依存症(読み)イソンショウ

  • dependence syndrome
  • いそんしょう ‥シャウ
  • いそんしょう〔シヤウ〕
  • いぞんしょう

朝日新聞掲載「キーワード」の解説

薬物やアルコール摂取ギャンブルのように、快感や高揚感が得られる行為を繰り返した結果、その刺激を求める欲求が抑えられなくなる病気。刺激がなくなるとイライラしたり、落ち着きがなくなったりする。厚生労働省調査では、依存の疑いがある人はギャンブルで536万人、アルコールは109万人と推計されている。

(2017-02-06 朝日新聞 朝刊 生活1)

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

定義

依存症とは、ある行動が「わかっちゃいるけど、やめられない」状態に陥っている事態を意味する。つまり、ある行動が引き起こすメリットよりもデメリットが上回っているのが明らかであるにもかかわらず、その行動をやめることができない状態である。もう少し正確にいうと、依存症者はしばしばその行動を一時的にはやめているが、やめ続けることができない。たとえば、本人なりに思うところあってその行動を一時的にやめているときでさえ、その行動への衝動と葛藤し、「するか/しないか」をめぐって迷い続けており、ささいなきっかけでふたたびその行動に及んでしまうのである。[松本俊彦]

依存症の種類

依存症には大きく分けて二つの種類がある。一つは、一定の嗜癖(しへき)性(癖になる性質、あるいは常習性)をもつ化学物質を摂取するという行動の依存症(物質依存症)であり、もう一つは、ギャンブルやある種のゲームのような、その行為自体に人を熱中させる要素をもつ嗜癖行動の依存症(非物質依存症)である。
〔1〕物質依存症
嗜癖性をもつ物質は、その薬理作用によって三つのタイプに分類される。第一に、中枢神経抑制薬(脳の活動性を抑え、意識をぼんやりさせる作用をもつ:モルヒネやヘロインといったオピオイド類、アルコール、大麻(たいま)、睡眠薬や抗不安薬として用いられるベンゾジアゼピン受容体作動薬など)、第二に、中枢神経興奮薬(脳の活動性を高め、意識をはっきりさせる作用をもつ:覚醒(かくせい)剤、コカイン、カフェイン、ニコチンなど)、そして第三に、幻覚薬(知覚を変容させる作用をもつ:MDMA、LSDなど)である。
 この三つのタイプの物質が嗜癖性をもつのは、繰り返し使用する過程で脳に対する作用に慣れが生じ、当初と同じ効果を得るのには摂取する物質の量を増やす必要が生じるからである。この慣れが生じる性質を耐性という。さらに、この耐性がある水準以上に高まった個体が、あるとき急に物質摂取を中断すると、脳をはじめとする神経系のリバウンド現象(離脱)によって、さまざまな苦痛を伴う心身の症状を生じる。この苦痛ゆえに、物質摂取はますますやめがたくなる。
〔2〕非物質依存症
ギャンブルやインターネット上のゲームには、それ自体に人を熱中させる性質、すなわち嗜癖性がある。しかし、これらの嗜癖性には個人差や相性の問題があり、物質に比べると、何度か経験しても常習へと至らない人の割合は高い。それでも一部の者は、ギャンブルやゲームが引き起こす高揚感を好ましいものとして体験する。そして、その行動に没頭する過程で、物質依存症における「耐性」と類似した現象を呈する。たとえばギャンブルの場合、費やす時間や金額がエスカレートし、当初と同じ高揚感を体験するには、より大きな「勝ち」が必要となる。やがて賭けの負けを取り返すために次の賭けに挑み、賭けに勝てば得た金はそのまますべてが次の賭けの軍資金となる、といった手段の目的化を呈する。
 なお、同じような非物質依存症として、買い物や性行動、万引き、リストカット、過食・嘔吐(おうと)が含められることがある。確かにこれらは嗜癖行動としての特徴を備えているが、研究知見の蓄積が不十分であり、現時点では正式には嗜癖行動として認められていない。[松本俊彦]

