翻訳|xerophyte
耐乾性drought resistanceが大きく,乾燥して土壌水分が乏しい土地に生育できる植物。低温・塩類の過多などで土壌からの吸水が困難な土地に生育する植物を含める場合がある。乾燥地域でも川岸・湖岸など湿った場所には乾生植物以外の植物が生育するし,湿潤地域でも相対的に乾燥した尾根や岩上などに生育する植物は乾生植物に含めうる。乾生植物の乾燥に対する適応は多様であるが,基本は植物体内の水欠乏(水ストレス)に耐える能力と水欠乏を避けるしくみによっている。
植物体内の水欠乏に耐える能力を示す細胞の原形質の脱水に対する強さのしくみはよくわかっていない。蘚苔(せんたい)類・地衣類などの下等植物は極端な脱水に耐えられるものが多いし,高等植物では種子・越冬芽などの特定の器官や休眠期などの特定の時期には耐性が大きくなる。乾生植物では葉や根の含水量の低下に対して水ポテンシャル(水移動の圧で,水ポテンシャルの高い方から低い方へ水が移動する)の低下が著しいことが,乾燥時の蒸散の低下,吸水能力の向上をもたらすとの説がある。
植物体内の水欠乏を避けるしくみには次のようなものがあり,そのうち形態的な特徴は乾生形態xeromorphismといわれる。(1)気孔の陥没・すばやい開閉,表皮でのクチクラ層の発達・毛や鱗片の密生,葉の小型化・包み込み・しおれなどにより葉からの蒸散を少なくして保水する。小さな硬い葉をもち夏の乾期に耐えるコルクガシ,オリーブなどの硬葉樹や,葉は軟らかいが乾燥時にしおれたり折りたたんだりする半砂漠のキク科,イネ科などの多年草本がこの例。熱帯・亜熱帯の半砂漠に多い多肉植物は葉とか茎・根が多肉化し,貯水組織を発達させる。多肉植物には,水分損失の少ない夜間に気孔を開いて取り入れた二酸化炭素をリンゴ酸に変えて液胞に貯え,昼間に再び二酸化炭素にもどし,気孔を閉じて蒸散を防いだまま光合成を行うCAM(ベンケイソウ型有機酸代謝)植物が多い。(2)根系を発達させて吸水能力を高める。土壌が深くなるほど乾燥は遅れ,地下水があればそこまで根を伸ばすこともある。(3)活動をとめて乾燥期をすごす。乾燥地域の植物は多肉植物を除いて乾期が長くなると落葉したり地上部を枯らして乾燥に耐える。砂漠の短命草本は典型的で,乾生形態をもたない広葉草本だが,まれな降雨後の土壌の湿る短期間に発芽から結実までを終え,再び土壌中の種子で次の降雨まで乾燥に耐える。
執筆者:藤田 昇
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
陸上植物を生育地の水分条件によって、乾生、中生、湿生の三つに分類したうちの一つ。乾生植物は、大気や土壌中の水分が不足する乾燥地や、高山、寒地、塩地などのような低温や塩分過多のために生理的に吸水困難な場所に生育する植物で、生育のための害をほとんど受けることなく、継続的な萎凋(いちょう)(しおれる)状態に耐える能力、つまり著しく高い耐乾性をもっている。それは葉の形態学的構造(クチクラの発達、気孔の陥没、密生した毛、蝋皮(ろうひ)など)によって蒸散作用を低下させたり、細胞液中に糖分や電解質を保持する能力をもって植物体内の水分が喪失するのを防ぐためである。また、サボテンや多肉植物は植物体内に多量の水を蓄え、体表面積が容積のわりに小さく、蒸散を減らしている。
[大賀宣彦]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
… 数年以上の寿命をもつ生物の多くは,また違った方法によって乾燥と高温に耐えるためのくふうをこらしている。砂漠の植物は一般に乾生植物と呼ぶことができるが,その特徴としては次のような点があげられる。(1)蒸散の抑制のために,葉の表面積の縮小,気孔の陥没,表皮のクチクラ化やコルク化,断熱的な白毛や蠟による被覆などが見られること。…
※「乾生植物」について言及している用語解説の一部を掲載しています。
出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」
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