浄土宗(読み)じょうどしゅう

精選版 日本国語大辞典 「浄土宗」の意味・読み・例文・類語

じょうど‐しゅう ジャウド‥【浄土宗】

〘名〙 平安末期、美作国(岡山県東北部)の法然房源空が開いた浄土教系の宗派。無量寿経、観無量寿経阿彌陀経の三部経を基本の経典とし、中国の善導に依りどころを置いて、難易二道、聖浄二門の対立を通して安元元年(一一七五)の春、もっぱら南無阿彌陀仏の名号を念ずれば極楽浄土往生できると説き、戒律や造寺造仏の不要を主張した。その著「選択本願念仏集」は立教開宗の書とされる。浄土専念宗念仏宗白蓮宗
※選択本願念仏集(1198頃)「今此浄土宗者若依道綽禅師意、立二門而摂一切

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デジタル大辞泉 「浄土宗」の意味・読み・例文・類語

じょうど‐しゅう〔ジヤウド‐〕【浄土宗】

平安末期、法然上人源空を宗祖とする浄土教一派浄土三部経所依聖典とするが、特に観無量寿経を重視して、専修念仏によって極楽浄土への往生を宗旨とする。総本山京都知恩院

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「浄土宗」の意味・わかりやすい解説

浄土宗
じょうどしゅう

日本仏教の一宗派。法然上人(ほうねんしょうにん)源空(げんくう)を開祖とし、阿弥陀仏(あみだぶつ)に帰命(きみょう)し、その本願(ほんがん)を信じ、称名念仏(しょうみょうねんぶつ)によって、その浄土への往生(おうじょう)を期することを教旨とする。知恩院(京都市東山区)を総本山とし、増上寺(東京都港区)、金戒光明寺(こんかいこうみょうじ)(京都市左京区)、知恩寺(京都市左京区)、清浄華院(しょうじょうけいん)(京都市上京区)、善導寺(ぜんどうじ)(福岡県久留米(くるめ)市)、光明寺(こうみょうじ)(神奈川県鎌倉市)、善光寺大本願(長野市)を大本山とする。

[末木文美士]

歴史

開祖源空は比叡山(ひえいざん)において天台宗をはじめ広く仏教を学んだが、善導の『観無量寿経疏(かんむりょうじゅきょうしょ)』を読んで浄土念仏の確信を得、叡山を降りて布教に踏み切った。1175年(安元1)43歳のおりのことといわれ、この年が浄土宗開宗の年とされる。源空の主著『選択本願念仏集(せんちゃくほんがんねんぶつしゅう)』は、浄土宗の立宗宣言ともいうべきもので、従来の八宗、九宗に対して新たに浄土宗をたてるゆえんを説いている。源空の周囲には多数の門人が集まったが、源空没後、それぞれの説をたてて争うようになった。そのうち主要なものは、隆寛(りゅうかん)の多念義(たねんぎ)(長楽寺流)、弁長(べんちょう)の鎮西義(ちんぜいぎ)、幸西(こうさい)(1163―1247)の一念義(いちねんぎ)、証空(しょうくう)の西山義(せいざんぎ)、長西(ちょうさい)(1184―1266)の諸行本願義(九品寺流(くほんじりゅう))、親鸞(しんらん)の一向義(いっこうぎ)などである。

 今日の浄土宗は鎮西義の流れをくみ、ほかに西山義は浄土宗西山派(のち西山浄土宗、浄土宗西山禅林寺派、浄土宗西山深草派に分派)となり、一向義は浄土真宗となって現存するが、他の諸派は滅びた。源空滅後の教団は、初め、信空(1146―1228)、隆寛、証空らが中心となって支えたが、専修念仏(せんじゅねんぶつ)の主張が旧来の諸宗の批判を浴び、ひいては政治的弾圧を受けることとなった。とくに1227年(安貞1)の弾圧により、京都での勢力は一時衰えた。その間、鎮西義の聖光房(しょうこうぼう)弁長(二祖)は九州で勢力を伸ばしていたが、三祖然阿良忠(ねんありょうちゅう)に至って、源空の墓所を守っていた源智(げんち)の弟子蓮寂(れんじゃく)(1205―1281)と合流し、さらには関東に布教して発展を遂げた。良忠の門下は数多く、そのなかから6派が分かれた。すなわち、性心(しょうしん)(?―1299)の藤田派(ふじたは)、尊観(そんかん)(1239―1316)の名越派(なごえは)、良暁(りょうぎょう)(1251―1328)の白旗派(しらはたは)、良空(?―1297)の木幡派(こばたは)、然空(ねんくう)(?―1297)の一条派、道光(1243―1330)の三条派である。このうち、白旗派が最大の勢力を得て現在の浄土宗に至っている。白旗派は、了誉聖冏(りょうよしょうげい)(1341―1430)によって教義および組織が確立し、また酉誉聖聡(ゆうよしょうそう)は武蔵国(むさしのくに)(東京都)豊島(としま)郡貝塚に増上寺を開いて布教した。江戸時代の初めには源誉存応(げんよぞんのう)(観智国師(かんちこくし))が徳川家康の帰依(きえ)を受けて、増上寺は徳川家の菩提寺(ぼだいじ)となった。また、知恩院の尊照(1562―1620)と図って浄土宗法度(はっと)三十五条(元和条目(げんなじょうもく))を定め、徳川家康の命で関東十八檀林(だんりん)を設けて宗門の振興を図った。その後、明治維新時の廃仏棄釈の動きのなかで一時期衰退したが、まもなく椎尾弁匡(しいおべんきょう)、望月信亨(もちづきしんこう)(1869―1948)らの努力で復興し、今日に至っている。寺院数6916、教会数51、その他89、教師数1万0731、信者数602万1900(『宗教年鑑』平成26年版)。

