丹下左膳(読み)タンゲサゼン

デジタル大辞泉 「丹下左膳」の意味・読み・例文・類語

たんげ‐さぜん【丹下左膳】

林不忘はやしふぼうの小説の登場人物。「新版大岡政談」などに隻眼隻腕のニヒルな剣士として描かれる。

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精選版 日本国語大辞典 「丹下左膳」の意味・読み・例文・類語

たんげ‐さぜん【丹下左膳】

  1. 昭和初期に活躍した大衆小説家、林不忘の小説「新版大岡政談」「丹下左膳」に登場する剣士。片眼片腕のニヒルな個性の持ち主として描かれ、映画化もされて人気を博した。

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「丹下左膳」の意味・わかりやすい解説

丹下左膳
たんげさぜん

林不忘(ふぼう)が創造した片眼片腕のニヒル剣士。奥州の大名相馬大膳亮(そうまだいぜんのすけ)の家臣。丹下左膳は、『新版大岡政談・鈴川源十郎の巻』(1927.10~1928.5、『東京日日新聞』連載)では、刀剣マニアの主君の密命を帯び、名刀乾雲(けんうん)・坤竜(こんりゅう)の争奪戦に活躍する脇役(わきやく)的な登場人物であったが、その強烈な個性によって読者の圧倒的な人気を得た結果、続編『丹下左膳』(「こけ猿の巻」1933.6~11、『大阪毎日新聞』『東京日日新聞』。「日光の巻」1934.1~9、『読売新聞』連載)において主人公に昇格し、埋蔵金のありかを秘めたこけ猿の茶壺(ちゃつぼ)をめぐる争いの中心人物となる。丹下左膳は昭和前期を代表する虚構の英雄像として、映画各社によって映画化されたが、1933年(昭和8)の日活映画『丹下左膳・第一篇(ぺん)』(伊藤大輔(だいすけ)監督・大河内伝次郎(おおこうちでんじろう)主演)は、丹下左膳映画の決定版として知られている。

磯貝勝太郎

映画

日本映画。1933年(昭和8)、林不忘の原作を伊藤大輔が脚色・監督した、日活の第1回オール・トーキー作品。埋蔵金のありかを秘めたこけ猿の壺をめぐる激しい争奪戦に、隻眼(せきがん)隻手の丹下左膳(大河内伝次郎)が活躍する。丹下左膳は、1928年の三社競作映画『新版大岡政談』でスクリーンに登場し、東亜キネマの団徳麿(だんとくまろ)(1902―1987)、マキノ映画の嵐寛寿郎、日活の大河内伝次郎がそれぞれ左膳を演じた。なかでも伊藤大輔監督、唐澤弘光(からさわひろみつ)(1900―1980)カメラマン、大河内による日活版は、無声映画の映像表現の粋(すい)を駆使した立回りと詠嘆調の字幕で絶大な評価を獲得し、丹下左膳の決定版となり、トーキーの本作では、映像と音の同期や比喩(ひゆ)表現など、視聴覚の実験も試みた。以後、大河内の丹下左膳は「シェイは丹下、名はシャゼン」の台詞(せりふ)とともに、山中貞雄(やまなかさだお)の『丹下左膳余話 百万両の壺』(1935年、日活)をはじめ、日活、東宝、大映など、計16本つくられた。大河内以後は、大友柳太朗(おおともりゅうたろう)(1912―1985)、丹波哲郎(たんばてつろう)(1922―2006)らの丹下左膳がある。

[冨田美香]

『『大衆文学大系18 林不忘他集』(1972・講談社)』『伊藤大輔著、加藤泰編『時代劇映画の詩と真実』(1976・キネマ旬報社)』『御園京平編『畫譜大河内傳次郎』(1976・活動資料研究会)』『伊藤大輔著、伊藤朝子編『伊藤大輔シナリオ集Ⅰ』(1985・淡交社)』『梶田章著『大河内伝次郎――人と作品・その魅力のすべて』(1992・朝日ソノラマ)』『佐伯知紀編『伊藤大輔――反逆のパッション、時代劇のモダニズム!』(1996・フィルムアート社)』『田中照禾著『資料が語る丹下左膳の映画史――大河内伝次郎から豊川悦司まで』(2004・川喜多コーポレーション)』

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改訂新版 世界大百科事典 「丹下左膳」の意味・わかりやすい解説

丹下左膳 (たんげさぜん)

隻眼隻手の超人的怪剣士・丹下左膳が,スクリーン上に初めて登場したのは1928年5月のことである。原作は林不忘(ふぼう)の《大岡政談・鈴川源十郎の巻》で,この映画化が3社競作となったため,日活版の大河内伝次郎,東亜キネマ版の団徳麿,マキノ版の嵐長三郎(のちの嵐寛寿郎)と,同時に3人の丹下左膳が出現した。3本の映画はいずれも《新版大岡政談》という題名で,監督は日活版が伊藤大輔,東亜キネマ版が広瀬五郎,マキノ版が二川文太郎である。このうち,伊藤大輔,大河内伝次郎コンビによる日活版三部作がもっとも好評を博し,ひき続き伊藤監督のトーキー第1作である《丹下左膳》(1933),さらに《丹下左膳・剣戟の巻》(1934)が,同じコンビによってつくられて,大河内伝次郎の演ずる丹下左膳は,時代劇映画のヒーローとして不動の人気を得るに至った。次いで大河内伝次郎が丹下左膳を演じた山中貞雄監督《丹下左膳余話・百万両の壺》(1935)は,林不忘の原作とはかかわりのない別個のストーリーであるという意味の字幕が冒頭につき,市井の厭世家の浪人である丹下左膳を日常的なユーモラスなタッチで描いたいわゆる〈髷をつけた現代劇〉で,スティーブン・ロバーツ監督のアメリカ映画《歓呼の涯》(1932)からヒントを得て換骨奪胎し,大衆的ヒーローの偶像性を否定する自信と話術の才気を痛快に示している。大河内伝次郎はさらに54年まで,つまり四半世紀にわたって丹下左膳を演じ続けた。ほかに丹下左膳を演じた俳優としては,第2次世界大戦以前に月形龍之介,戦後に阪東妻三郎,水島道太郎,大友柳太朗,丹波哲郎,中村錦之助(のち萬屋錦之介)がいる。

