低血圧症(読み)ていけつあつしょう(その他表記)Hypotension

精選版 日本国語大辞典 「低血圧症」の意味・読み・例文・類語

ていけつあつ‐しょう‥シャウ【低血圧症】

  1. 〘 名詞 〙 低血圧が原因で起こる症候群。疲れやすい、だるい、根気がつづかない、頭が痛い、肩こりなどを訴える。症候性、本態性、起立性に分かれる。
    1. [初出の実例]「師匠の奥さまは、低血圧症で、家の中をやっと動くというような病人でございましたので」(出典:変容(1967‐68)〈伊藤整〉六)

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六訂版 家庭医学大全科 「低血圧症」の解説

低血圧症
ていけつあつしょう
Hypotension
(循環器の病気)

どんな病気か

 低血圧症とは、一般に収縮期血圧が100㎜Hg未満をいうことが多く、まったく症状がない人から、立ちくらみ、めまい、失神(一時的な意識消失発作)、全身倦怠感(けんたいかん)などの症状を伴う例までさまざまです。このような症状が認められる場合には、低血圧症として治療や管理の対象になることがあります。

 低血圧症では、安静時にすでに血圧が低い場合や、立位を維持している時や体位変換時、とくに臥位(がい)(寝た状態)や座位から立ち上がった時に血圧が下がる場合があり、原因疾患と体位との関係は非常に重要です。

原因は何か

 低血圧を起こす原因として、全身に循環している血液量(循環血液量)の減少や心臓から送り出す血液量(心拍出量)の低下、末梢血管(細かい血管)の抵抗や血液の粘稠度(ねんちゅうど)(粘りけ)が減少することが考えられています。

 一般に低血圧症では、原因となる病気は必ずしも認められず、原因疾患が明らかでない場合は、本態性(ほんたいせい)低血圧症と呼ばれています。

 一方、原因となる病気が認められる場合は症候性(二次性)低血圧症といわれ、起立に伴って認められる場合は起立性(きりつせい)低血圧として分類されています。

①原因疾患の有無からみた低血圧症の分類

a.本態性低血圧症

b.症候性(二次性)低血圧症

c.起立性低血圧症

 このように原因疾患の有無からみた分類と異なり、症状の出現の早さからみた分類があります。

②症状の経過からみた低血圧症の分類

a.急性低血圧症

b.慢性低血圧症

 急性低血圧症が、ショックや急性の循環不全を示すような急激な症状が出現する場合であるのに対し、慢性低血圧症は急性低血圧症のように激しい症状を示すことなく、症状がゆっくりと出現し、持続します。

 急性低血圧症は慢性低血圧症に比べると重症であることが多く、ほとんどの患者さんでは救急処置が必要となります。

 急性低血圧を示す原因として、

①出血・脱水などの循環血液量の減少や重症感染症に伴う敗血症(はいけつしょう)ショック

②心不全などの心機能低下(心臓のポンプ作用の低下)や重症不整脈

③過剰な降圧薬の投与や睡眠薬・麻酔薬などの投与による薬物中毒

などがあげられます。

症状の現れ方

 本態性低血圧症症候性低血圧症起立性低血圧症などそれぞれ異なった症状の現れ方を示します。

 本態性低血圧症は慢性低血圧症を示すため、症状は持続的であるの対し、症候性低血圧症は原因疾患の違いにより、急性または慢性の症状発現を示します。一方、起立性低血圧症では体位の変換に伴い急性に症状が出現します。

検査と診断

 全身の倦怠感、めまい、立ちくらみなどの症状を認め、常に血圧が低い状態を示し、明らかな原因疾患を認めない場合は、本態性低血圧症と診断されます。

 一方、症状の出現様式と関係なく、原因疾患が明らかな場合は症候性(二次性)低血圧症と診断されます。

 さらに、起立時のみ血圧低下を示し症状が出現する場合は起立性低血圧症と診断されますが、起立性低血圧症は、本態性低血圧症または症候性低血圧症に併発することもしばしばあります。

治療の方法

 まず、症候性低血圧症の有無の鑑別が重要です。原因疾患が認められる症候性低血圧症の場合は、原因疾患の治療が優先されます。

 一方、原因疾患が認められない本態性低血圧症の場合は、愁訴に対して食事療法運動療法、生活リズムの調整などの生活指導を行い、それでも効果が認められない時は薬物療法を試みます。

病気に気づいたらどうする

 日常生活に影響を及ぼす症状が認められ、血圧測定が自宅で可能な場合は、低血圧の有無を調べるのが重要です。

 低血圧症が疑われた場合は、低血圧症の病気分類により生活指導および治療法が異なるので、診断および原因疾患の精査のため専門医(内科)に受診することが大切です。

西崎 光弘

出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報

日本大百科全書(ニッポニカ) 「低血圧症」の意味・わかりやすい解説

低血圧症
ていけつあつしょう

血圧が正常より低い状態をいうが、血圧値についての絶対的な基準はなく、普通は収縮期血圧(最大血圧)に注目して、およそ100ミリメートル水銀柱以下の場合をいう。この場合、つねに血圧が低い状態のままのものと、一時的に血圧が下がるものとに分けられる。つねに低い場合は、さらに原因となる疾患のはっきりしない本態性(体質性)低血圧症と、原因疾患の明らかな症候性低血圧症とに区別される。一時的なものには、起立時などに急に血圧が低下する起立性低血圧症(起立性調節障害)がある。

