人力車(読み)ジンリキシャ

デジタル大辞泉 「人力車」の意味・読み・例文・類語

じんりき‐しゃ【人力車】

後ろの座席に人を乗せ、梶棒を両手で持ち、人の力で引く二輪車。明治2年(1869)和泉要助・高山幸助・鈴木徳次郎らが考案し、明治・大正にかけて盛んに利用された。力車。

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精選版 日本国語大辞典 「人力車」の意味・読み・例文・類語

じんりき‐しゃ【人力車】

  1. 〘 名詞 〙 人を乗せ人の力で引く二輪車。腰掛座席、車輪、梶棒、幌(ほろ)などから成り、一人乗りと二人乗りとがある。明治二年(一八六九)、和泉要助、高山幸助、鈴木徳次郎らが共同で発明したのに始まり、明治・大正時代には重要な交通機関として普及した。くるま。人力。力車。腕車(わんしゃ)。人車。じんりきぐるま。
    1. 人力車〈東京風俗志〉
      人力車〈東京風俗志〉
    2. [初出の実例]「東京人力車発明の当兮は」(出典:新聞雑誌‐一号・明治四年(1871)五月)

人力車の語誌

( 1 )起源についてポール=ブルムは、人力車がロンドンの辻馬車や温泉地の車付きの椅子に似ていることや、一八世紀のフランス衣裳についての豪華本に、淑女の乗った二輪車の柄を男が引っぱっている絵が載っていることなどから、西洋にもあったといっているが、直接の関係はないと思われる。
( 2 )日本での形は明治二年(一八六九)、和泉要助ら三人が創始し、明治三年三月、東京府御役所へ願書を提出して許可されたもの。この三人の願書には「人車」とあったのだが、その官許の指令書に「人力車」という語が初めて用いられ、やがて定着していった。

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改訂新版 世界大百科事典 「人力車」の意味・わかりやすい解説

人力車 (じんりきしゃ)

人を乗せて人力でひく車。単に人力,俥(くるま),あるいは人車(じんしや),腕車(わんしや),力車(りきしや)ともいう。1869年(明治2)東京日本橋で料理人をしていた和泉要助が蓮台(れんだい)や西洋の馬車にヒントを得て考案,知人の鈴木徳次郎,高山幸助との連名で,東京府に製造と輸送業務を出願して営業許可を得,翌70年3月,日本橋南詰西側の高札場のかたわらに〈御免人力車処〉ののぼりを出して営業を開始した。当初の人力車は,4本柱を立てた箱に車輪と屋根をつけたようなものであったが,73年までにはすでに車体にスプリングをつけ,ほろや長いかじ棒を設けた,今も見られるような外見のものに改良されていた。人力車の普及はめざましく,1872年2月の東京府下には華族,官員らの自家用88両を含めて1万1040両を数えた。76年には2万4470両と倍増していたが,その半数以上は〈相(合)乗車(あいのりぐるま)〉で,芸者と客が同乗して1枚のケットをひざにかけている姿がよく見られ,〈合乗り幌(ほろ)かけ,頰(ほ)っぺた押っつけ,テケレッツのパア〉という歌がはやったこともある。89年ごろから,それまでの木輪にかえてゴム輪を用いることが自家用車に行われはじめ,1909年にはそれが急激にひろまり,12年には空気入りのタイヤを装着するものが出現した。乗りごこちはたいへんよくなったのであるが,車を賃借りする車夫たちにとってはそれに伴う賃借料の値上げが大問題で,1909年には廃業する者が多く,12年には300人の車夫がゴムタイヤの使用制限を警視庁に嘆願するほどであった。20年代ごろから市街電車自動車が発達し,とくに23年の関東大震災さかいに,〈円タク〉と呼ばれた流しやつじ待ちタクシーが増加するにともなって人力車は衰退し,現在では一部の花柳街や観光地に見られるだけになった。なお,明治の文明開化期における新文物の大半が欧米由来のものであるところから,人力車の発明は日本人の手になるものとして高い評価を受けたことがあり,明治以来,中国東南アジアなどのほかヨーロッパにも輸出され,中国では洋車(ヤンチヨー)の名で親しまれていた。
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日本大百科全書(ニッポニカ) 「人力車」の意味・わかりやすい解説

