一国が国防政策を決めたり,作戦計画を立てたりする場合に,仮に敵国として想定し,敵味方の戦力の分析や戦略・戦術の策定の対象とする国のことをいう。仮想敵国は,近い将来,それとの戦争が起こる蓋然性の高い特定の国を意味し,一国の軍備,兵器開発,他の友好国との軍事同盟関係などの安全保障体制は,すべてこうした仮想敵国との関係で相対的に決定される。核兵器あるいは通常兵器に関して見られる軍備競争は,相互に相手を仮想敵国とみなす国と国が,それぞれ軍事的バランスを自国に有利なものにしようと試みることから生ずる交互的な行為である。いわゆる〈冷戦〉は,ソ連を仮想敵国とみなすアメリカと,アメリカを仮想敵国とみなすソ連との間の,戦争なき敵対関係のことを指していう。今日の多極化した世界では,仮想敵国は必ずしも単数である必要はなく,1国と数国,あるいはブロックとブロックが互いに相手を仮想敵国とみなすという関係にあることもまれではない。これらの諸例で明らかなように,そもそも〈軍事的バランス〉という概念は,相互的な仮想敵国の関係を前提としたうえで初めて意味をもつ概念なのである。
執筆者:田中 靖政
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将来自国と軍事衝突が想定される国。通常、軍事ドクトリンや戦略・戦術、自国軍の編成・装備、教育・訓練のあり方について研究するうえで設定され、参考にされることが多い。仮想敵国は政治・外交上緊張状態にある国をさすこともあるが、両者はかならずしも一致するわけではない。1920年代から1930年代にかけて、アメリカがイギリスを対象にしたレッド計画を策定していたように、友好国も仮想敵国の対象になることもある。政治・外交に多大な影響を及ぼす可能性があることから、実際に仮想敵国が公にされることは稀(まれ)である。日本政府は2004年(平成16)12月に決定された新防衛大綱(16大綱)において初めて中国を「新たな脅威」と位置づけたが、公に中国を仮想敵国に設定しているわけではない。
[村井友秀]
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