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労働経済学 ろうどうけいざいがくLabour Economics

ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典の解説

労働経済学
ろうどうけいざいがく
Labour Economics

経済学的手法をもって生産要素としての労働力に関する問題を分析する応用経済学の一分野。 (1) 賃金決定論,(2) 雇用・失業決定論,(3) 労使関係論,(4) 労働政策などに関する現実的課題についての議論が含まれる。従来から経済学において労働は,生産要素の一つとして不可欠なものとみなされてきたが,同時に経済主体としての労働者の最も重要な所得稼得の源泉であり,またその取引・再生産は慣習や制度の影響を強く受けるという特徴をもつ。こうした特徴ゆえに,労働は古くから経済学の主要な分析対象の一つであった。独立した学問分野として確立したのは 1930年代後半から 40年代初頭であって,アメリカにおいて R.A.レスター,L.G.レイノルズ,C.カーらの制度学派に属する経済学者たちによって先鞭をつけられた。第2次世界大戦後,G.ベッカーの人的資本理論などの新古典派的手法を取入れた研究が急速に発展し,さらに 70年代以降,内部労働市場論を先駆けとして企業組織内部の賃金構造,昇進過程の分析が進められている。また労使関係の分析ではゲームの理論を応用した労働組合と経営者の間の所得分配の研究も数多くなされている。

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世界大百科事典 第2版の解説

ろうどうけいざいがく【労働経済学 labor economics】

労働経済学という名称が日本で広く使われるようになり,いわば市民権を得るようになったのは比較的最近のことである。けれども今日の労働経済学が分析の対象としていることがらそのものの研究の歴史はきわめて古い。日本ではそれは明治期の学界における労働問題一般の研究に端を発し,その後ドイツ社会政策学の影響を受けた第2次大戦前から戦後にかけての社会政策の長い伝統のもとで発展させられてきた。1950年代半ば以降社会政策研究の蓄積を生かしつつも,一方ではアメリカにおける労働経済学の発展に触発され,他方では日本の労働市場や労働組合運動の実態分析の蓄積の上に立って,労働問題の研究を,市場機構の実証分析をより積極的にふまえた〈労働経済論〉として発展させようという動きが強まり,今日における〈労働経済学〉の萌芽を形成するに至った。

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

労働経済学
ろうどうけいざいがく
labour economics

ここ20~30年の間に著しい発展を遂げた研究分野に、産業社会学、労働社会学、情報化社会論、産業経済論など多様な名称のもとで、産業、労働を対象とした理論と実証がある。労働経済学はその中心的位置を占めてよいはずであるが、その主張はかならずしも統一化されているわけではない。たとえば、「資本主義経済機構における〈賃労働〉の再生産構造を分析」「賃労働の政治経済学」「応用経済学の一分野」「資本の反対極に存在する賃労働の構造と運動の独自性を明らかにすることを課題」「労働についての諸仮説を展開するために重要である経済理論の探索」「労働市場の経済学」「労働に関連する事象についての、経済学の立場からの分析の体系」など、とらえ方や接近方法の幅は広すぎる。
 アメリカ制度学派のJ・R・コモンズ、S・パールマンによる労働組合の歴史的研究は、1930年代の不況期から近代経済学の理論や労使関係論を吸収しながら、しだいに労働経済学とよばれる体系を整えた。それから30年、R・A・レスター、L・G・レイノルズ、N・W・チェンバレン、J・T・ダンロップなどによって、労働経済学の分野は、労働市場、所得分配、団体交渉にまで拡充し、その教科書も版を重ね、大学に労働経済学の講座が置かれるほど普遍化した。もとよりかかる理論や分析を必要とする労働問題が、アメリカ経済に大きな位置を占め始めた事実の背景を見逃してはならないであろう。さらに人間資本論、内部労働市場論、教育投資という新しい分野が、B・M・フライシャー、R・B・フリーマン、G・S・ベッカーなどによって付け加えられた。
 わが国で「労働経済」を本格的に取り上げ始めたのは1960年代に入ってからであるといってよい。東京大学の社会政策講座が労働経済にかわったのは1963年(昭和38)、いまだ統一体系をもたない多くの執筆者が自由に専門分野を展開した『労働経済』全4巻の講座が出版されたのは67年であった。いまではすっかりなじんでしまった報告『労働白書』は、「労働経済の分析」の名でよばれている。アメリカ的労働経済学の種を散布されたわが国の土壌には、すでに第二次世界大戦前から社会労働問題を対象とした学問的分野「社会政策」が根づいていた。しかし華々しい本質論争を巻き起こしたにもかかわらず、社会政策は、しだいに風土的性格を帯びて発芽した労働経済学に包含されるのである。もとより、マルクス経済学から近代経済学に主導権が移ったばかりでなく、労働の固定性や人的資本論の課題が、わが国の研究者のなかに噴き出したことや、官庁統計の完備などが、巧みに労働経済学の根幹の肥料になったとみてよいであろう。いまやわが国の労働経済学は、イデオロギーを打ち消しながら、団体交渉の賃金決定分析、企業内労働市場論、労使関係成熟論、内部昇進制、熟練など、枝葉を茂らせつつある。おそらく人々の効用を極大に導く国家政策の科学的果実を、労働経済学はこれから生み出していくに違いない、とみておきたい。[小泉幸之助]
『氏原正治郎他編『講座 労働経済』全4巻(1967・日本評論社) ▽小野旭著『労働経済学』(1983・東洋経済新報社) ▽小泉幸之助著『改訂 労働経済の構図』(1986・時潮社) ▽田村剛著『労働経済学の基礎理論』(1989・学文社) ▽中馬宏之、樋口美雄著『労働経済学』(1997・岩波書店) ▽大竹文雄著『労働経済学入門』(1998・日本経済新聞社)』

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