 このように数多くの丹下左膳映画がつくられてきたのは,片目片腕の虚無的な主人公の怪人ぶりが波乱に富んだストーリーのなかで魅力的に発揮されることに時代劇ならではのおもしろさがあるためであるが,それにからまって,妖婦櫛巻お藤や少年チョビ安など周辺人物の多彩さ,またほとんどの場合に主役が丹下左膳とともに大岡越前守を一人二役で演じたこと(一人三役・四役の場合もあった),さらには丹下左膳が女ものの長襦袢を着ていることに見られる衣装の華やかさ等々,あらゆる要素が映画的な魅惑を放っていることも見落とすことはできない。また,丹下左膳の怪人ぶりが人気を得る背景には,明らかに異様なもの,グロテスクなものへの興味があって,その点をさらに際物的に強めたものとしていくつかの〈女左膳〉映画がつくられている。なお,テレビでも繰り返し映像化され,丹波哲郎,松山英太郎,中村竹弥,緒形拳,若山富三郎らが丹下左膳を演じている。
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百科事典マイペディア 「丹下左膳」の意味・わかりやすい解説

丹下左膳【たんげさぜん】

林不忘の時代小説《新版大岡政談》(1927年―1928年)の主人公。以後1934年まで,不忘は丹下左膳ものを《大阪毎日新聞》《東京日日新聞》《読売新聞》の各紙に断続的に連載した。作は講談調の自由奔放な伝奇小説で,右眼と右手のない怪剣士丹下左膳が主人公として活躍する。大衆文学の代表的作品の一つで,大河内伝次郎主演など,たびたび映画化された。
→関連項目時代劇映画

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デジタル版 日本人名大辞典+Plus 「丹下左膳」の解説

丹下左膳 たんげ-さぜん

林不忘(ふぼう)の小説に登場する人物。
昭和2年「東京日日新聞」に連載された「新版大岡政談・鈴川源十郎の巻」に脇役で登場した片目片腕のニヒルな剣士。好評のため続編「丹下左膳」では主人公となった。のち大河内(おおこうち)伝次郎主演の日活版をはじめとするおおくの映画が製作された。

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デジタル大辞泉プラス 「丹下左膳」の解説

丹下左膳〔ドラマ:大村崑〕

日本のテレビドラマ。放映はNETテレビ(現・テレビ朝日)系列(1963年10月~1964年4月)。原作:林不忘。隻眼隻手の剣士、丹下左膳を主人公にしたアクション時代劇。主演:大村崑。その他の出演:白木みのる、堺駿二ほか。

丹下左膳〔ドラマ:松山英太郎〕

日本のテレビドラマ。放映はTBS系列(1967年10月~1968年4月)。原作:林不忘。隻眼隻手の剣士、丹下左膳を主人公にしたアクション時代劇。主演:松山英太郎。その他の出演:ジュディ・オング、上原浩ほか。

丹下左膳〔ドラマ:緒形拳〕

日本のテレビドラマ。放映はNETテレビ(現・テレビ朝日)系列(1970年4月~7月)。原作:林不忘。隻眼隻手の剣士、丹下左膳を主人公にしたアクション時代劇。主演:緒形拳。その他の出演:天知茂、朝丘雪路ほか。

丹下左膳〔ドラマ:丹波哲郎〕

日本のテレビドラマ。放映は日本テレビ系列(1958年10月~1959年4月)。原作:林不忘。隻眼隻手の剣士、丹下左膳を主人公とするアクション時代劇。主演:丹波哲郎。その他の出演:市川子団次、八代洋子ほか。

丹下左膳〔ドラマ:中村竹弥〕

日本のテレビドラマ。放映はTBS系列(1965年10月~1966年3月)。原作:林不忘。隻眼隻手の剣士、丹下左膳を主人公にしたアクション時代劇。主演:中村竹弥。その他の出演:大森俊介、砂塚秀夫ほか。

丹下左膳〔映画〕

1958年公開の日本映画。監督:松田定次、原作:林不忘。大友柳太朗の主演によるアクション時代劇、丹下左膳シリーズの第1作。その他の出演:大川橋蔵、東千代之介、長谷川裕見子、美空ひばりなど。

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世界大百科事典(旧版)内の丹下左膳の言及

【大河内伝次郎】より

…その多くは撮影が唐沢弘光,共演が伏見直江である。その中の1作《新版大岡政談》(1928)では,大岡越前守とともに片目片腕の虚無的な剣客丹下左膳を二役で演じたが,左膳役がとりわけ人気を呼んで,作品はシリーズ化され,トーキー作品《丹下左膳》(1933)では〈シェイは丹下,名はシャジェン〉というせりふ回しが有名となり,以後,1950年代まで繰り返し演じた。芸名は生地の福岡県上毛郡大河内村に由来する。…

※「丹下左膳」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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