日本大百科全書(ニッポニカ) 「人材政策」の意味・わかりやすい解説
人材政策
じんざいせいさく
manpower policy
国家的視野からみた、社会における人材の養成、再訓練、配置に関する政策。マンパワー政策、マンパワー・ポリシーともいう。関連用語としては、国や地方自治体などのレベルにおける、中等教育以降の各分野の将来的な人材養成計画をいう「人材開発」manpower development、国や地方自治体および各種機関・団体などによる研修や、生涯教育などを目的とした再訓練や再教育を意味する「人的能力開発」human resource developmentなどがある。
なお、人材開発は教育・経済・産業の諸団体においても提言されることが多く、人材開発と人的能力開発は同様に理解される場合もある。こうした課題は労働経済学、教育計画、教育経済学などきわめて政策科学的色彩の濃い学問分野によって取り組まれている。人材政策は、1950年代からアメリカ、ソ連を中心とした先進工業国で関心がもたれた。その理論を支えた代表的研究者は、T・W・シュルツ、ハービソンFrederick Harris Harbison(1912―1976)、マイヤーズCharles Andrew Myers(1913―2000)らであり、組織としては経済協力開発機構(OECD)や国際労働機関(ILO)の活動があげられる。
日本においては、1957年(昭和32)の経済企画庁(現、内閣府)による「新長期計画」を受けた1960年代の経済審議会の答申以来、「中期経済計画」「経済社会発展計画」「新経済社会開発計画」が矢つぎばやに出され、政治、経済、文化、生涯教育などを含む総合的視野から、人材政策が模索されてきた。
1970年代以降、産業構造の変化や高等教育の大衆化に伴って、政府主導型の人材養成計画の政策的効果はやや薄れてきた。しかし、高等教育が普遍化(大学進学率が50%以上)し知識基盤社会へと移行するにつれ、大学研究の高度化に関する改革とともに、先端技術をめぐる高度人材政策、とりわけIT(情報技術)革命時代に対応した新たな人材政策や、科学技術の基礎研究を支える人材政策が要請されるようになった。それと同時に、生涯学習の一環としての高度人材政策であるリカレント教育(循環教育・再生教育)、現職社会人の高度な再教育を志向したリフレッシュ教育(OECD提唱のリカレント教育を受けて文部科学省が提唱・推進)による人材の再開発や、OJT(職場訓練on the job training)の重要性が指摘されている。
また、1990年代以降、日本経済の不況と相まって、大学院教育を修了した人材、とくに後期博士課程を修めたいわゆる「高級人材」(高度な専門性を有する高学歴の人材)についての社会的需要と供給がうまく機能しておらず、人材政策のあり方として社会問題となっている。今後はとくに、労働市場と高等教育における人材政策のあり方が問われる。
[山野井敦徳]