企業がその活動内容に社会性を浸透させて社会の期待にこたえることをいう。英語でCorporate Social Responsibilityといい、CSRと略す。この場合の社会性とは、一般的な倫理・道徳的規範のみをさすのではなく、各種環境主体が企業に対してもっている具体的要請をも含んでいる点に特色がある。これをとくに責任とよぶ理由は、発展した企業が制度化して多数の環境主体と相互作用関係にたち、しかも大規模化して強大な影響力をもつようになった結果、権力と責任の均衡という普遍的鉄則により、責任の名のもとに活動のあり方を求めることが適切になったためである。以上のことは、企業の社会的責任が、たとえば慈善事業のような特殊な付加的活動を内容とするのではなく、企業の本来的活動である生産活動の全般にかかわるものであることを示している。環境主体別に若干の内容を例示しよう。顧客に対しては無欠陥で安全な商品の提供やアフター・サービスの徹底、従業員に対しては雇用の保障や人間性の尊重、出資者に対しては安定配当や倒産回避、取引企業に対しては安定取引や契約遵守、地域社会に対しては環境非汚染やコミュニティづくりへの協力、行政機関に対しては法令の遵守や納税義務の遂行などである。しかし、社会的責任の具体的内容は、国によりまた時代により変化し、このことが社会的責任をめぐる論議を複雑にしている。たとえば、アメリカ合衆国では人種差別のない人事は最優先項目としてあげられるが、人種構成が単純な日本では、このような項目はほとんどあげられない。しかし、いずれの国であっても、時代の推移とともに社会的責任の内容が拡大してきていることは確かである。その理由は、企業活動の多様化とその影響範囲の拡大である。
企業の社会的責任の重要化は、企業による社会的責任の遂行状況を関係者に開示する必要を生み出した。これをディスクロージャーという。企業はこれによって関係者の理解と支持とを取り付け、関係者はこれによって企業に対する態度決定をすることが可能になる。開示情報のなかに、企業による社会的責任の遂行状況の測定を含める努力も盛んである。このような測定手法を、企業社会会計、社会責任会計、名声評価、企業考課などという。開示情報に基づいて関係者が企業を評価する側面を、とくに企業社会監査という。
なお、企業の社会的責任については、市場メカニズムと法令に従うのみで十分であり、それ以上にいろいろのことをするのは、社会全体の視点からみるとかえって弊害が大であるという主張がある。このような主張を社会的責任消極論といい、通常の社会的責任積極論に対置させている。
[森本三男]
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