日本大百科全書(ニッポニカ) 「廃棄物処理」の意味・わかりやすい解説
廃棄物処理
はいきぶつしょり
waste management
生活環境を保全するためおよび公衆衛生の向上のために屎尿(しにょう)、ごみ、産業廃棄物などを保管、収集、運搬、中間処理、あるいは最終処分すること。
廃棄物
廃棄物とは、所有者が自ら利用し、または他人に有償で売却することができないために不要になった物。一般には、他人に有償で売却できない不要物をいう。法律的な定義は、「廃棄物の処理及び清掃に関する法律」(昭和45年法律第137号、以下、廃棄物処理法という)のなかで規定されており、「廃棄物」とは、「ごみ、粗大ごみ、燃え殻、汚泥、ふん尿、廃油、廃酸、廃アルカリ、動物の死体その他の汚物又は不要物であって、固形状又は液状のもの(放射性物質及びこれによって汚染された物を除く)」(廃棄物処理法第2条1項)と定義されている。また「放射性廃棄物」とは放射性物質およびこれによって汚染された物をいい、その取扱いは特別法により規制されている。
なお、「港湾・河川等の浚渫(しゅんせつ)に伴って生ずる土砂その他これに類するもの、漁業活動に伴って漁網にかかった水産動植物等であって、当該漁業活動を行った現場付近において排出されたもの、土砂及びもっぱら土地造成の目的となる土砂に準ずるもの」も、「廃棄物処理法」の廃棄物からは除かれている。
[田中 勝]
廃棄物の種類
「廃棄物処理法」では、廃棄物を「産業廃棄物」と「一般廃棄物」の2種類に分けている。「産業廃棄物」は、事業活動に伴って生じた廃棄物のうち、量的に大量に発生するもの、質的に環境汚染の原因となる可能性のあるものをいい、燃え殻、汚泥、廃油、廃酸、廃アルカリ、廃プラスチックなど20種類の廃棄物をさす。「産業廃棄物」以外の廃棄物が「一般廃棄物」である。
[田中 勝]
特別管理廃棄物
廃棄物処理法では、一般廃棄物、産業廃棄物について、爆発性、感染性その他、人の健康または生活環境にかかわる被害を生じるおそれがある性状を有する廃棄物を特別管理廃棄物と規定して、特別の管理を行うこととしている。特別管理廃棄物は、特別管理一般廃棄物と特別管理産業廃棄物に分かれる。
特別管理一般廃棄物としては、ポリ塩化ビフェニル(PCB)使用部品、ごみ焼却施設からの煤塵(ばいじん)および感染性一般廃棄物が指定されている。特別管理産業廃棄物としては、廃油(タールピッチ類など)、廃酸(pH(ペーハー)2.0以下のもの)、廃アルカリ(pH12.5以上のもの)、感染性産業廃棄物などがあり、なかでも特定有害産業廃棄物として、PCB廃棄物、廃石綿等が指定されている。特別管理廃棄物は、排出の段階から処理・処分されるまでの間、つねに注意して取り扱わなければならないものとして処理方法などが別に定められている。
[田中 勝]
処理・処分
収集、運搬された廃棄物は、中間処理が施される。中間処理とは、廃棄物の最終処分に先だって、周辺環境や人の健康に障害が生じないようにするために行われる人為的な操作をいう。中間処理には、廃棄物を(1)無害化、(2)減容化、(3)安定化、(4)資源化するという四つの目的がある。その具体的な方法としては、主として無害化、安定化のための焼却、中和、溶融、主として減容化のための脱水、破砕、圧縮などがある。これらは、単独で行われることは少なく、一つの目的のための処理は多少なりともほかの目的のための処理を兼ねることが普通である。
最終処分とは、廃棄物を最終的に自然環境に還元することをいう。その方法として、埋立て処分および海洋投入処分があり、法令により一定の処理基準が定められている(海洋投棄処分は、2007年から原則禁止)。自然環境に還元する手段には、前記のほかに、公共水域に排出すること、および排ガスを大気中に放出することも考えられ、廃棄物を再生利用することによって有用物に転換させることも広義の最終処分の範囲と考えられる。
埋立て処分場の種類としては、安定型処分場、管理型処分場、遮断型処分場がある。安定型処分場は、廃プラスチック類、ゴムくず、金属くず、ガラスおよび陶磁器くず、建設廃材の安定5品目のみの処分に利用され、これ以外の廃棄物が混入してはならない。遮断型処分場は、水銀、カドミウム、鉛、六価クロム、ヒ素、シアンなどの有害物質を含み、溶出試験において判定基準に適合しないもの、すなわち特別管理産業廃棄物の処分に利用される。管理型処分場は、それ以外の廃棄物の処分に利用され、浸出水が外部に漏出しないよう遮水構造とすること、浸出水処理施設を設けること、埋立て時に灰などが飛散しないよう覆土することなどが義務づけられている。
