最新 心理学事典 「交通心理学」の解説
こうつうしんりがく
交通心理学
traffic psychology(英),Verkehrspsychologie(独)
【運転適性】 同じ運転条件であっても事故を繰り返す事故反復者accident repeaterと無事故者とが存在するとして,両者の比較によって事故多発状態の特徴を明らかにするのは伝統的な方法の一つである。両群を心理検査で弁別しようとするのが適性研究である。運転適性には,免許を付与する条件としての適性と免許取得後に安全運転をするかどうかの適性との二つの意味がある。交通心理学で扱うのは後者の適性である。その適性検査では事故率によって分けた事故反復者群と事故寡少者群の間に検査成績の差が出ることが基準関連妥当性として重視された。質問紙法や投映法による検査の基準関連妥当性は低かったが,妥当性が認められた検査には反応の動作を促す作業検査が多かった。それらの研究の結論の一つは,事故反復者は反応の遅い人ではなく正確さに欠ける面があることであった。速さよりも正確さが安全につながる,との教えは適性研究の成果による。
【運転行動と安全教育】 運転中の生理的変化,速度や距離の認知の正確さ,他者への感情や逸脱行為などの社会心理面などさまざまな運転行動が研究されてきた。1970年代からはビデオの普及によって運転者の眼球運動や行動(運転ぶり)の分析が進んだ。そこで見いだされたことの一つが運転行動の幅広い個人差であったので,それをもたらす運転者の主観とその適正化が問題になった。危険感受性訓練(危険予知訓練)などとよばれる教育法は,運転者が何を危険と察知するかのリスク知覚の主観性を現実的で客観的なハザード(危険)と一致させる安全教育safety educationである。交通場面に限らず安全に関する産業界で広く使われ,各方面で実践的な工夫が重ねられている。
【事故統計】 交通事故の分析には事例研究もあるが,公的な機関が集計し公表するマクロな事故統計も有効である。そこには心理学が説明すべき年齢差や男女差が見いだされる。たとえば世界各国に共通する,10代の男性が死亡事故を起こす率が高いことなどである。自動車や道路の安全性改善による事故の増減という現象にも心理学がかかわる。リスク補償説risk compensation theoryは,自動車や道路のハード面の安全性を高めても長期的には死者は減らないと説く。たとえば,車体強度が増して運転中の死者が減っても,運転者は安全になった分スピードを出し,その結果死者を出すので全体の死者は減らないと説く。論争を起こした説であるが,人の要因を抜きに事故の増減を論じるのは難しいことを示唆した説である。 →作業環境
〔吉田 信彌〕
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