改訂新版 世界大百科事典 「価格差別」の意味・わかりやすい解説
価格差別 (かかくさべつ)
price discrimination
財貨・サービスの取引において,売手が買手に対しその取引(販売)価格に関して行う差別的な取扱いをいう。特定の買手に対して他の買手に比べて相対的に有利な価格で販売するとか,同一の買手に対してその取引ごとに価格に差異を設けるといった形態をとるのが通例である。ただし,買手によってあるいは取引ごとに価格に差異がある場合であっても,それが財貨・サービスの品質,取引量,取引地点,取引時期などの差異により生ずる費用上の差異によるものであれば,これは価格差異であって価格差別ではない。売手が価格差別を行うのは,買手に対して差別的な取扱いをすることが可能であり,かつそれが有利であるからにほかならない。価格差別が有効である条件は,取引される財貨・サービスについて,(1)売手に価格支配力があり,(2)買手の需要の価格弾力性に差異があり,かつ(3)買手間における転売が困難であることである。サービスの取引において価格差別がしばしば行われるのは,サービスがその性質上,少なくとも(3)の条件を満たすものであるためである。価格差別は,資源配分(財貨・サービスの供給量)や所得分配(売手と買手の間および買手間の所得の分配)に影響するほか,市場における競争(売手の市場における企業間の競争および買手の市場における企業間の競争)を阻害するおそれもある。
執筆者:横倉 尚
法律による規制
独占禁止法の〈不公正な取引方法〉に対する規制の一態様として,価格差別の規制が問題とされる。〈差別対価〉の語が用いられることも多い。同法が〈不公正な取引方法〉とするのは,自由かつ公正な競争秩序維持の見地から判断して,正当な理由のない価格差別であり,コストの差等を反映した価格差別は,正当な理由があるものとして違法とはされない。同法以外でも通運事業等の運送事業の認可に関しては,料金,運賃等の価格差別がないことを認可基準とするのが一般的である。アメリカでは,1936年に制定されたロビンソン=パットマン法が価格差別を規制している。アメリカでは,正当性判断が著しく困難であることや,規制の経済性等を理由にして,価格差別の法的規制を不要とする意見も根強い。
→不公正な取引方法
執筆者:来生 新
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報