日本大百科全書(ニッポニカ) 「住宅セーフティーネット」の意味・わかりやすい解説
住宅セーフティーネット
じゅうたくせーふてぃーねっと
低所得者、障害者、高齢者などが独力で速やかに住宅を確保できるようにする社会的な仕組み。所得水準・家族構成・身体的状況にかかわらず、最低限の安全な暮らしを保障するため、だれでも住宅を確保できる環境を整えるとの発想に基づいた社会制度である。住宅セーフティーネットは、2007年(平成19)7月に公布・施行された「住宅確保要配慮者に対する賃貸住宅の供給の促進に関する法律」(平成19年法律第112号。略称、住宅セーフティーネット法)と、2006年に制定された住生活基本法に基づく住生活基本計画(2011年閣議決定)に沿って、仕組みづくりが進められている。対象は低所得者、障害者、高齢者のほか、外国人、小さな子供のいる子育て世帯、母子・父子家庭、被災者、犯罪被害者、ドメスティック・バイオレンス(DV)被害者、戦傷病者・原子爆弾被爆者、ホームレス、被生活保護者、海外からの引揚者、ハンセン病療養所入所者らで、法的には「住宅確保要配慮者」とよばれる。
国立社会保障・人口問題研究所によると、2017年以降の10年間で、一人暮らしの高齢者世帯が100万世帯増えると試算されているが、公営住宅の供給増は見込めない。このため、政府は2017年に改正住宅セーフティーネット法を施行し、住むところのない人と民間の空き家・空き部屋の円滑なマッチングを政策の柱とした。高齢者らの入居を拒まない賃貸住宅を事前に都道府県に登録してもらい、その住宅情報を住宅困窮者へ提供する仕組みである。登録した家主には、地方自治体が耐震改修費やバリアフリー化の費用を補助(最大200万円)して登録を促す。登録は耐震性を備え、床面積25平方メートル以上などが条件で、シェアハウスも対象。入居者が低所得の場合、自治体が月々の家賃を最高4万円まで補助するほか、入居後の生活支援制度も導入した。このほか入居者の日常生活をサポートする社会福祉法人や非営利活動法人(NPO)等を「居住支援法人」に指定し、連帯保証人の相談、入居者の見守りなどにあたってもらう。政府は2020年度までに登録住宅を17万5000戸確保する計画である。
[矢野 武 2018年5月21日]