[末木文美士]

教義

浄土宗では、浄土三部経、すなわち『無量寿経』『観無量寿経』『阿弥陀経』を所依(しょえ)の経典とし、世親(せしん)(天親(てんじん))の『無量寿経優婆提舎願生偈(うばだいしゃがんしょうげ)』(『往生論』ともいう)、善導の『観無量寿経疏』、源空の『選択本願念仏集』(略して『選択集』)の説に従う。教判としては、基本的に『選択集』に説く二門判により、仏教を聖道門(しょうどうもん)(現世に悟りを求める自力諸宗)と浄土門(浄土往生を求める浄土宗)に分け、前者を難行道(なんぎょうどう)、後者を易行道(いぎょうどう)とする。念仏往生に関しては、とくに善導によって、安心(あんじん)(心構え)、起行(きぎょう)(実践方法)、作業(さごう)(継続方法)の3点を重視する。

 安心は『観無量寿経』に説く三心(さんじん)、すなわち至誠心(しじょうしん)(虚仮不実(こけふじつ)を交えない心)、深心(じんしん)(深く信ずる心)、廻向発願心(えこうほつがんしん)(善根を廻向して往生に振り向ける心)である。起行は五種正行(阿弥陀仏を対象として行う五種の行)、すなわち読誦(とくじゅ)、観察、礼拝(らいはい)、称名、讃嘆(さんだん)供養で、なかでも称名を正定業(しょうじょうごう)(本願に基づく往生のための不可欠の行)とし、他を助業とする。作業は恭敬修(くぎょうしゅう)(真心から修すること)、無余修(むよしゅう)(専念して修すること)、無間修(むげんしゅう)(つねに修すること)、長時修(一生の間修すること)の四修である。

[末木文美士]

『恵谷隆戒著『概説浄土宗史』(1978・隆文館)』『藤井正雄編『日本仏教基礎講座4 浄土宗』(1979・雄山閣出版)』『伊藤唯信・玉山成元編『法然上人と浄土宗』(1985・吉川弘文館)』『中井真孝著『法然伝と浄土宗史の研究』(1994・思文閣出版)』


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百科事典マイペディア 「浄土宗」の意味・わかりやすい解説

浄土宗【じょうどしゅう】

日本仏教の一宗派。開祖は法然(ほうねん)。浄土三部経と世親(せしん)の《浄土論》を根本教典とするが,特に善導の教説により,他力易行の口称念仏をもって往生の正業とし,念仏の専修を勧めた。法然の《選択(せんちゃく)本願念仏集》が立教開宗の書とされる。門流のおもなものに弁長の鎮西(ちんぜい)流,証空の西山(せいざん)流,隆寛の長楽寺流,長西(ちょうさい)の九品(くほん)寺流,幸西の一念義などがある。親鸞の浄土真宗もその一つとされる。現在,浄土宗を称する宗派は弁長の鎮西流の流れをくみ,弟子良忠の下に6流が分かれたが,白旗流がその代表的なものとなった。知恩院を本山とし,増上寺などが属する。
→関連項目阿弥陀仏安楽庵策伝鎌倉時代浄土教称名念仏大正大学長講堂法然上人絵伝

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「浄土宗」の意味・わかりやすい解説

浄土宗
じょうどしゅう

源空 (法然) を開祖とし,阿弥陀仏の極楽浄土に生れて悟りを開くことを目的とする仏教の一宗派。源空の思想は,直接には唐代の善導の影響を受けるが,インドの世親を先駆者として考え,思想伝承の系統を立てる場合もある。『無量寿経』『観無量寿経』『阿弥陀経』の「浄土三部経」を根本経典とし,それに世親の『無量寿経優婆提舎願生偈』をも加える。極楽浄土に生れるための修行方法として,必ず浄土に往生しうるという信念 (安心) ,修行者の実践である阿弥陀仏の名を称える称名などの5種の正しい修行方法 (起行) ,安心および起行を強力に推進する諸行為 (作業) をあげ,なかでも称名を極楽往生の最も端的な方法とする。この念仏を中心とする浄土教は,当時の民衆の帰依を受けて広まったが,また弾圧も受けている。源空の教えは,その弟子である幸西,聖光,隆寛,証空,長西,親鸞などによって継承され,布教されたが,同時に彼らによる種々の解釈がなされた。現在では,聖光の流れをくむ鎮西派を浄土宗と呼ぶ。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「浄土宗」の解説

