東大寺戒壇院の学僧凝然(ぎようねん)が,1268年(文永5)1月,故郷の伊予国円明寺で,日本の八宗について概説した著作。上下2巻よりなる。序説として,仏教の法門は大小の2乗,声聞・菩薩の2蔵,経・律・論の3蔵に大別できることを述べ,仏法の日本への伝来について概説し,以下日本の八宗の各論に触れ,各宗の歴史・教理について解説している。上巻は序説と俱舎(くしや)宗,成実(じようじつ)宗,律宗の3宗,下巻は法相(ほつそう)宗,三論宗,天台宗,華厳宗,真言宗の5宗について解説し,最後に禅宗,浄土宗を簡単に紹介している。八宗に関する歴史とその変遷や教理を簡潔に示している点で,古くより仏教入門書として重視された。16世紀後半以降数度重刊され,また注釈・解説書の類も50書に達する。仏教を総合的に考察しようとする凝然の学風は,後年一段と研鑽され,各宗にわたる莫大な著作となった。本書は《三国仏法伝通縁起》《浄土法門源流章》《律宗綱要》などとともに,凝然の史家としての一面を示すものである。
執筆者:堀池 春峰
出典 株式会社平凡社「改訂新版 世界大百科事典」改訂新版 世界大百科事典について 情報
仏教の概論書。2巻。日本華厳(けごん)宗の学僧、東大寺の凝然(ぎょうねん)(1240―1321)の29歳のときの著。インド、中国、日本の三国にわたる、大小乗、密教に及ぶ全仏教を網羅する概説書として、今日でも一般に広く読まれている。八宗とは、倶舎(くしゃ)宗、成実(じょうじつ)宗、律(りつ)宗、法相(ほっそう)宗、三論(さんろん)宗、華厳(けごん)宗、天台宗、真言(しんごん)宗で、それら八宗の宗名、成立、教説を概説する。うち、倶舎、成実、律、法相、三論、華厳は南都六宗である。これに、平安仏教の、最澄(さいちょう)の天台宗と、空海の真言宗の二宗を加えている。歴史的には倶舎は法相の、成実は三論の付宗とされ、基礎学として併修され独立した宗ではなかった。最後に禅宗、浄土宗についての簡単な付記があるが、当時盛行した浄土宗や禅宗が凝然の意識に大きくなかったことは注目すべきである。
[池田魯參]
『平川彰訳注『八宗綱要』上下(1980・大蔵出版)』▽『鎌田茂雄訳注『八宗綱要』(講談社学術文庫)』
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