日本大百科全書(ニッポニカ) 「公害防止産業」の意味・わかりやすい解説
公害防止産業
こうがいぼうしさんぎょう
公害を除去、軽減、防止するための装置、機器等を生産、設置する産業。具体的には、集塵(しゅうじん)・重油脱硫・排煙脱硫・排ガス処理をはじめとする大気汚染防止装置、工業廃水・下水汚水・屎尿(しにょう)・汚泥を処理する水質汚濁防止装置、都市ゴミ焼却装置、そして騒音振動防止装置等が主要な製品、装置である。
高度成長期以降、重化学工業の進展に伴って、重化学工業から排出される有毒ガスや有害汚染物質が著しく増大している。公害発生源が巨大化、複合化し、生産活動にとどまらず、モータリゼーション(自動車交通の発達)に伴う排気ガス、都市生活から排出される粉塵や糞尿(ふんにょう)などが環境汚染を深刻化している。環境汚染の進行に伴い、環境保護、自然環境の浄化が重要視され、環境汚染に対する規制が強化されている。1967年(昭和42)には「公害対策基本法」が制定され、1971年には環境庁が設置されるなど制度面の整備が進行している。地方自治体等は、公害発生型プラントの誘致や存在を制限するため、環境基準、排水基準等公害関連規則を厳しいものにしている。公害防止規制の強化とともに、公害防止装置や機器への需要が徐々に増大し、公害防止産業は、基盤を拡充することになり、成長産業として注目されるに至っている。
大気汚染防止のための重油脱硫装置、排ガス脱硫装置、高層煙突等、水汚染防止用の活性汚泥処理装置、イオン交換装置、油水分離装置、濾過(ろか)装置等、廃棄物処理用の焼却炉等が代表的な公害防止用の装置、機器であり、優れた環境汚染防止機器が次々に開発されてきている。公害防止技術を開発、生産、ないし、設置、販売してきたのは、プラント機器メーカー、エンジニアリング企業、プラントユーザー等で、専業というより兼業形態の事例が多かった。こうした公害防止産業の台頭にもかかわらず、環境破壊は深刻さの度合いを深め、環境問題が複雑化、多様化している。
他方で、環境問題の深刻化に対処するための環境保全対策が高度化している。1990年代には、大量生産、大量消費、大量廃棄という社会経済システムのあり方が疑問視され、持続可能な発展のための社会経済システムの構築が課題とされた。1990年(平成2)には「地球温暖化防止行動計画」が打ち出され、廃棄物処理、リサイクルガイドラインが確認されている。1993年には「環境基本法」が制定され、環境政策が充実し、環境およびリサイクル関連法が次々に施行され、環境関連法の整備が進展している。なおも、1994年には、通商産業省(現、経済産業省)は、「産業環境ビジョン」を作成し、環境負荷の低減を担う産業を環境産業であるとした。具体的には、環境産業を、環境調和型企業活動を支援するための公害防止装置の生産、関連サービスを提供する環境支援関連分野、廃棄物処理・リサイクル関連分野、環境修復・環境創造関連分野、エネルギー効率の向上、省エネルギー化に資する環境調和型エネルギー関連分野、環境調和型製品関連分野、環境調和型生産プロセス関連分野等を包摂する事業として位置づけている。また、日本標準産業分類の中分類に他に分類されないサービス業として廃棄物処理業が掲げられている。すなわち、公害防止のための装置や機器の生産にとどまらず、環境負荷の少ない製品の開発、関連サービスの提供、新たな社会基盤整備までを含む広範な産業領域の胎動に注目し、環境保全対策を担う産業を環境産業として位置づけている。2000年(平成12)には、「循環型社会形成推進基本法」を基盤に、各種リサイクル法が整備され、省資源、体系的なリサイクル対策が試みられている。2001年には、環境省が設置されているが、環境保全に資する装置、機器、サービス等を提供する環境ビジネス、ないし、環境産業の環境への負荷の少ない持続可能な社会経済システムの形成に果たす役割はいっそう重要となり、関連市場が急拡大している。
経済協力開発機構(OECD)は、環境汚染を防止する装置および汚染防止用資材の製造、サービスの提供、環境負荷低減技術および製品の開発や生産、資源の有効利用関連の3事業分野を環境ビジネスとして定義している。日本の環境省も、それに倣い環境ビジネス、環境産業を、環境汚染防止用資材の製造、サービスの提供、環境負荷低減技術および製品の開発と生産、資源有効利用事業の3事業分野を含むものとしていたが、2011年より、環境汚染防止、地球温暖化対策、廃棄物処理・資源有効利用、自然環境保全に関連する4事業を軸に市場規模等を推計している。そして、2011年の環境産業の市場規模は約82兆円、雇用者数約236万人、2012年の市場規模は約86兆円、雇用者数約243万人との試算を公表している。
[大西勝明]