[木村和文]

本態性低血圧症

一般に、はっきりした原因が認められず、むしろ遺伝的素因が強いとされている。体質的にはやせた無力性体質の人に多く、両親も同様に低血圧症であることがまれではない。症状を訴える人は低血圧者の10%くらいであり、症状のない場合はあえて病的なものとしては扱われない。自覚症状としては、疲れやすい、頭重感、めまい感、耳鳴り、不眠、胸部圧迫感、食欲不振、胃部不快感などがみられる。内臓下垂を伴うことが多く、胸部のX線写真で心臓の陰影が細長くみえるいわゆる滴状心や胃下垂が認められたり、胃酸過多胃潰瘍(かいよう)、気管支喘息(ぜんそく)、慢性便秘などを合併していることもある。詳しく検査をすると、自律神経系内分泌系の機能異常を認めることもある。しかし、本態性低血圧症は一般に生命に危険はなく、むしろ長寿の傾向にあるのでとくに心配する必要はない。体格的にやせた虚弱型の人が多いので、高タンパク、高カロリーの食事、ときには食塩を多くとり、体操、マッサージ、冷水摩擦など体力の増強を図ることで低血圧が改善されることもある。症状の強い場合は、薬物療法も試みられる。低血圧そのものを改善する薬物として種々の昇圧剤が使用されているが、実際に持続的な血圧上昇を得ることは容易でなく、また種々の症状が低血圧によるものかどうか疑わしいこともあるので、積極的には昇圧剤を使用しないことが多い。もっぱら個々の症状に応じた対症療法が中心となっている。したがって本態性低血圧症と診断された場合は、低血圧によると考えられる症状と気長につきあうくらいのつもりで、体力の増強に努めるほうが望ましい。

[木村和文]

症候性低血圧症

大動脈弁狭窄(きょうさく)症、僧帽弁狭窄症、心包炎、心筋梗塞(こうそく)などの心疾患や、アジソン病(副腎皮質機能低下症)、シモンズ病(下垂体前葉機能低下症)、甲状腺(こうじょうせん)機能低下症などの内分泌疾患が原因となっておこるような低血圧症のことをいう。治療は、原因となる疾患の治療と対症療法である。

[木村和文]

起立性低血圧症

横になったり座ったりした状態から急に立ったときに血圧が著しく低下し、脳の血流が減少する結果、めまい、視力障害、失神などの症状をおこす場合をいう。急に立ち上がると血液は下半身に貯留し、心臓へ戻る血液が減少して心拍出量が減り、血圧は低下する。正常な場合は、これを代償するために、起立時に反射的に末梢(まっしょう)動静脈が収縮して心拍数も増加し、血圧を一定に保つように調節作用が働く。この調節はおもに交感神経系の働きによるといわれる。これがなんらかの原因で障害されて起立性低血圧症がおこる。原因としては、脊髄(せきずい)疾患、糖尿病性神経障害、交感神経切除術後などの神経疾患、アジソン病やシモンズ病の内分泌疾患、高血圧の治療薬である降圧剤の服用時などが知られているが、正常者でも長期間寝たままでいて急に起き上がると生じることがある。

 一方、特殊なものとして特発性起立性低血圧症がある。これは著しい起立性低血圧を中心として、排尿障害、陰萎(いんい)、発汗減少など多彩な自律神経症状を呈する症候群で、シャイ‐ドレージャーShy-Drager症候群ともよばれ、脳幹の広範囲に及ぶ変性による自律神経系の障害が原因といわれる。

 一般的な起立性低血圧症の治療としては、原因となる基礎疾患があればその治療がまず必要である。次に対症療法として昇圧剤を服用するが、午前中に血圧の低下や症状の出現することが多いので、起床時にベッドの中で服用するなど、個々の症状に適した服用方法が考えられる。

[木村和文]

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「低血圧症」の意味・わかりやすい解説

低血圧症
ていけつあつしょう
hypotension

血圧降下症あるいは単に低血圧ともいう。血圧が正常値よりも低く,一般に最大 100mmHg以下,最小 60mmHg以下の状態をいう。めまいが頻発し,疲労しやすいなどの自覚症状が強い場合には昇圧剤などで治療する必要があるが,特に症状がない場合も多い。低血圧によって臓器循環障害が現れる場合だけ臨床上問題になる。一般に低血圧型の人は,やや長い睡眠時間を必要とし,夏季の暑熱に弱いが,寒冷には強い。

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