成実宗(読み)ジョウジツシュウ

デジタル大辞泉 「成実宗」の意味・読み・例文・類語

じょうじつ‐しゅう〔ジヤウジツ‐〕【成実宗】

成実論」に基づく仏教一派。412年鳩摩羅什くまらじゅうが成実論を漢訳後流布して研究され、りょう代に隆盛となった。のち、日本に伝えられ、南都六宗の一とされたが、のち三論宗の付宗とされ、独立した一宗とはならなかった。

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精選版 日本国語大辞典 「成実宗」の意味・読み・例文・類語

じょうじつ‐しゅうジャウジツ‥【成実宗】

  1. 〘 名詞 〙 仏語。仏教の一派で、南都六宗、中国一三宗の一つ。訶梨跋摩(かりばつま)の著わした「成実論」に基づき、万物はすべて空(くう)であり、無であることを悟ることによって、煩悩(ぼんのう)を解脱することができるとの教義を研究する学派。中国では、後秦の義熙七~八年(四一一‐四一二)、鳩摩羅什(くまらじゅう)が漢訳し、弟子の僧叡がそれを説教したのに始まり、その研究は初唐まで隆盛をきわめた。日本では三論宗とともに伝えられ、東大寺、元興寺、大安寺西大寺などで三論と兼学されたが、南都六宗の一つに数えられながら独立の教団として扱われていない。成実。〔三国仏法伝通縁起(1311)〕
    1. [初出の実例]「成実宗は倶舎と同じく三乗の道位をあかす」(出典:歩船鈔(1362)末)

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日本大百科全書(ニッポニカ) 「成実宗」の意味・わかりやすい解説

成実宗
じょうじつしゅう

『成実論』をよりどころとする仏教の一宗派。日本の南都六宗の一つ。『成実論』は3~4世紀ごろのインドの仏教学者、訶梨跋摩(かりばつま)(ハリバルマンHarivarman)の作で、部派仏教(小乗仏教)の教理に大乗的趣旨を加味した仏教概説書である。412年に鳩摩羅什(くまらじゅう)が漢訳し、鳩摩羅什門下の人々、とくに僧導(そうどう)や僧嵩(そうすう)によって宣揚され、中国の南北両地に流布し、その研究は梁(りょう)代にもっとも隆盛となった。成実論師・成実師などの呼称もおこり学派を形成したが、仏教学の進展とともに小乗仏教と批判され、唐代以後は研究も衰退した。

 日本への伝来は、凝然(ぎょうねん)の『三国仏法伝通縁起(さんごくぶっぽうでんずうえんぎ)』などにより推察すると、推古(すいこ)天皇の代には伝えられたと考えられる。初めは高麗(こま)や百済(くだら)の渡来僧によって講讃(こうさん)され、成実衆として一つの学団を形成し、東大寺建立(752)のころには南都六宗の一とされた。平安時代になって三論宗の付宗とされ、研究者も減少し、一宗としての独立性を失った。教義の中心は、仏教の基本教義とされる、苦の現実(苦諦(くたい))と苦の原因(集諦(じったい))と苦の滅(滅諦(めったい))と苦の滅への道(道諦(どうたい))との四諦(したい)の真実義を明らかにすることにあり、現象世界を構成する要素を、物質的なものや認識・心理作用など5類84種に分類して説明し、修行の階位を分けて27の賢聖(げんじょう)をたてるなど部派仏教の特徴を示す。また、自我という実体を認めない(我空・人空)とともに客観世界も空である(法空)と説き、世俗諦(せぞくたい)と第一義諦との二諦(にたい)説や中道を強調するなど大乗的な教えも説いた。

[伊藤隆寿]

『福原亮厳著『仏教諸派の学術批判・成実論の研究』(1969・永田文昌堂)』

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ブリタニカ国際大百科事典 小項目事典 「成実宗」の意味・わかりやすい解説

成実宗
じょうじつしゅう
Cheng-shi-zong

鳩摩羅什 (くまらじゅう) が訳出した『成実論』に基づく中国仏教の一宗派。一切皆空と観じることによって涅槃に到達しようとする。羅什の弟子僧叡らは,いちはやくこれを講じたが,のち南北朝時代に最も盛んになり,法雲,智蔵,僧などの傑僧を輩出した。しかし三論の研究が次第に盛んになり,吉蔵によって部派仏教であることを決定されてからは次第に『成実論』の研究は衰えた。日本では,三論とともに東大寺,法隆寺などで研究されたが,『成実論』研究自体は,次第に影を没した。

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山川 日本史小辞典 改訂新版 「成実宗」の解説

成実宗
じょうじつしゅう

訶梨跋摩(かりばつま)の「成実論」を所依とする宗派。南都六宗の一つに数えられているが,万象が空であり無であることを悟ることにより解脱(げだつ)でき,涅槃(ねはん)に入ることができるとの教義は,三論宗の教義と近似しているため,平安時代以降は三論宗に付属するものとして扱われた。806年(大同元)諸宗の年分度者(ねんぶんどしゃ)を定めた際,三論宗3人のうち2人は「三論」を読誦し,1人は「成実論」を読誦するとされ,「成実論」は三論宗学徒の兼学すべきものだったことがわかる。

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旺文社日本史事典 三訂版 「成実宗」の解説

成実宗
じょうじつしゅう

南都六宗の一つ
三論宗の付宗(付属する宗派)で,インドのカリバツマのつくった成実論に基づく。俗諦と真諦を対立させ,俗諦の存在をいちおう認めるが,真実界に立ってみればそれは空であると説く。半分小乗,半分大乗の教え。

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世界大百科事典(旧版)内の成実宗の言及

【南都六宗】より

…奈良六宗ともいう。8世紀に官大寺などで研究されていた三論宗,成実(じようじつ)宗,法相(ほつそう)宗俱舎(くしや)宗華厳(けごん)宗律宗の六宗を指す。六宗の成立以前に華厳宗を除く五宗が成立していたことは,718年(養老2)10月の太政官符に〈五宗の学,三蔵の教〉とあることからもうかがわれ,藤原氏祖先の伝記である《家伝》(鎌足伝)も藤原鎌足が飛鳥元興(がんごう)寺に五宗の研究の費用を寄付したと伝えている。…

※「成実宗」について言及している用語解説の一部を掲載しています。

出典|株式会社平凡社「世界大百科事典(旧版)」

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