日本大百科全書(ニッポニカ) 「公共図書館」の意味・わかりやすい解説
公共図書館
こうきょうとしょかん
図書館法にのっとり、自治体が公的に設置する図書館で、市民のために無料公開される。イギリス、アメリカのパブリック・ライブラリーpublic libraryにあたる。一部の私立図書館を含むが、大半が公立図書館である。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
歴史
19世紀に入り、イギリスでは読者層の拡大、産業革命の進展により、市民、労働者のための社会教育施設としての図書館の必要が叫ばれるようになった。市民組織としての会員制図書館、労働者のための職工学校の図書室などは公共図書館設立の前史となった。1850年イギリス議会は、W・ユーワトWilliam Ewart(1798―1869)の提出した「公共図書館法」を可決し、ここに自治体の義務設置になる図書館の基盤ができあがった。もっとも古い都市公共図書館はマンチェスターにできた図書館である〔1852年。初代館長E・エドワーズEdward Edwards(1812―1886)〕。
アメリカでも1848年マサチューセッツ州に図書館法が発布され、1854年にボストン公共図書館が開館された。こうして法的裏づけはできたものの、20世紀に入ってA・カーネギーらの資金援助で一挙に館数が増えるまでは、優れた図書館員の個人的努力に支えられていた。イギリスでも事情は同じであった。19世紀後半から20世紀にかけ、ヨーロッパ諸国は相次いで図書館法を制定した。
革命を経たソ連では、1920年代から国家的な図書館事業に乗り出し、その中心は大衆図書館網の構築で、文化省の主要な仕事となった。ソ連崩壊後のロシアにおいても大筋はかわっていない。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
日本
日本では、1872年(明治5)の書籍館(しょじゃくかん)(東京)、集書院(京都)の設置で公的な図書館が発足したが、法的根拠を得るのは1899年の「図書館令」からで、同令はさらに1933年(昭和8)に全面改正され、県立図書館設置のきっかけとなった。書籍館を受け継ぐ帝国図書館は明治以降多くの市民に利用されてきた。
しかし、真の民主的機関としての公共図書館は第二次世界大戦後に始まる。1950年(昭和25)の「図書館法」施行で、地域住民のための図書館が各地にできるようになった。しかしながら、市町村立の図書館が一挙に出現したわけではなかった。図書館を求める市民の要求や、アメリカ、イギリスの事例に学んだ図書館員の地道な活動が重なって、これらを結集した日本図書館協会とその年次大会である全国図書館大会により、公共図書館の数は漸増を続けた。リポート『中小都市における公共図書館の運営』(1963)は、県立図書館とは異なる地域の中小図書館こそが住民サービスの中心的な担い手であることを示したものであり、たとえば東京都日野市立図書館では、団地を中心とする地域住民に移動図書館車によって貸出しサービスを広げ、自治体当局に新たな認識を迫るといった動きが現れた。『図書館年鑑2019』によると、日本の公共図書館の数は2018年(平成30)4月時点で3296、蔵書総数は4億4918万冊である。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
組織
すべての都道府県にはそれぞれ県立図書館にあたるものが設置されている。県立図書館は県内各図書館の中枢の役割を果たし、同時に図書館サービスの行き渡らない地域をも受け持つことになる。市町村立の図書館は地域住民に直接接する最前線であり、都市では中央館のほかに分館を設置したり、移動図書館車(ブックモビル)を使って全域のサービスを目ざしたりするところが多い。公共図書館のほとんどは、該当する都道府県、市町村の教育委員会の所轄下にある。近年では、業務委託や指定管理など、図書館業務の一部または全部をアウトソーシングするケースもみられる。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
資料
図書館での資料の種類は図書、雑誌などの印刷資料だけでなく、音楽資料、映像資料、さらには電子資料にもわたる。図書も点字本、大活字本とその幅が広がっている。そのほか、児童サービスでは紙芝居の利用も多い。郷土資料とよばれるものも、各図書館ではコーナーをつくって積極的に集めている。資料の選択・収集については各図書館とも内規をつくっているが、明確な方針を打ち出すことが望まれる。利用者からの要求が重なるので、公共図書館では複本の占める割合は小さくない。自由にすべての資料に接し、自分で手にとって選べるように配架する図書館がほとんどである。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
サービス
資料の貸出しと並んで重要な活動はレファレンスなどの情報サービスで、多くの図書館ではカウンターに専門の係を配している。このほか、展示会、講演会などの催しを開催しているところがあり、また児童室の多くで読み聞かせ(語り)や、ストーリー・テリングなどが行われている。最近では来館しなくても電子資料などがインターネット経由で利用できる電子図書館サービスを提供する図書館も増えつつある。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
ネットワーク
公共図書館は1館では資料を完全に網羅できないので、地域内あるいは広い範囲の協力体制を組まねばならない。東京都の場合、都立中央図書館(東京都港区麻布)と、市区町村立図書館がネットワークを形成している。国立国会図書館関西館(京都府精華町)には図書館協力課があって、全国の公共図書館網にサービスできるようになっている。公共図書館間の協力は、技術革新により大いに進み、全国システム、地域システムによる相互貸借が可能となっている。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
図書館の自由
日本図書館協会は1954年(昭和29)の総会で「図書館の自由に関する宣言」を決議した(1979年改訂)。
そこには、
(1)図書館は資料収集の自由を有する
(2)図書館は資料提供の自由を有する
(3)図書館は利用者の秘密を守る
(4)図書館はすべての検閲に反対する
図書館の自由が侵されるときは、団結して、あくまでも自由を守る
とうたっている。これに基づく「図書館員の倫理綱領」は1980年の総会で決議採択された。
アメリカでも「図書館権利憲章」が1948年に決められている。
[藤野幸雄・野口武悟 2021年1月21日]
『日本図書館協会編・刊『市民の図書館』増補版(1976)』▽『森耕一著『公立図書館の歴史と現在』(1986・日本図書館協会)』▽『藤野幸雄著『現代の図書館――図書館概説』(1998・勉誠社)』▽『日本図書館情報学会研究委員会編『公共図書館運営の新たな動向』(2018・勉誠社)』