乳汁分泌不全(読み)にゅうじゅうぶんぴつふぜん

食の医学館 「乳汁分泌不全」の解説

にゅうじゅうぶんぴつふぜん【乳汁分泌不全】

《どんな病気か?》


〈ストレス解消と、休養をとり、スキンシップをたいせつに〉
 出産後2~3日すると、母乳がではじめます。その乳の出が悪い状態が乳汁分泌不全(にゅうじゅうぶんぴつふぜん)です。
 原因の1つには、乳腺(にゅうせん)や乳頭(にゅうとう)の異常や発育不全で乳汁の量が不足している、乳汁分泌をうながすホルモンの異常ででにくいなどがあります。
 しかし、乳汁分泌不全の原因の多くは、母親授乳に対する熱意がない、乳児の吸う力が弱いなどの二次的なことです。この場合は、乳汁は正常に分泌されているのに、正しく授乳が行われていないということになります。そこで、すぐに人工乳に切り替えてしまうと、ますますでにくくなります。母乳での授乳を継続しながら、マッサージなどをして、母子ともにゆったりした気分で授乳することがたいせつです。
 また、ストレスや過労睡眠不足や栄養不良なども、乳汁の分泌に大きな影響をおよぼし、乳汁の分泌が止まってしまうこともあります。日常生活ではそのような要因を減らし、授乳によって、乳児とスキンシップを楽しむくらいの気持ちをもつことがたいせつです。

《関連する食品》


〈カルシウムと水分の補給が、乳汁分泌のポイント〉
○栄養成分としての働きから
 1日の乳汁分泌量は800~900mlですが、それより少ない場合も、妊娠中よりさらに多い2500~2600kcalを目安に摂取しましょう。
 また、すべての栄養素をしっかりとることもたいせつです。とくにたんぱく質カルシウムの不足は厳禁です。肉、魚、とうふなどでたんぱく質を、ヒジキヨーグルト、小魚、青菜などでカルシウムをとりましょう。
 乳汁の分泌をよくするには十分な水分の補給をすることも必要です。食事に薄味の汁ものを添えたり、牛乳もできればコップ2杯くらいとるようにします。
 このほか、ビタミン類も血液循環をよくするため、たくさんとりたい栄養素です。
 ゴマ(ビタミンE)やカボチャの種(カロテン、B1、B2、C)、アシタバ(カロテン、C)などを積極的に摂取しましょう。
 同様にビタミンKの摂取も必要です。昔から母乳で育った子どもは病気になりにくいといわれている反面、ビタミンKが不足して出血性疾患が多いともいわれています。母体はホウレンソウキャベツレバーなどでビタミンKを積極的に補給する必要があります。現在では、粉ミルクにビタミンKを添加したり、新生児にビタミンKを与えたりします。
○漢方的な働き
 乳汁分泌不全には、タンポポの根の煎じ薬が特効的に効きます。また、葛根湯(かっこんとう)も効果があります。

出典 小学館食の医学館について 情報

家庭医学館 「乳汁分泌不全」の解説

にゅうじゅうぶんぴつふぜん【乳汁分泌不全 Hypogalactia】

[どんな病気か]
 分娩後(ぶんべんご)の乳汁の分泌が十分でない状態をいいます。
 原因は、乳腺(にゅうせん)の発育不全などで乳汁量が不足している場合や、乳汁分泌をうながすホルモンに異常がある場合などがありますが、大部分は、乳汁分泌が正常なのに、正しい授乳が行なわれないために、二次的にしだいに乳汁が分泌されにくくなるものです。
 この二次的な乳汁分泌不全症には、母親が母乳を与えようとしない場合や、妊娠中からの乳房の手入れが不十分であったり、乳頭のへこんだ陥没乳頭(かんぼつにゅうとう)などのように、乳頭の形に異常がある場合などが含まれます。
 また、赤ちゃんの吸う力が弱いことなどが原因でもおこります。
[予防]
 早いうちであれば、医師の指導に基づいて適切な手当をすることで乳汁は出るようになります。
 しかし、いったん乳汁分泌不全が完成してしまうと、治療はむずかしくなりますから、予防を心がけることがたいせつです。
 とくに最近では、職場への女性の進出、家族構成の変化などがあり、また良質の人工乳が市販されているために、安易に人工乳を与えがちになります。
 人工乳の味を覚えた赤ちゃんは母乳を受けつけなくなり、お母さんの母乳哺育への熱意の欠如に加え、ますます乳汁分泌不全が助長されるといった悪循環におちいります。
 したがって、お母さんは母乳哺育に対する強い意志をもち、産褥(さんじょく)早期から哺乳、授乳を根気よく行ない、授乳後はマッサージなどで乳汁を乳房から完全に排除しておくなどの配慮をする必要があります。
 もちろんお母さんは、十分な栄養と睡眠をとって、体調を良好に保つように心がけることもたいせつです。

出典 小学館家庭医学館について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「乳汁分泌不全」の意味・わかりやすい解説

乳汁分泌不全
にゅうじゅうぶんぴつふぜん

産褥(さんじょく)期における母乳の分泌量が新生児の哺乳(ほにゅう)に不十分な場合をいう。母乳分泌量が十分であれば新生児は哺乳後1~2時間安眠し、体重も順調に増加してくるが、乳汁分泌不全の場合は哺乳時間が長引き、1回に20分以上哺乳しても新生児の満腹感がみられず、3時間ごとの哺乳が行えないほか、哺乳後も眠りが浅くてすぐに泣きだし、ほかに原因がみられないのに生理的体重減少が1週間を過ぎても停止しない、などがみられる。正確には毎回の授乳前後の新生児体重を測定し、その差から哺乳量を計算、搾乳した場合はこれも加えて1日の母乳量を出し、産褥期の基準乳汁分泌量と比較して診断する。

 産褥中には、過労や精神的ストレスを避けて十分な睡眠と休養をはじめ、バランスのとれた栄養をとり、早期授乳を行って乳頭刺激による乳汁分泌の促進を図るほか、乳房マッサージや授乳後の搾乳によって乳汁うっ滞を防いで乳汁の産生、分泌、排出の促進を行う。陥没乳頭など乳頭の形態異常に対しては用手的矯正法を行う。

[新井正夫]

出典 小学館 日本大百科全書(ニッポニカ)日本大百科全書(ニッポニカ)について 情報 | 凡例

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