血圧が正常より低い状態をいうが、血圧値についての絶対的な基準はなく、普通は収縮期血圧(最大血圧)に注目して、およそ100ミリメートル水銀柱以下の場合をいう。この場合、つねに血圧が低い状態のままのものと、一時的に血圧が下がるものとに分けられる。つねに低い場合は、さらに原因となる疾患のはっきりしない本態性(体質性)低血圧症と、原因疾患の明らかな症候性低血圧症とに区別される。一時的なものには、起立時などに急に血圧が低下する起立性低血圧症(起立性調節障害)がある。
[木村和文]
一般に、はっきりした原因が認められず、むしろ遺伝的素因が強いとされている。体質的にはやせた無力性体質の人に多く、両親も同様に低血圧症であることがまれではない。症状を訴える人は低血圧者の10%くらいであり、症状のない場合はあえて病的なものとしては扱われない。自覚症状としては、疲れやすい、頭重感、めまい感、耳鳴り、不眠、胸部圧迫感、食欲不振、胃部不快感などがみられる。内臓下垂を伴うことが多く、胸部のX線写真で心臓の陰影が細長くみえるいわゆる滴状心や胃下垂が認められたり、胃酸過多、胃潰瘍(かいよう)、気管支喘息(ぜんそく)、慢性便秘などを合併していることもある。詳しく検査をすると、自律神経系や内分泌系の機能異常を認めることもある。しかし、本態性低血圧症は一般に生命に危険はなく、むしろ長寿の傾向にあるのでとくに心配する必要はない。体格的にやせた虚弱型の人が多いので、高タンパク、高カロリーの食事、ときには食塩を多くとり、体操、マッサージ、冷水摩擦など体力の増強を図ることで低血圧が改善されることもある。症状の強い場合は、薬物療法も試みられる。低血圧そのものを改善する薬物として種々の昇圧剤が使用されているが、実際に持続的な血圧上昇を得ることは容易でなく、また種々の症状が低血圧によるものかどうか疑わしいこともあるので、積極的には昇圧剤を使用しないことが多い。もっぱら個々の症状に応じた対症療法が中心となっている。したがって本態性低血圧症と診断された場合は、低血圧によると考えられる症状と気長につきあうくらいのつもりで、体力の増強に努めるほうが望ましい。
[木村和文]
大動脈弁狭窄(きょうさく)症、僧帽弁狭窄症、心包炎、心筋梗塞(こうそく)などの心疾患や、アジソン病(副腎皮質機能低下症)、シモンズ病(下垂体前葉機能低下症)、甲状腺(こうじょうせん)機能低下症などの内分泌疾患が原因となっておこるような低血圧症のことをいう。治療は、原因となる疾患の治療と対症療法である。
[木村和文]
横になったり座ったりした状態から急に立ったときに血圧が著しく低下し、脳の血流が減少する結果、めまい、視力障害、失神などの症状をおこす場合をいう。急に立ち上がると血液は下半身に貯留し、心臓へ戻る血液が減少して心拍出量が減り、血圧は低下する。正常な場合は、これを代償するために、起立時に反射的に末梢(まっしょう)動静脈が収縮して心拍数も増加し、血圧を一定に保つように調節作用が働く。この調節はおもに交感神経系の働きによるといわれる。これがなんらかの原因で障害されて起立性低血圧症がおこる。原因としては、脊髄(せきずい)疾患、糖尿病性神経障害、交感神経切除術後などの神経疾患、アジソン病やシモンズ病の内分泌疾患、高血圧の治療薬である降圧剤の服用時などが知られているが、正常者でも長期間寝たままでいて急に起き上がると生じることがある。
一方、特殊なものとして特発性起立性低血圧症がある。これは著しい起立性低血圧を中心として、排尿障害、陰萎(いんい)、発汗減少など多彩な自律神経症状を呈する症候群で、シャイ‐ドレージャーShy-Drager症候群ともよばれ、脳幹の広範囲に及ぶ変性による自律神経系の障害が原因といわれる。
一般的な起立性低血圧症の治療としては、原因となる基礎疾患があればその治療がまず必要である。次に対症療法として昇圧剤を服用するが、午前中に血圧の低下や症状の出現することが多いので、起床時にベッドの中で服用するなど、個々の症状に適した服用方法が考えられる。
[木村和文]
出典 ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典について 情報
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