浄土宗
じょうどしゅう

法然(ほうねん)を開祖とし,阿弥陀如来の称名(しょうみょう)念仏による極楽往生を説く宗派。法然は「選択(せんちゃく)本願念仏集」を著し,他力易行(いぎょう)の専修(せんじゅ)念仏を勧めたが,その専修性は1207年(承元元)の流罪や法然没後の27年(安貞元)の法然廟破壊などの法難を招いた。のちに多くの分派を生じ,知恩院に拠った源智・隆寛の多念義,幸西の一念義,長西の諸行本願義(九品(くぼん)寺義),証空の西山(せいざん)義,弁長の鎮西義などにわかれたが,全体的には鎌倉・室町時代に急速に教圏を広げ,京都を中心として関東や東北から九州に及んだ。とくに鎮西義は良忠のとき関東に進出し,その門下に白旗派・藤田派・名越派の関東三派,および一条派・三条派・木幡派の京都三派を生じ,大いにふるった。

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世界大百科事典 第2版 「浄土宗」の意味・わかりやすい解説

じょうどしゅう【浄土宗】

法然によって開かれた仏教の一宗派。《無量寿経》《観無量寿経》《阿弥陀経》の三経(浄土三部経)とインドの世親の著した《浄土論》を正依の経論とし,称名(しようみよう)念仏(南無阿弥陀仏と口に称える)によって,阿弥陀仏の極楽浄土へ往生することを期す。唐の善導を高祖,法然を宗祖とする。1175年(安元1)法然は43歳で専修(せんじゆ)念仏の確信をえた。まだ教団は形成されていなかったが,このときをもって浄土宗開創とする。

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旺文社日本史事典 三訂版 「浄土宗」の解説

浄土宗
じょうどしゅう

平安末期,法然によって開かれた仏教の新宗派
法然の説いた専修念仏の教えは,南無阿弥陀仏の念仏を数多く唱えれば,万人が浄土に往生できるというもので,他力易行 (たりきいぎよう) の宗といわれる。この平易な教えは平安末期の社会不安の中で救いを求める人びとの新しい信仰として,広く武士・庶民の間にうけ入れられた。開宗当初は,旧仏教の圧迫をうけたが,法然の死後,多くの流派に分かれて発展し,その中から浄土真宗・時宗が分立した。現在,知恩院を総本山とし,増上寺・善光寺が大本山となっている。

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旺文社世界史事典 三訂版 「浄土宗」の解説

浄土宗
じょうどしゅう

阿弥陀仏 (あみだぶつ) の信仰による浄土への救済を説く仏教の一派
インド起源,西方起源の両説があるが,1〜4世紀に北西インドで発達。中国では,東晋 (とうしん) の慧遠 (えおん) を祖とし,隋・唐代の道綽 (どうしやく) ・善導 (ぜんどう) らが大成。平易な念仏を手段に民衆に広まり,唐代から禅宗と並び,あるいはこれと融合して中国仏教の主流となった。慧遠・道綽・善導・慈愍 (じびん) の4流があるとされるが,明確な区別はない。朝鮮・日本にも多大な影響を与えた。

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葬儀辞典 「浄土宗」の解説

浄土宗

■本尊/阿弥陀如来■宗祖/法然■本山/知恩院・光明寺・禅林寺・誓願寺(京都)葬儀は、一般的に序文(仏を迎える)、正宗分(念仏で仏を供養する)、流通分(仏を送る)の三段階で構成され、これらに授戒と引導を加えたものです。会葬者の焼香は、仏・法・僧の三宝にささげるため3回行います。

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世界大百科事典内の浄土宗の言及

【浄土真宗】より

…しかしこれらは,真実の教という謂で,宗名ではなかった。 日本では,はじめ浄土宗を浄土真宗ともいった。浄土宗の聖冏(しようげい)の《浄土真宗付法伝》には,浄土真宗の八祖相承(経巻相承),六祖相承(知識相承)があげられ,妙瑞の《鎮西名目問答奮迅鈔》には,浄土宗を浄土真宗というといわれている。…

【仏教】より

…いわゆる鎌倉新仏教の成立である。念仏門の系統から,まず法然(源空)が日本浄土宗を開いた。法然は主著《選択(せんちやく)本願念仏集》を著し,富と知識を独占する貴族しかできない造寺・造仏・学解・持戒などの意義を退け,往生の要諦は阿弥陀―仏を信じて,念仏だけを唱えること(一向専修)で,これにより人びとは貴賤・男女の差別なく在家の生活のまま往生できると説いた。…

【法然】より

…平安末・鎌倉初期の僧。浄土宗の開祖。諱(いみな)は源空,法然は房号。…

※「浄土宗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

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