産業廃棄物は、その性状が多様で、自然還元の時間が非常に長くかかるもの、還元の過程において環境汚染上の問題を生ずるものも少なくないので、それを無害化し、安定化する必要がある。また、日本は、国土が狭小であるうえに廃棄物の処分先として求めることができる場所は非常に限定されるので、最終処分量を最少化する努力が求められている。
[田中 勝]
廃棄物関連法規の制定、改正の動向
廃棄物処理法
1970年(昭和45)に制定された廃棄物処理法は、生活環境の保全と公衆衛生の向上を図ることを目的にして、廃棄物の定義や処理責任の所在、処理方法、処理施設、処理基準などを定めた法律。1991年(平成3)、1997年、2000年(平成12)の3回にわたって大きな改正が行われた。
1991年には、廃棄物の減量化・再生の推進、廃棄物の適正処理の確保、処理施設の確保の3点を柱とした大改正が行われた。この改正により、排出事業者が特別管理産業廃棄物の処理を委託する際、廃棄物の種類、数量、排出事業者の氏名等を記載した管理票(マニフェスト)を使用し、廃棄物とともに流通させることが排出事業者に対して義務づけられた。これにより廃棄物の時間的・空間的移動の管理が強化され、廃棄物の適正処理の確保、不法投棄の防止等が図られた。
1997年の改正では、(1)規制緩和等による減量化・リサイクルの推進、(2)処理施設の設置許可手続の明確化、施設維持管理の適正化による廃棄物処理の信頼性・安全性の向上、(3)罰則の強化、マニフェスト制度の対象をすべての産業廃棄物へ拡充、廃棄物によって汚染された土地の原状回復のための措置等の不法投棄対策、が盛り込まれた。
さらに2000年の改正では、(1)産業廃棄物の不適正処理対策として、排出事業者責任の徹底、マニフェスト制度の強化、(2)廃棄物処理に対する信頼確保に向けて、施設許可要件の強化、処理業の取消し事由の追加、(3)産業廃棄物処理における公共関与による安全・適正な施設整備の推進、等に関する条項が盛り込まれた。
[田中 勝]
リサイクル関連法制度の整備
循環型社会の構築に向けて、リサイクル関連法制度の整備が推進されている。1995年(平成7)には、容器包装廃棄物のリサイクル促進のための「容器包装リサイクル法」(容器包装に係る分別収集及び再商品化の促進等に関する法律)が成立した(1997年4月施行)。自治体がリサイクルの対象に選んだ容器包装類について、消費者は分別排出、市町村は分別収集、事業者には再商品化を義務づけ、一定の責任を負わせるものである。
1998年6月には廃家電製品のリサイクル促進を目ざして「家電リサイクル法」(特定家庭用機器再商品化法)が成立した(2001年4月施行)。法律の目的は、小売業者および製造業者等による使用済みの家電製品の収集・運搬、再商品化等を適正かつ円滑に実施するための措置を講ずることにより、廃棄された家電製品の適正な処理と、資源の有効な利用を図ることである。対象は、テレビ(ブラウン管式、液晶・プラズマ式)、冷蔵庫・冷凍庫、洗濯機・衣類乾燥機、エアコンの4品目である。
2000年(平成12)には循環型社会形成に向けた施策の基本となる事項を定めた「循環型社会形成推進基本法」、建設廃棄物のリサイクルについて定めた「建設リサイクル法」(建設工事に係る資材の再資源化等に関する法律)、食品廃棄物のリサイクルについて定めた「食品リサイクル法」(食品循環資源の再生利用等の促進に関する法律)などが成立した(2001年4月施行)。
さらに、2002年7月には、自動車の廃車時における適正処理と再資源化を推進することを目的として、「自動車リサイクル法」(使用済自動車の再資源化等に関する法律)が成立した(2005年完全施行)。使用済自動車のリサイクルと適正処理において、自動車メーカーや輸入、販売、解体などの関連事業者の役割と義務を定め、また消費者にもリサイクル費用の支払いを義務づけた。本法では、シュレッダーダスト(自動車粉砕くず)、フロン類、エアバッグ類、という3品目について、新たなリサイクル対応と適正処理を定めており、廃棄物の削減、不法投棄の防止、環境の保全を促進しようとしている。
[田中 勝]
ダイオキシン類対策特別措置法
廃棄物を焼却する際に発生して大きな社会問題となっているダイオキシン類の対策については、1999年(平成11)に「ダイオキシン類対策特別措置法」が制定された。このなかでダイオキシン類に関する大気、水質、土壌の環境基準、および耐容1日摂取量、排出ガスおよび排出水に関する規制値等、総合的対策が盛り込まれた。
[田中 勝]
『環境庁水質保全局企画課編『図説廃棄物処分基準』(1996・中央法規出版)』▽『田中勝著『新・廃棄物学入門』(2005・中央法規出版)』