大岡越前守(えちぜんのかみ)(忠相(ただすけ))の裁きぶりを描く、長短90話ほどの説話群の総称。『白子屋阿熊(おくま)一件』(髪結新三(かみゆいしんざ))以外は仮託(たとえば『天一坊一件』は勘定奉行(かんじょうぶぎょう)稲生下野守(いのうしもつけのかみ))、または虚構といわれている。実録小説としては『隠秘録(いんぴろく)』(1769)が古く、『板岡政要』『大岡政要記』『大岡仁政録』などの書名で行われており、幕末期まで成長し続けたが、諸本の関係はまだ整理されていない。講談化された時期はさだかでないが、馬場文耕(ぶんこう)『近世江戸著聞集』(1757)に白子屋一件があり、初代森川馬谷(ばこく)は正月初席に『大岡仁政録』を読んだといわれている。『娘の手を引くの件』はソロモン伝説に類似し、『小間物屋彦兵衛一件』は中国の『竜図公案(りゅうとこうあん)』に拠(よ)っているが、逆に曲亭馬琴(ばきん)作読本(よみほん)『青砥藤綱摸稜案(あおとふじつなもりょうあん)』後集(1812)は『越後(えちご)伝吉一件』に、河竹黙阿弥(もくあみ)作歌舞伎(かぶき)『勧善懲悪覗機関(かんぜんちょうあくのぞきからくり)』(1862)は『村井長庵一件』に拠(よ)るなど、後世に影響を与えた。ともあれ個々の説話の生成変移、相互関連はきわめて複雑である。
[延広真治]
『辻達也編『大岡政談』全二冊(平凡社・東洋文庫)』
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江戸の町奉行大岡越前守忠相(ただすけ)に仮託した,実録・講談・落語・歌舞伎・浪花節など一連の作品群の総称。いずれも話の主眼は,「大岡裁き」とよばれた公平で人情味のある名判決ぶりにあるが,実際には忠相とはほとんど関係のない話である。歌舞伎の「天一坊」や「村井長庵」,落語の「三方一両損」などが,今日でもしばしば演じられる代表的作品。
出典 山川出版社「山川 日本史小辞典 改訂新版」山川 日本史小辞典 改訂新版について 情報
出典 日外アソシエーツ「歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典」歌舞伎・浄瑠璃外題よみかた辞典について 情報
…そのほか江戸下層社会の貧窮者を救うために小石川養生所をつくった。彼は日本歴史でもまれにみる有能な実務官僚であったが,有名な〈大岡政談〉の話は実際の彼とはほとんど関係がなく,政治家とはかくあれかしという庶民の願望が託された架空譚である。大岡政談物【大石 慎三郎】。…
…はては林則徐を主人公にした通俗小説《林公案》も出版された。これら公案ものは江戸文学にも影響を与え,《大岡政談》をはじめとする裁判物を生みだした。【礪波 護】 公案はまた禅宗のことばとしてもある。…
…多くは講談の丸本を整理したもので,原本はおおむね講釈師の手になった。《真書太閤記》《大岡政談》などはとくに有名である。実録体小説にはお家騒動物,仇討,さばき物,武勇伝などがあり,《伊達対決》《越後評定》などがよく知られている。…
…同じ題名で,寛永年間(1624‐44)に5巻本で刊行,最初の裁判小説として好評を博し,多大の影響を与えた。井原西鶴の《本朝桜陰比事》をはじめ,月尋堂の《鎌倉比事》,作者不明の《日本桃陰比事》と続き,曲亭馬琴の《青砥藤綱模稜案》,講談本の《大岡政談》を生むきっかけとなった。日本の探偵小説の祖ともいうべきものである。…
※「大岡政談」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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