身体が急速に大きくなる小学校高学年から中学生に多くみられる
通常、起立時は交感神経のはたらきで下肢の静脈が収縮します。また、朝起床する時には、自律神経系の活動が副交感神経主体から交感神経に切り替わります。起立性調節障害ではこのような交感神経のはたらきや切り替えがうまくいかないため、下肢に血液がたまったりして、さまざまな症状がみられます。
立ちくらみ、
特徴的な検査はありません。唯一の検査である起立試験で、血圧や脈拍の変化を調べますが、症状とは必ずしも結びつきません。区別する病気として、鉄欠乏性(てつけつぼうせい)貧血、感染症、
低血圧治療薬のメチル硫酸アメジニウム(リズミック)や、下肢の静脈収縮を促す塩酸ミドドリン(メトリジン)、メシル酸ジヒドロエルゴタミン(ジヒデルゴット)を使用します。目が覚めたらすぐに内服するのがコツです。同時に、病気の仕組みを説明する心理療法や、
学校生活に支障がなければ治療は不要です。もし、症状が強くて困るようであれば、小児科を受診してください。4週間経過しても症状が軽快しない場合や、初診時にすでに1カ月以上の不登校の場合は、専門医を受診してください。
内山 聖
出典 法研「六訂版 家庭医学大全科」六訂版 家庭医学大全科について 情報
起立に伴う血圧心拍反応の異常に起因する自律神経機能障害。ODとも略称される。おもに思春期(10~16歳ごろ)に多くみられ、立ちくらみや朝起き不良(起床困難)、倦怠(けんたい)感、動悸(どうき)、頭痛、失神、いらいら、集中力低下などの症状を伴う。症状は午前中に強く、午後から夜にかけて軽快することが多い。また、立位や坐位(ざい)で増強し、臥位(がい)で軽減する。ただし重症例では、臥位でも倦怠感が強く、午後~夜でも起き上がれないこともあり、不登校やひきこもりの原因となる場合がある。
上記のような症状が原則三つ以上あれば本症が疑われ、新起立試験に基づいて以下のようなサブタイプに分類される。(1)起立直後性低血圧 起立直後に一過性の強い血圧低下が生じ、めまいや立ちくらみが起こる。もっとも高頻度でみられる。(2)体位性頻脈症候群 起立時の血圧低下はみられず、起立時頻脈、ふらつき、倦怠感、頭痛が起こる。(3)神経調節性失神 血圧低下と失調症状を生じ、意識低下と意識消失が起こる。(4)遷延(せんえん)性起立性低血圧 起立から数分以後に血圧が徐々に低下し、気分不良、顔面蒼白(そうはく)、四肢冷感、動悸、頭痛、冷汗などが起こる。
本症の成因としては、(1)起立に伴う循環動態の変動に対する自律神経による代償機構の破綻(はたん)、(2)過少または過剰な交感神経活動、(3)水分の摂取不足、(4)心理・社会的ストレス、(5)日常の活動量低下などが考えられている。
治療は、重症度やタイプ、心理・社会的側面の関与度合いなどを考慮しながら、「小児起立性調節障害診断・治療ガイドライン」(日本小児心身医学会編)をベースに行われる。
非薬物療法として、(1)疾病教育 本症は自律神経機能の失調が原因の身体疾患であり、症状は「怠けグセ」などではないこと、思春期を過ぎると症状は軽快・改善することが多いことを説明する。とくに保護者は、朝の起床困難や学校を遅刻・欠席するようすから、子を叱責(しっせき)したりむりやり起床させるなどして、子との関係性を悪化させていることがある。このため、本人と保護者、両者に対して疾病への理解を促す。(2)日常生活での対処 規則正しい生活リズムをできる範囲で心がけ、日中は寝床につくことを避けて、夜は眠気がなくても就床が遅い時間にならないようにする。起床・起立行為をゆっくり行う。起立中には、両足を交差させたり、足踏みを行う(血圧低下を防ぐ)。水分を1日1.5~2リットル摂取し、塩分の摂取も比較的多めにする。夏季には気温の高い場所を避け、適切な飲水行動を心がける、など。(3)学校との連携 学校側にも疾患への理解を深めてもらい、適切な対応を依頼する。(4)その他 心理療法、環境調整などを行う。
非薬物療法で十分な効果が得られない場合や、重症例に対しては薬物療法(ミドドリン塩酸塩など)が検討される。
適切な治療が行われれば、軽症例では数か月以内に症状の改善が得られる。一方、不登校を伴う重症例では、社会復帰に2~3年以上を要することが多い。また、軽い症状は成人しても続く場合がある。
[編集部 2018年5月21日]
自律神経失調症の一種で,そのドイツ語病名Orthostatische Dysregulationの頭文字をとって,ODとも呼ばれる。学童期に多い病気なので学校保健上大きな問題になっている。主要な症状は,(1)立ちくらみ,あるいはめまいを起こしやすい,(2)立っていると気持ちが悪くなり,ひどくなると倒れる(脳貧血),(3)入浴時あるいはいやなことを見聞きすると気持ちが悪くなる,(4)少し動くと動悸あるいは息切れがする,(5)朝なかなか起きられず,午前中調子が悪い。以上の5項目で,これらは起立性調節障害の診断基準の五大症状といわれ,この病気の患者には少なくとも一つ以上みられるものである。このほかに,顔色不良,食欲不振,腹痛,倦怠,頭痛,乗物酔いなどの症状がしばしばみられる。この病気は起立時の血管反射に異常があって起こるものと考えられている。人体が起立した場合,循環系は反射的にこれに対応して,とくに下半身の静脈を収縮させ,下半身への血液の貯留を防ぐようにはたらく。しかし起立性調節障害では,起立時下半身の静脈の反射的収縮が不十分なため下半身に血液の貯留が起こり,その結果脳の血流量が減少する。これが立ち上がった瞬間に起これば立ちくらみとなり,立っていて徐々に進行すれば脳貧血となる。診断は,前述のような訴えをもっている者について,貧血,器質的心疾患,結核その他の慢性感染症,登校拒否などの神経症あるいはうつ病などの精神病でないことを確認したうえでなされる。診断するための検査としては,10分間起立した前後の脈拍数,血圧,心電図の変化を比較する起立試験も有用である。発症は9~11歳ごろに最も多い。小児期においては男女差は明らかでないが,成人に至るまで起立性調節障害の症状が残存しているものは圧倒的に女性に多い。症状に季節的変動があって,春から初夏にかけて症状が悪くなる例が多い。小・中学校生徒における本症の頻度はかなり高く,3~10%とみられている。治療は,昇圧剤,自律神経調整剤,精神安定剤などが用いられるが,症状に応じて正しく選択することが重要である。これらの薬物療法によって,大部分の患者では著しい症状の改善が認められるが,また同時に規則正しい生活を心掛け,乾布摩擦や冷水摩擦を続けるなど,積極的に自律神経を鍛練することも大切である。
執筆者:柳沢 正義
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