医師から処方される薬の服用量が増えることによってもたらされる薬物依存症状。ストレスなどが原因となる不眠や不安などに対して医師が処方する睡眠薬や抗不安薬を常用しているうちに、やがて服用しても効能を感じなくなって使用量が増えていく。さらに過剰摂取が続くうちに依存性が高まってついには乱用を繰り返すに至り、自分の意思では服用を中止できなくなる。極度の依存症に陥ると、突然眠ってしまう、記憶を失ってしまうなど、日常生活や仕事に支障をきたすようになる。複数の医療機関や診療科を受診して薬を処方されるうちに、過剰摂取から乱用につながることも多く、薬を求めてさらに別の医療機関へと受診を繰り返すケースや、依存性の高い市販薬を併用するケースもある。近年では精神的ストレスから極度の睡眠薬依存に陥った医療従事者(看護助手)が、勤務先の病院に侵入して睡眠薬を盗もうとする事件も発生した。また精神科の臨床現場では、精神障害者に処方される向精神薬への依存や、意識水準の低下による衝動性の亢進(こうしん)が、治療に伴う副作用として問題となっている。
2010年(平成22)の国立精神・神経医療研究センターによる調査では、全国の精神科医療機関の患者が乱用していた薬物は、覚醒(かくせい)剤に次いで睡眠薬・抗不安薬が2位である。この睡眠薬・抗不安薬の大半を占めるのが、ベンゾジアゼピン受容体作動薬であり、乱用者の大半がその薬剤を精神科医療機関から、「処方」という合法的な手続きで入手していることも判明している。すでに海外では早くからベンゾジアゼピン受容体作動薬の依存性が問題視され、欧米先進国の多くの国で厳しい処方期間制限や、医療保険の適応から除外するなどの対策がとられてきた。その意味では、日本の対策の遅れが問題視されているとともに、薬物療法偏重の日本の精神科医療のあり方についても検討が必要な状況となっている。
それでも、こうした処方薬依存症への対策としていくつかの試みが行われている。第一に、精神神経学会からの要請に応じて製薬会社が、依存性や過量服薬時の致死性が高いバルビツール酸系の成分を含有する薬剤の販売を中止したこと、第二に、国が乱用頻度の高い抗不安薬の処方可能日数を制限したこと、そして最後に、ベンゾジアゼピン受容体作動薬を多種類処方していたり、漫然と長期間処方することを、診療報酬改定のたびに制限する施策を打ち出したこと、である。
医療者側の積極的な働きかけも少しずつ始まっている。近年では、とくに複数の薬を長期間服用している患者に対して、薬剤師の側から処方薬依存のリスクを示し、注意を促す動きも出ている。また、医師による安易な睡眠薬の処方も見直される傾向にあり、減薬を目的に体の緊張を解くリラクゼーション法や、就寝時間を記録・管理して行う認知行動療法、さらに服薬について互いに話しあう集団精神療法など、投薬に頼らない不眠症治療も試みられている。
[松本俊彦 2019年3月20日]
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