改訂新版 世界大百科事典 「光凝固」の意味・わかりやすい解説
光凝固 (ひかりぎょうこ)
photocoagulation
キセノンアーク光あるいはアルゴンレーザー光をエネルギー源とする光線のビームを眼内に導き,眼底を照射したとき,光の熱エネルギーによって起こる組織の熱凝固を治療に用いる方法。光線以外に到達が不可能ともいえる眼底の疾患に対し,病巣の破壊,病勢の進行阻止および好転を図る眼科独特の,直接的な手術である。光凝固は,日食性網膜炎(日食の観察の際に起こる網膜炎)の研究がきっかけとなり,1949年にマイヤー・シュウィッケラートGerhard Meyer-Schwickerath(1920-58)によって基礎がひらかれた。ごく初期には実際の太陽光を用いたというが,まもなくキセノンランプを光源とする装置が実用化され,さらに近年のレーザーの開発・応用によって,現在ではアルゴンレーザー光凝固装置が主として用いられる。レーザー凝固装置では,細隙灯顕微鏡にセットして,眼底を検査しながら操作ができるため,急速に普及したものと思われる。凝固した組織がやがて瘢痕(はんこん)・萎縮組織に変わるという生体の反応を治療に結びつけたもので,糖尿病性網膜症や網膜静脈閉塞症で代表される網膜・硝子体出血を起こす網膜血管病変,網膜剝離(はくり)(裂孔・赤道部変性の予防的処置を含む),中心性網膜炎などの場合に行われる。また一部の未熟児網膜症にも適応されるが,いずれも実施にあたっては,真の意味での有効性を見極めた慎重な配慮が必要である。また同様の目的で,下記のような〈冷凍凝固〉も行われる。
冷凍凝固cryocoagulation(cryopexy)
強膜上の直径2~3mmの範囲を-60℃前後に冷却させることにより,網膜,脈絡膜に光凝固法と同様な萎縮瘢痕を起こす手術法。凝固力や位置の微細なコントロールは不可能であるが,やや広範囲で穏やかな組織反応をもたらすので,主として網膜剝離手術に用いられる。また続発緑内障で毛様体に対して,あるいは光凝固が不可能な進行した増殖性網膜症で眼底に対して試みられることがある。
執筆者:小林 義治
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報