改訂新版 世界大百科事典 「偽イシドルス教会法令集」の意味・わかりやすい解説
偽イシドルス教会法令集 (ぎイシドルスきょうかいほうれいしゅう)
Decretales Pseudo-Isidorianae[ラテン]
847-852年ころランス大司教区内またはル・マン司教区内で作られた教会法令集。9世紀中葉に,世俗君主や首都大司教の専横から司教たちを守る目的で編纂され,セビリャのイシドルスの盛名を騙った一連のいわゆる〈イシドルス偽書〉中の最大のもの。教皇グレゴリウス2世(669-731)までの教皇令と第2回セビリャ会議(619)までの公会議決議を中心に,ローマ法源,国王の勅令(カピトゥラリア),贖罪規定などを3部に分けて収録している。この中には,90余の偽教皇令や有名な《コンスタンティヌスの寄進状》が含まれている。名称は,初期の教皇令を集めた第1部の序文にイシドルス・メルカトルIsidorus Mercatorの名が記されているところに由来する。しかし,この編纂者名はセビリャのイシドルスとメルカトル(?-451)の合成名と考えられており,実際の編者名は知られていない。この法令集は9世紀末までに全西欧に流布し,さらに11世紀中葉以後の教会改革運動において,教会の裁判制度およびローマ教皇の首位権を基礎づけるための有力な論拠として用いられ,中世の教会法制の発展に大きな影響力を及ぼした。本法令集の中の多数の法文が,グラティアヌス教令集に収録されている。
執筆者:淵 倫彦
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