人力車
じんりきしゃ

人を乗せ、車夫が引いて走る二輪車の総称。人力とも略称、俥(くるま)とも書く。1869年(明治2)、旧福岡藩士和泉(いずみ)要助、八百屋(やおや)鈴木徳次郎、車職高山幸助らが協力して発案。70年、東京で開業して以来、全国的に普及。東京だけで72年に1万1040台、76年には2万4470台と激増した。一部はヨーロッパやアジア諸国に輸出され、リキシャとよばれ海外でも名をはせた。車体は、秋葉大助(初代、2代)の苦心により改良が重ねられたが、胴(どう)(座席)、車輪、梶棒(かじぼう)、幌(ほろ)などから構成される基本は変わらなかった。胴は腰掛となる部分で、それには軽くて水に強いサワラ(椹)材が使用された。左右のわきに肘掛(ひじかけ)が、前方下部に乗客が足をのせる蹴込(けこみ)がつく。車輪は、当初荷車のようにカナワ(鉄輪)製で、引くとガラガラと音を立てたが、しだいに棒ゴムタイヤとなり、1912年(明治45)には空気入りゴムタイヤに改良された。梶棒は、車夫が手に握って引くため取り付けられたもので、かなりの重量に耐えられるよう、カシ(樫)材が好まれた。幌は胴に取り付けられ、乗客の雨よけ・日よけ用に不可欠なものとされた。胴の両側と前後および屋根に黒繻子(くろじゅす)を張った。雨降りには、これら全部を張り回したが、晴天時には横幌と前幌とを取り外せるようにしてある。車夫は、梶棒を地面につけた状態で人力車に乗客をのせ、梶棒を地面に水平になるようあげてから引く。この操作によって、車輪の心棒よりも前にあった重心が、心棒よりもやや後方に移動するわけで、いわゆるウシロニ(後荷)の軽い状態で引けるようくふうされていた。引き方には、抱え走り(ひっさげ走り)、槍持(やりもち)走りの別があり、車夫の装いは、ズン胴(鯉口(こいぐち))または腹当(はらあて)を着け、股引(ももひき)をはき、饅頭笠(まんじゅうがさ)をかぶり、草鞋(わらじ)または跣足袋(はだしたび)を履いた。雨天には合羽(かっぱ)を、雪中には手甲(てっこう)をつけた。駕籠(かご)にかわって明治期以降、幅広く各層の人々に親しまれ、乗り物の主流を占めてきたが、乗用自動車の普及に伴ってその地位を譲るに至った。

[天野 武]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「人力車」の意味・わかりやすい解説

人力車
じんりきしゃ

客を乗せ,人力で引張る2輪車。東京鉄砲洲の和泉要助と本銀町の高山幸助らが,舶来の馬車の形から案出したもの。明治2 (1869) 年に試運転し,翌年3月に「新造車」として開業を出願した。まず日本橋のたもとに3台おいたという。初期のものは車体に4本柱を立てて屋根をかけ,幕などを張りめぐらした。翌4年に秋葉大助が車体を改良,蒔絵を散らした背板などをつくった。 1873年頃までに大流行し,全国に3万 4200両も普及したと記録されている。後年タイヤ車に改良され,さらに普及するとともに,中国,東南アジアにも洋車 (ヤンチョ,東洋=日本車) として多く輸出され,「ジンリキシャ」「リキシャ」の英語呼びまでできるほど普及した。 1900年3月には発明関係者が賞勲局から表彰されたりしたが,すでにその頃から日本では電車,自動車におされて衰微が始り,やがて花柳界など特殊な世界以外ではすたれた。

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百科事典マイペディア 「人力車」の意味・わかりやすい解説

人力車【じんりきしゃ】

人を乗せて人力で引く車。人力,力車,俥(くるま)とも。1869年ごろ東京で和泉要助らが西洋馬車からヒントを得て考案。当初は木車で鉄輪。明治末ごろから車輪もゴムタイヤになり,主に旅客用に盛んに用いられたが,電車,自動車の発達により1920年代の半ばから利用が減り,現在では観光客向けのものがわずかに残っている。なお第2次大戦後,輪タクと呼ばれる自転車式のものが一時復活した。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「人力車」の解説

人力車
じんりきしゃ

人を乗せて人力で牽引する車。1869年(明治2)に東京日本橋の和泉要助が,西洋の馬車をモデルに考案したといわれる。和泉らが営業を開始したのは70年3月。その後めざましく普及し,76年には東京府下で2万台をこえるに至った。大正期以降市街電車や自動車が出現してくると,急速に衰えた。

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旺文社日本史事典 三訂版 「人力車」の解説

人力車
じんりきしゃ

明治時代の代表的乗物で,人力で引く乗用二輪車
人力・力車ともいう。1869年和泉要助らが発明。文明開化の象徴の一つとして普及。関東大震災ののちは中国・東南アジア・アフリカなどにも輸出された。

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