこと

『万葉集』の歌人。名義は未詳身分的呼称とも、「仲立ち」を意味するともいわれる。だれのことをさすのかという点で、斉明(さいめい)天皇説と間人皇女(はしひとのひめみこ)(斉明天皇の皇女で孝徳(こうとく)天皇の皇后)説とが有力だが、定説をみない。ただ、『万葉集』の題詞の書き方などからいえば天皇として待遇されていないことは確かなので、間人皇女とみるのが穏当か。『万葉集』には長歌一首、短歌四首を残す。作品は舒明(じょめい)朝と斉明朝の作として配列され(巻1、3~4歌、10~12歌)、初期万葉の代表的な歌人の1人。「たまきはる宇智(うち)の大野に馬並(な)めて朝踏ますらむその草深野(くさふかの)」(巻1、4歌)など、短歌には、みずみずしい清爽(せいそう)な叙情が認められる。歌謡のなかから個性の芽生えてくる時代を体現する歌人といえる。

[神野志隆光]

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「中皇命」の解説

中皇命 なかつすめらみこと

?-? 飛鳥(あすか)時代の歌人。
「万葉集」に長歌1首と短歌4首がおさめられている。中皇命は皇女の身分をあらわす呼称とも,「中立ち」を意味するともいわれ,斉明(さいめい)天皇(594-661)説と間人皇女(はしひとのひめみこ)(?-665)説とが有力である。
【格言など】たまきはる宇智の大野に馬並(な)めて朝踏ますらむその草深野(「万葉集」)

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