受動喫煙(読み)ジュドウキツエン

  • passive smoking

知恵蔵の解説

たばこを吸わない人が、他人のたばこの煙を吸わされること。火のついたたばこから立ち上る煙や喫煙者が吐き出す煙にも有害物質が含まれており、たばこを吸う人だけでなく、近くにいてたばこの煙にさらされる人にも健康被害が及ぶことが指摘されている。厚生労働省の研究班によれば、受動喫煙が原因で死亡する人は国内で年間約1万5千人と推計されている。
喫煙と受動喫煙に伴うたばこの害は国際的に問題視されている。2003年5月には、喫煙と受動喫煙を継続的かつ実質的に減少させ、健康、社会、環境及び経済に及ぼす破壊的な影響から現在と将来の世代を保護する目的で、「たばこ規制枠組条約(たばこの規制に関する世界保健機関枠組条約)」が採択され、日本は04年3月に同条約に署名した。条約は05年2月に発効し、締約国は180カ国に上る。
日本では、03年5月に施行された健康増進法第25条で、学校や病院、飲食店など多数の人が利用する施設において受動喫煙防止の努力義務が課されたが、罰則がなく、十分な規制効果が上がらなかった。世界保健機関(WHO)と国際オリンピック委員会(IOC)は、「たばこのない五輪」を推進しており、近年の開催地では飲食店を含む公共の場での屋内禁煙を実現している。2020年の東京五輪・パラリンピックに向けて、こうした「世界標準」に近付けようと、厚生労働省は16年10月に、罰則付きで屋内禁煙を義務化する健康増進法改正案のたたき台を示したが、自民党反対派が一定規模以下の店では喫煙を認める案を主張するなど合意できず、17年6月に閉会した通常国会に改正案を提出できなかった。

(原田英美 ライター/2017年)

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朝日新聞掲載「キーワード」の解説

たばこの煙は、吸い口から直接吸う主流煙と、火のついた先から立ち上る副流煙がある。副流煙の方がニコチンタールなどの有害物質が数倍多く含まれる。このため周りの人たちが無意識に吸い込む受動喫煙は、脳卒中心筋梗塞(こうそく)など深刻な健康被害をもたらす恐れがある。妊婦や子ども、乳児への悪影響も大きい。

(2017-11-22 朝日新聞 朝刊 福島中会・1地方)

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百科事典マイペディアの解説

間接喫煙とも。タバコの煙には,喫煙者の吸入する煙,吐き出された煙,点火部より直接立ちのぼる煙と3種類あり,このうち第3の点火部からの煙に強力な発癌(がん)物質であるN-ニトロソアミンなどの有害物質の含有率の高いことが判明した。従って,非喫煙者でも喫煙者の近くにいることで,タバコによって健康を害する危険度は高いことになり,受動喫煙の名称が生まれた。2003年5月施行の健康増進法25条には〈受動喫煙の防止〉が触れられている。→嫌煙権
→関連項目タバコ(煙草)分煙

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知恵蔵miniの解説

タバコの煙を非喫煙者が不本意に吸い込むこと。間接喫煙、不本意喫煙。受動喫煙の煙には、喫煙者が吐き出したものと点火部分から直接発生するもの(副流煙)とがある。喫煙により起こる様々な健康被害が受動喫煙においても発生しうることがわかってきており、喫煙者の子供・同居者や公共の場での受動喫煙などが社会問題化している。2016年5月31日には、厚生労働省の研究班が、受動喫煙により肺がん・脳卒中・虚血性心疾患などで死亡する人が国内で年間約1万5000人に上るとの推計を発表した。

(2016-6-2)

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日本大百科全書(ニッポニカ)の解説

他人のたばこの煙を吸いこむこと。健康増進法(平成14年法律第103号)は「人が他人の喫煙によりたばこから発生した煙にさらされること」(28条3号)と定義している。国立がん研究センターによると、ニコチンや発がん物質を吸うことで、罹患(りかん)リスクは肺がん・脳卒中で1.3倍、虚血性心疾患で1.2倍、乳幼児突然死症候群は4.7倍に高まる。世界保健機関(WHO)は2003年、受動喫煙を含めた健康被害を減らす「たばこ規制に関する枠組条約」を採択し、日本も2004年(平成16)に批准した(2005年発効)。1990年代以降、アメリカのカリフォルニア州などで全面禁煙の動きが広がり、アイルランドが2004年に世界初の国全体を禁煙とする法律を施行するなど、全面禁煙の国は55か国(2016年時点)に及ぶ。しかし日本の受動喫煙対策は飲食店、たばこ事業者、たばこ関係議員の反対で「先進諸国の中で極めて消極的」(1987年喫煙と健康問題に関する報告書)な状況が続き、2003年に受動喫煙防止を初めて法律に盛り込んだ健康増進法が施行されたが、飲食店などに努力義務を課すにとどまった。このため神奈川県が2009年、全国に先駆けて罰則のある受動喫煙防止条例を制定(罰則適用は2011年)するなど自治体先行で対策が進んだ。

 ようやく2018年に健康増進法が改正され、まず2019年(令和1)7月から、子供や妊婦などが利用する学校、病院、児童福祉施設、バス、タクシー、航空機、官公庁舎などの屋内を含む敷地全体の禁煙を義務化した。2020年4月からは、住居やホテル・旅館などの居住空間を除き、飲食店、一般の職場、鉄道、ホテルのロビーなどの屋内禁煙も義務化した。違反して喫煙すると30万円以下の罰金を科し、表示義務違反などをした施設管理者には50万円以下の罰金を科す。ただし、(1)受動喫煙防止策をとった屋外喫煙所、(2)煙が漏れないなど一定基準を満たし喫煙専用と表示した喫煙専用室(飲食不可)、(3)未成年の立ち入りを禁止し、喫煙可能と表示した小規模飲食店(個人経営または資本金5000万円以下の既存店で、客席面積100平方メートル以下)、(4)加熱式たばこのみを吸うことができる指定たばこ専用喫煙室、(5)シガーバーやたばこ販売店の喫煙目的室、では例外的に屋内喫煙を認めた。国の法律に加え、東京都などの自治体は従業員のいる飲食店は零細でも禁煙とするなど、より強い規制を設けた。厚生労働省は2011年から中小企業に、喫煙専用室整備などを後押しする「受動喫煙防止対策助成金」を設け、全国の自治体にも同様の補助制度がある。ただし日本の受動喫煙対策のレベルは、WHOの4段階ランクで下から2番目にすぎない。

[矢野 武 2020年8月20日]

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