改訂新版 世界大百科事典 「グラティアヌス教令集」の意味・わかりやすい解説
グラティアヌス教令集 (グラティアヌスきょうれいしゅう)
Decretum Gratiani[ラテン]
1140年ころボローニャのカマルドリ会修道士ヨハネス・グラティアヌスJohannes Gratianus(?-1160ころ)が編纂した教会法の法令集。グラティアヌス教令集は通称で,正式名称を矛盾教会法令調和集Concordia discordantium canonumという。全体は3部に分けられ,聖書,公会議決議,教皇令,教父文書,ローマ法などから採録された約4000の法文がテーマ別,年代順に配置されている。グラティアヌス教令集は,それ以前のどの教会法令集よりも大規模であり,これには過去1000年間の主要な教会法源が網羅的に収録されている。このためこの教令集は,12世紀末には,教会の法実務および大学の法学教育の中心的地位を占めた。また,この教令集の出現によって,カノン法の統一・体系化のための基礎が据えられ,この基礎の上に,中世カノン法学が発達し,教皇令を中心とする新たな教会立法が行われて,中世カノン法の体系が築かれた。これを集大成したものがカノン法大全である。なお,この教令集の出現によって,従来神学の一分野として存在していた教会法に関する学問が神学から独立し,カノン(教会)法学が誕生した。このため,編者グラティアヌスは〈カノン法学の父〉と呼ばれる。
→教会法
執筆者:淵 倫彦
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