嗜癖行動の進行と依存症の発症

物質性および非物質性の嗜癖行動の両者に共通しているのは、「一時的に気分を変える効果」、つまり、気分をハイにしたり、不安や気分の落ち込みを紛らわせたり、心配事を意識から遠ざけ、忘れさせてくれたりする効果である。そうした効果を好ましく感じた者は、そのメリットを繰り返し享受するなかで、不快な気分に対処しようとして優先的に嗜癖行動を用いるようになる。さらには、不快な気分が予測されただけでも、その体験に先回りして嗜癖行動に及ぶようにもなる。
 しかし、やがて効果に慣れが生じると、ある段階から嗜癖行動の強度や頻度を高めても気分が切り替わらなくなってしまう。加えて、不快な気分に対して脆弱(ぜいじゃく)となり、かつてならば嗜癖行動なしでも対処できたストレスにも嗜癖行動が必要となる。その結果、「(嗜癖行動を)やっても地獄、やらなければなお地獄」という事態に陥り、自身の意思で嗜癖行動をコントロールできなくなるのである。
 この段階に達すると、嗜癖行動に関連するさまざまなトラブルが頻発するようになる。たとえば、職場や家庭生活のなかで約束の不履行や責任の放棄など、身近な人との信頼関係が破綻(はたん)するなどのトラブルが生じたり、失職や犯罪といった社会的問題、あるいは心身の健康を損なって医学的問題が顕在化したりする。
 これが依存症者にみられる典型的なパターンである。要するに、依存症とは、当初は自分の気分をコントロールするために用いてきた嗜癖行動に、いつしか自分がコントロールされる事態なのである。それにもかかわらず、本人はますます意固地になってコントロールすることに執着する結果、依存症者独特の構えである「否認」、つまり、「自分は依存症ではない」「その気になればいつでもやめられる」と事態を過小視する態度もつくりあげられる。
 依存症と診断される段階になると、嗜癖行動に対するコントロールを取り戻し、物質やギャンブルなどと上手につきあう、ほどほどにつきあうといったことは非常にむずかしくなる。しかし他方で、完全にやめ続けることによって、嗜癖行動によって失ったもの、つまり、心身の健康や仕事、そして何よりも周囲からの信頼を取り戻すことができる。依存症の治療に関してしばしばいわれる、「完治はしないが、回復できる」という言葉は、まさにそのようなことを意味している。[松本俊彦]

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精選版 日本国語大辞典の解説

〘名〙 あるものに依存し、それなしには平常の精神的・身体的状態を保てなくなる状態。「アルコール依存症」

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最新 心理学事典の解説

依存dependenceとは,嗜癖addictionに代わって1960年代から世界保健機関(WHO)の専門家委員会が提唱した概念で,向精神作用のある薬物の効果を体験するために,その薬物を反復して摂取したいという強迫的な欲求によって特徴づけられる状態である。依存症は精神医学的な概念で,依存状態によって日常生活の機能にさまざまな支障が出ている状態をいう。

【物質依存substance dependence】 物質依存(薬物依存drug dependence)とは,2000年の『精神障害の診断と統計の手引き』第4版の修正版(DSM-Ⅳ-TR)で「臨床的に重大な苦痛を引き起こす物質使用の不適応的な様式」,1990年の『国際疾病分類』第10版(ICD-10)では「ある物質あるいはある種の物質使用が,その人にとって以前にはより大きな価値をもっていた他の行動より,はるかに優先するようになる一群の生理的,行動的,認知的現象」と定義される状態である。物質依存には摂取量や回数の増加,使用の中止や減量による離脱症状の出現,摂取時間や量のコントロール不能,減らしたりやめようとしたりする努力の不成功,薬を求める時間の増加,学業や仕事,家庭・社会における役割の放棄,心身に対する有害性を知りながらの使用継続といった特徴がある。

 依存を起こす薬物は,覚醒剤,カフェイン,コカイン,ニコチンなど中枢神経系に対して興奮作用をもつもの,アルコール,大麻,吸入剤(有機溶剤),あへん類,鎮静剤・睡眠剤・抗不安剤など抑制作用をもつもの,幻覚剤,フェンサイクリジンなどのように幻覚作用をもつものに大別される。このような薬物にはヒトに強迫的な欲求を起こさせる性質があり,これを精神依存形成能psychological dependence producing potentialという。また,抑制作用をもつ薬物を常用していると,体内に一定濃度以上の薬物が存在している状態で正常な生理機能が営まれ,血中濃度が低下すると種々の退薬症候withdrawal signsが現われるようになる。薬物のこのような性質を身体依存形成能physical dependence producing potentialという。

 依存状態から起こる問題は薬物ごとに異なる。主な問題として,覚醒剤では幻覚・妄想などの精神病状態の遷延化,カフェインでは急性中毒による循環器障害,コカインでは精神病状態と循環器障害,ニコチンでは受動喫煙を含む循環器障害や発癌,アルコールでは慢性中毒による各種の臓器障害,人間関係の崩壊,飲酒運転,大麻では急性酩酊状態に加えて慢性使用による認知機能障害,吸入剤では人格の変容を伴う無動機症候群,あへん類では激烈で致死的な禁断症状(退薬症候),鎮静剤・睡眠剤・抗不安剤では記憶障害や退薬による不安・不眠など,幻覚剤では認知機能の低下や恐慌発作,フェンサイクリジンでは自閉,認知機能障害などの精神病状態がある。

