中立法(読み)ちゅうりつほう(英語表記)Neutrality Act

改訂新版 世界大百科事典 「中立法」の意味・わかりやすい解説

中立法 (ちゅうりつほう)
Neutrality Act

アメリカ合衆国が1935年8月,イタリアのエチオピア侵略にみられたヨーロッパ戦争拡大に巻き込まれるのを回避するために制定した法律。この法律では,交戦国に対する武器軍需品輸出禁止などの措置が取り決められた。この背景には当時の国内世論の孤立主義的傾向があった。この中立法は36,37,39年に改正される。36年中立法では,交戦国への借款が禁止され,さらに37年の改正によって,内乱にも適用された。また,交戦国に対する石油・鉄などの物質の輸出が承認されるかわりに,交戦国は現金支払いでしかも自国船による輸送が義務づけられた。39年中立法では,交戦国に対する武器・軍需品の輸出が承認されたが,この〈現金・自国船cash and carry〉方式は引き続き適用されることが決められた。しかし,41年の武器貸与法成立により中立法は空文化され,事実上連合国の一員としてヨーロッパの戦争に関与していくことになった。
孤立主義
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百科事典マイペディア 「中立法」の意味・わかりやすい解説

中立法【ちゅうりつほう】

主としてヨーロッパの戦争に巻き込まれるのを避けるため制定された米国の法律。1935年のイタリア・エチオピア戦争を機に制定され,交戦国への軍需品輸出と借款(しゃっかん)供与を禁止した。背景に国内世論の孤立主義的傾向があった。1936年には借款禁止規定を強化した。1937年の修正で内乱にも適用され,1939年の新中立法では枢軸(すうじく)国にのみ禁輸規定がとられた。1941年武器貸与法制定で実質的に廃棄された。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「中立法」の意味・わかりやすい解説

中立法
ちゅうりつほう
Neutrality Act

イタリアのエチオピア侵略によって世界大戦勃発(ぼっぱつ)の危機に直面した際、自国が戦争に巻き込まれないために1935年8月アメリカ合衆国で制定された法律。交戦国への武器、軍需品の売却および輸送の禁止などが取り決められた。中立法はのちに拡大、強化され、36年には交戦国への借款が禁止され、翌37年には内乱に適用されるとともに、石油、鉄などの交戦国に対する輸出を承認するかわりに、交戦国に現金支払いでの自国船輸送を義務づけた「現金、自国船輸送」条項が採用された。しかし、41年の武器貸与法成立により中立法は空文化し、事実上ヨーロッパの戦争に関与していくことになった。

[藤本 博]

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山川 世界史小辞典 改訂新版 「中立法」の解説

中立法(ちゅうりつほう)
Nuetrality Acts

アメリカが1935~39年に制定した法律。議会は35~36年に交戦国への武器,軍需品の輸出と借款を禁じ,37年にはこれを内乱国にも適用し,さらに交戦国への戦略物資の売却を「現金取引,自国船輸送」に限る法案を成立させた。35年の法はまた市民の交戦国船舶での旅行を禁じた。第二次世界大戦が始まると,議会はF.D.ローズヴェルト大統領の要請に応じ39年11月,交戦国が「現金取引,自国船輸送」を条件に,アメリカから武器や軍需品を購入できるように中立法を改正(事実上破棄)した。

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旺文社世界史事典 三訂版 「中立法」の解説

中立法
ちゅうりつほう
Neutrality Acts

国際紛争を回避し,中立を維持するために制定されたアメリカの法律
1794年と1818年にも制定されたが,特に1935年に制定されたものが有名。ファシズムによる国際危機の進展の中で,伝統的な孤立主義を守るため,交戦国に対する武器・軍需品の輸出および借款の貸与を禁止する権限を大統領に与えることを規定した。その後,内外での反ファシズムの機運に促されて改定を重ね,1941年,武器貸与法が制定されて,この法律は事実上無効となった。

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