船の運航を中止して,港に係留すること。海運市場における船腹の供給過剰によって引き起こされる海運不況時には,運賃市況が後退を続ける過程で競争力に乏しい高コスト船から順に,その運賃収入は運航コストと等しい〈損益分岐点〉にまで落ち込む。しかし,そこで運航を止めて係船しても,変動費である運航費(燃料費,貨物費,港費等)はなくなるが,固定費である減価償却費,利子,一般管理費等はほとんど節約されることなく着実に生じる。加えて,係船保険料や当直船員費などのいわゆる係船管理費用がかかる。したがって,運航を続けることによって被る欠損が係船によって生ずるこれらの費用の合計を下回るかぎり,損益分岐点を下回って赤字を出しながらも運航を続けた方が有利となる。しかし運賃市況がさらに悪化すれば,ある船舶にとって運賃は運航による欠損と係船費用とが等しくなる水準にまで落ち込む。この運航による欠損と係船費用とが等しくなる水準を,その船舶の係船点lay-up pointと呼ぶ。係船点は各船舶によって当然異なるが,係船点以下の運賃水準で運航することは,運航欠損が係船費用を上回るので,船主にとっては係船した方がましとなる。したがって,運航を継続しなければならない特別な理由のないかぎり,船主は係船に踏み切ることになる。一般に係船という場合,このようにして行われるものを指す。
執筆者:織田 政夫
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
船を一時的に港に係留することをいい、錨泊(びょうはく)、浮標係留、岸壁(桟橋)係留の3種がある。船舶の修理、検査などのために行われるが、そのほか、海運市況が悪化し、船舶の稼動を少なくするため、一時的に船の運航を停止させて港に係留する場合にも係船の語が用いられる。
その場合、年間稼動率からその係船率を運賃に割り当てて定める定期的係船は別として、不況的係船は、経済的不況により船が余って、運賃が下がり、運航費を償うことができなくなって、やむをえずとられる臨時的な措置である。したがって、係船するかどうかは、係船点に左右される。
係船点とは、運賃が下がって、それが総運送費を下回るようになった際、運航を中止することにより生ずる損失と、係船のために要する総費用が等しくなる場合で、その船の運賃収入が係船点を下回る場合は、むしろ係船したほうが有利とされる。
[鳥谷剛三]
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