【物質によらない依存】 近年,薬物以外の対象にも依存症になることがあるのではないかという「ノン・ケミカルな依存」の問題がクローズアップされている。その代表的なものには,病的賭博(ギャンブル依存),乱費癖(オニオマニア,買物依存),インターネット依存などがある。これらは,ICD-10では「明らかな合理的動機のない,そしてたいていの場合,患者自身および他の人びとの利益を損なう反復的行為によって特徴づけられる」習慣および衝動の障害,DSM-Ⅳ-TRでは「他のどこにも分類されない衝動制御の障害」とされている。しかし,とくにアメリカの精神医学界には,強迫的な欲求の存在,離脱による不快感や抑うつ気分など,物質依存との類似点が多いことに着目して,これらを依存症のカテゴリーに入れるか,もしくは嗜癖という概念を復活させるべきであるという議論がある。これに対してICD-10では,たとえば病的賭博の強迫性は「専門的な意味では強迫ではない」として,依存症とは一線を画す概念化が行なわれている。物質によらない依存が依存症の一種であるかどうかは現在進行中の議論であり,世界的に見た場合には依存症の概念が薬物以外の対象に拡張されているとはいえない。今後,神経科学的な研究の進展によって,こうした行動と物質依存の類似点と相違点が解明されることが期待される。

【依存症の神経機構】 精神依存形成能をもつ薬物には強化効果reinforcing effectとよばれる効果があり,一部の幻覚剤を除いて動物実験でその効果が証明できる。たとえば,静脈内にカテーテルを植え込んだ動物に対して,ある反応に随伴させて一定量の薬液を注入すると,その反応の生起頻度が増加する。すなわち,これらの薬物はオペラント条件づけにおける正の強化子として作用する。また,薬物効果と連合させた環境刺激に対して,動物が接近行動を起こす現象も知られており,このような薬物効果を報酬効果rewarding effectとよぶ。強化効果や報酬効果の背景には,中脳の腹側被蓋野から側坐核,嗅結節,大脳基底核に投射する中脳辺縁系ドーパミン作動性神経経路mesolimbic dopaminergic pathwayに対する作用がある。この経路を電気刺激すると強い強化効果が見られることから,この経路は脳内報酬系brain reward systemともよばれる。強化効果をもつ薬物は,さまざまな受容体receptorや輸送体transporterなどに対する作用を介して,直接・間接に側坐核の細胞外ドーパミンの濃度を増加させる。電気生理学的研究やヒト脳機能の画像解析研究から,このドーパミン作動性神経は一種の予測誤差信号を発生させ,ヒトや動物の行動を適応的に変化させる役割を果たしていることがわかっている。薬物によってこのドーパミン作動性神経が過剰に活動することは,生存とは直接関係のない対象に対する強迫的な欲求,すなわち渇望の発生に関係があるものと考えられる。一方,薬物を摂取した後に生じる多幸感や満足感には,やはり脳内の報酬系がかかわっているが,ドーパミン作動性神経よりもGABA(γアミノ酪酸)作動性神経系やβ-エンドルフィンやエンケファリンなどの内因性オピオイドの関与が大きいとされる。

 依存の背景には,このような脳内報酬系の働きに加えて,海馬や扁桃体といった記憶・情動系,感覚情報の統合的な評価や意思決定にかかわる前頭眼窩野や前部帯状皮質,行動を抑制的に調節する背外側前頭連合野などの総合的な関与がある。また,シナプス後のドーパミン受容体が刺激された後に起こる一連の細胞内情報伝達機構の変化,すなわち各種の酵素の活性化やタンパク質のリン酸化,核内の遺伝情報の読み出しによる新規タンパク質の合成,その結果として生じるシナプスの伝達効率の変化なども依存の進行に伴う重要な変化である。

 ノン・ケミカルな依存にこれらの神経機構がどの程度関与しているのかは,今後の重要な研究課題である。実際,報酬系は金銭の損得にも敏感に反応する。また,「ランナーズ・ハイ」として知られる激しい運動時の恍惚感には内因性オピオイドが関与している。すなわち,多様な行動の形成と維持にかかわる神経機構が薬物依存と共通している可能性がある。 →覚醒剤 →幻覚剤 →神経伝達 →脳内報酬系
〔廣中 直行〕

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