併乍・然乍(読み)しかしながら

精選版 日本国語大辞典 「併乍・然乍」の意味・読み・例文・類語

しかし‐ながら【併乍・然乍】

[1] 〘副〙
① そのまま全部。全部そっくり。すべて。さながら。ことごとく。さしながら。
書紀(720)欽明六年九月(寛文版訓)「願はくは普天(あめ)の下(した)の一切(シカシナカラ)衆生(いけるもの)皆解脱(まぬかるること)を蒙らむ」
※霊異記(810‐824)下「五月二十三日丁酉の午の時に、火発りて惣家(いへシカシナガラ)皆悉に焼け滅ぶ〈真福寺本訓釈 惣家 シカシナカラ〉」
② けっきょく。要するに。
※西大寺本金光明最勝王経平安初期点(830頃)一〇「身を挙げて、而(シカシナ)がらも地に躄れて、悲び痛み心悶絶し」
※宇治拾遺(1221頃)一一「人のために恨をのこすは、しかしながら、我身のためにてこそありけれ」
[2] 〘接続〙 先行の事柄に対し、後行の事柄が反対対立の関係にあることを示す(逆接)。しかし。だが。さりながら。
※中華若木詩抄(1520頃)上「年のわかき時は、夜も日もあけまいやうに、主恩頻なれども、いつのまにやら秋風立て、すてはてらるるぞ。是は、しかしながら、天子は、うらめしくないぞ」
※人情本・閑情末摘花(1839‐41)四「此方(こっち)は鄙(ゐなか)の皺くちゃ爺父(ぢぢい)、どうで面白くは遊ばれぬ。しかしながら金さへ出せば、身請をするといふ方もある」
[語誌](1)「しか」は副詞、「ながら」は助詞であるが、「し」については、サ変動詞「す」の連用形とする説と、強意の助詞とする説とがある。
(2)本来の意味は(一)①で、用例上代からみられるが、中古以降、和文では「さしながら」「さながら」が用いられるようになり、「しかしながら」は漢文訓読系の語となった。
(3)中世には(一)②の意味が生じたが、前の事柄から後の事柄を導くこの意味は、前の事柄に対して「それはそうとして」といったん認めて保留し、さらに後に「それはそうだが」と前と反対の事柄を付け加えていく(二)の逆接用法への過渡的なものと考えられる。
(4)近世中期頃までには完全に接続詞化したが、近世初期から、「しかし」という形も用いられるようになり、「しかしながら」が文章に、「しかし」がくだけた会話文に用いられた。

出典 精選版 日本国語大辞典精選版 日本国語大辞典について 情報

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