日本大百科全書(ニッポニカ) 「企業環境」の意味・わかりやすい解説
企業環境
きぎょうかんきょう
企業からみて自己になんらかの有意にかかわり合いをもつ外界の事象ないし要素の集合を企業環境business environmentという。その場合、とくに注意を要する点は、企業の外界の全要因(とくに客観的環境とよぶことがある)がそのまま企業環境にならないこと、いいかえれば、外界要因中の特定の部分集合のみが企業環境になるということである。このことは、企業環境の内容や範囲が企業ごとに相違すること、したがって時代の推移につれ、あるいは、環境に対応する企業戦略も企業ごとに相違するようになることを意味している。しかし、歴史的にみれば、特定企業の場合でも成長するにつれ、企業環境はしだいに拡大し、複雑化して、一般的に変動も急速化する傾向にある。
企業行動の本質は環境適応にあるが、そのためには、環境要因の内容の把握が必要である。環境要因には、第一に、立地条件のような具体的、可視的、物理的、有形的要因と、価値観のような抽象的、不可視的、先験的、無形的要因が含まれる。第二に、子会社のような制御可能要因と、天候のような制御不能要因が含まれているが、後者には、受動的適応行動しかとることができない。第三に、顧客のような主体的要因と、法律のような客体的要因が含まれている。前者を環境主体、後者を環境客体というが、企業の環境適応にとって重要な点は、各種環境主体との間の相互作用とそれらの全体的調整である。第四に、汚染物質の排出基準のように、それに抵触すれば許容されないミニマム要因と、需要のように適応の仕方によって盛衰のいずれにもつながる機会要因とが含まれている。前者は適応の必要条件となり、後者は十分条件となる。
これら環境要因が、企業環境の構造を形成する。この構造は、一面において経済的、社会的、物的の三下位環境からなり、他面において外部、内部の二下位環境からなるものと理解される。内部環境というのは論理矛盾であるという指摘もあるが、それは企業内部にあって適応行動のための意思決定者(典型的には経営者)に外在する要因の集合であり、環境の外在性という定義に矛盾するものではなく、今日では大方の論者に支持されている。環境適応行動は、前述の二つの下位環境基準を組み合わせた6種の下位環境のすべてと整合する内容のものでなければならない。公害に関していえば、それは経済的外部環境に外部不経済を、物的外部環境に生態破壊をもたらすなどにより、不適となる。
[森本三男]